春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

リッカとケープ



 たくさん食べて、たくさん笑って。今日が終わろうとしている。

 私たちは家に戻ってきた。庭先に出て、ベンチに座りながら海風にあたっている。
 ……今日が終わろうとしている。

「……リッカ」

 私の隣に伏せているリッカ。彼が抱きしめているのは――私があげたケープだった。
 この国だと暑いね、と外したもの。それからはつけていなかったけれど。

「くーん……」

 リッカはぎゅっと離そうとしなかった。悲しそうに鳴きながら……。

「……僕、明日つけていたいの。ずっと」
「……うん」

 暑いよ、とはもう言わなかった。言えなかった。こういう時の為の氷の魔力、冷やしていればいい。

 明日、私の誕生日を迎えて。そして、夜を越えたら。

 ――リッカは女神様の元へ。

「……うん、そうだよ」

 春の訪れを告げる。
 それから事件が起こらない保証はないけれど……でも大丈夫な気がしていて。それは私の勝手な勘だった。期待感からともいえた。

「……あのね、シャーリー。僕、僕ね……」 

 リッカは何かを伝えたそうにしている。

「僕、僕はね……シャーリーとも、みんなとも、お別れしたくないの……」
「リッカ……」 

 リッカは涙をぽろぽろ流していた。悲しそうな声、その言葉に私の胸は締めつけられる。

「私も……私だって、そうだよ」

 側にいるのが当たり前になっていた。

 そんな子が。

 もう、いなくなる。会えなくなる。

「……」

 ……ううん。

「……強く願えば、思えば」
「……あ」

 リッカは顔を上げた。そうだよ、君の大好きな人のお言葉。

「私は願っている。だから、きっと逢えるよ……」
「……うん」

 ……ごめん、リッカ。言い聞かせに近かったんだ。私はそう自身に暗示を込めるように、だった。
 それでもね、強く願い続けて。信じ続けて。君がひょっこり現れてくれたらって、そう思っていたいの。

「リッカ、今からつける?」
「……うん!」

 尻尾を振って、リッカは喜んでくれた。
 ああ……こうして喜んでくれたのがね、本当に心が満たされていたの。君を可愛いって思う度に私は。
 幸せだったの。

 私は魔法で冷気を込めて、ケープをつけさせた。リボンもしっかり結ぶ。

「うん、似合ってる」
「へっへっへっへっ……」

 リッカは笑ってはくれたけれど、すぐに俯いた。私の膝の上に飛び乗ると、そこで丸くなった。

 私はこの子を撫で続けていた。モフモフ、ふわふわな毛並み。いつまでも撫でていたかった。





 腕時計の針がもう、今日の終わりを告げようとしている。チクタクと音を刻む。

「あ……」

 0時になった。

「……」
「……」

 今日が冬の最後の日。そして。

「……お誕生日、おめでとう。シャーリー」
「……ありがとう、リッカ」

 私の誕生日を迎えた。リッカがお祝いにと手を舐めてくれている。ふふ、くすぐったい。

「リッカ……」

 リッカはまだいてくれるんだ。冬はまだ終わってないから。

 そう冬は――。

「……?」

 冷たい風が吹いていた。突き刺すような冷たさ――一瞬にして凍えるほどの。

「さ、さ、さむっ……!」

 私の声に白い息が上がる。体もがたがた震えていた。この尋常でない寒さは、突然訪れたものだった……本当に唐突過ぎて。

「!」

 それどころじゃない、私はリッカの魔法を解除した。この子のケープには冷気が込められていたから。

「ごめんね、リッカ。寒かったよね――」
「……」

 ケープをまとったまま、リッカは立ち上がっていた。そのまま私の膝からも下りて、彼は海の方を見ている――いえ、海を越えた先の。

「……行かなくちゃ」

 それだけ呟くと、リッカは部屋から地面へと降り立って行った。そのまま駆けだしていって――。

「ど、どうしたの……!?」

 私は近くにあったショールを羽織って、彼に続くことにした。


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