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第五章
青空と海
「……ふわぁ」
眠くなっていた。私はまだまだ話し足りなかったけれど、でも刻限なんだね。
いつもの鳥籠の夢のように。眠りに落ちると、現実に目を覚ます。同じ、だよね?
「……ね、冬ちゃん」
真剣な表情の日向ちゃんが、私に問いかける。
「――ずっと、こうしていたくない?」
「……日向ちゃん?」
呑まれそうなくらい、強く見つめてくる。
「あ、ずっと教室の中ってわけじゃないよー? 街に繰り出したり、遠出だってしたりもしてさー?」
「……」
茶化すように言うけれど、私は彼が軽い思いで話しているとは……。
「……オレとさ、学園生活、やり直したくない?」
「……日向ちゃん」
軽くなんてない。彼の語る思いは――。
「……オレ、何もできなかった。キミが高校で辛い思いしていたのに。そのことばかり後悔していてさ……」
「そう……」
日向ちゃん、心配してくれているんだよね……それは、そうだとしても。
「日向ちゃん……ううん」
――ロルフ君、と。私は今の彼の名を呼んだ。
「……冬ちゃん?」
「……」
ロルフ君の顔が険しくなっている。私は見たことがなかったんじゃないかな……怖いとも思ってしまうけれど。
「私はシャーロット・ジェムとして生きてる。戻らないとだから」
新たな生を受けて、大変な毎日を生きている。
「待っている人たちがいるから」
冬花として生きていたら、平和ではあったんだ。あの時までは死に怯えることもなかった。でもね、シャーロットとして出会えた人たちもいるから。
愛しいあの子もね、待っていてくれるんだ。尻尾を振りながら。
「……」
「……」
『マジレスかーい!』とか、おどけることはない。彼はいたって真剣な表情。それほどまで悔いているのかな、私のことで……?
「ねえ、ロルフ君」
「……」
……ええと、今据わった目で見られたかな? 怖いけど、続けるね。
「私たち、もう簡単には会えなくなっちゃったよね」
あることによって、私は祖国にはいられなくなったから。ロルフ君と一緒に学園生活も送れなくなってしまって。私は寂しい。
「またこうして、夢で会えたらいいよね」
鳥籠の夢でもいい。君とお話しできたらって。
「……なら、願って。そうすれば」
――ぽつりと呟く彼。ようやく話してくれるようになった。私は続きを待つ。
「キミからもそうやって……そうして……続けてくれたら……辿りつき……やすく……」
「どうしたの……?」
声がノイズがかっているようだった。
「……!?」
視界が揺らぐ。
私の目の前にいるのはロルフ君――日向ちゃんの姿をした彼。
彼が、どんな表情をしているのか。私にはそれがわからない。
もう、わからない。
視界が閉じられていく。
目に映ったのは、晴天の空。
どこまでも青かった。
こわいくらいに。
「……はあはあ」
私は夢から覚めると、息が荒いことに気づく。寝汗がすごい、背中までびっしょりだった。
「……」
悪夢を見た後のそれ、だった。どうしてかはわからない。気の置けない相手との再会、そんな内容のはずなのに。
「すう、はあ……」
深呼吸を繰り返した。まだ夜が明けてない、暗闇の中。
「はあ……」
夜風が涼しかった。月の光を浴びた海は凪いでいる。
「シャーリー、大丈夫……?」
「リッカ……」
近くで寝ていたリッカが声を掛けていた。起こしちゃったのかな……のそのそと動きながら、私の方までやってきた。体をぴたりとくっつけてくれていた。ああ……。
「ありがとう。大丈夫だよ、リッカ」
大丈夫になった、だった。リッカの存在に私は安堵していた。私はリッカを抱きしめた。しばらくこうさせてね。
波の音がする。
寄せては返して。私はその音を聞き続けていた。
すると、次第に眠くなっていった。リッカも枕元に落ち着けて、寝る体勢になっていた。
「うん、おやすみ……」
冬の国とは違う、常夏の国で暮らしている。
――氷の力を持つ、元小さな魔法屋の店主。シャーロット・ジェムとして。
生きている。
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