春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

魔法の時間は過ぎていても


 浄化が進んだこともあり、私たちは海岸付近にある民家をお借りしていた。ララシアの皆さんもそこで暮らしている。庭先からすぐに海へ出られるこちら、絶景の海を見渡すことが出来る。

「おかえり、シャーリー!」
「ただいま、リッカ!」

 家に入るなり、リッカがお出迎えしてくれた……! 今日も頑張った甲斐があった……!
 ああ、リッカったら。お散歩セットを自分で持ってきちゃって。うんうん、張り切ってるね。尻尾がブンブンしているねぇ……!

 学園の寮と同様に、家の扉は解放していた。リッカ単独で外に出たりもしている。といっても、近場までにしてもらっている。都の中心部もまだ危ないし、外は暑いし。賢いリッカはわかってくれている。

「へっへっ、お散歩、行こう?」
「うん、行こう行こう!」

 それでもね、一緒に出掛けられるのは格別だよね? ね、リッカ?



 さあ、待ちに待ったお散歩の時間。海辺を歩くのが定番のコースとなっていた。
 私が歩き出すと、リッカも歩調を合わせてきた。ありがとね、今日もたくさん歩こうね。

 リッカは基本ゆっくり歩いてはくれるけれど、気紛れに動き出すこともあるから。彼の興味のあるがままに、歩き回る。

「わんっ」

 あ、綺麗な貝殻発見したね。あ、持って帰らないんだ。うんうん、そうだね。

 この国は暑いから。ほとんど日が落ちた中での散歩になった。エドワード君が言うには、冬の今だから夜でも過ごしやすいけれど、夏は中々大変なんだって。今は涼しいね、過ごしやすいよね、リッカ?

「マジックアワーは過ぎたけれど」

 空の色が混ざり合う時間ではないけれど。

「へっへっへっへっ」

 リッカがね、こっちを見ては嬉しそうにしてくれる時間。
 尊いね。
 こんな時間がね、とてもかけがえないの。
 空が綺麗だね。

「……わふっ」

 リッカがぴたりと、止まった。そうして眺めているのは、海。

 海も綺麗だ、私はそう思った。リッカもそう思っている。

「リッカ……」

 リッカはずっと眺めている。ずっと、ずっと。遠くを。そう、その先にあるのは。

「そっか……」

 遠くにあるのは――私たちの故郷、ダイヤノクト。色々、置いてきてしまった場所。これまでの暮らしはもう、こんなにも遠くにあって。
 リッカだって、大好きな人たちがいたものね。

「ねえ、リッカ。たまには、戻ってみる? ダイヤノクトに」

 アルトに連れてってもらって。待機期間が出来てしまうけれど、オーナーさんのところとか。リッカが特に懐いていた彼女になら。お礼の品も用意しておこうかな。

「……ダイヤノクトに?」
「そうだよ。リッカなら問題ないでしょ?」
「……」
「……リッカ?」

 悪い話じゃないと思っていたのに。リッカは下を向いてしまった。尻尾まで垂れ下がってしまっていて……。
 リッカは海の向こうをチラチラみては、なにかを考え込んでしまっている。私は何か余計なことを言ってしまったのかな……リッカに謝ろうとしていたところ。

「あのね、シャーリー」
「うん?」

 リッカが小さな声で話し始めていた。私はしゃがんで聞く。

「……僕、戻らなくてもいいの」
「え」
「ララシア、楽しいよ。優しい人たちもたくさん。みんなもね、遊びにきてくれる」
「リッカ……?」

 リッカはそうは言ってくれるけれど……。
 でも、なんだろ? 嘘ではなさそう。無理もしていなさそう。優しいこの子が気を遣ってというには、少し違う気が……。

「それとね、シャーリーとも一緒にいたいの」

 ――春まで、と。
 ……そっか、うん。

「……うん、そうだね。リッカ、一緒にいたいね」

 もし、もう繰り返しがなくなって――これからが続くとしたら。
 春になったら、この子は女神様の御許へ。

「ありがとう、リッカ――」



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