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第五章
リッカを悩ます何か
「これでよし、と」
リッカのご飯を用意した。ちょっとゆっくりして、その後に学園に向かおうと考えていた。その間に私も支度を済ます、と。
「シャーリー……おはよう……」
小さな足音と共に、リッカが螺旋階段を下りてきた。眠そう、かな? ……こんなにゆっくりなのは。
「おはよう、リッカ。ほら、ご飯だよ」
「うん……」
リッカは匂いをクンクンと嗅いでいた。私はひとまずはホッとした。食欲はあるようだったから。
「……そう、なの。たくさん、食べるんだ。食べて、元気つけて」
「……リッカ?」
前にも言っていた言葉だった。でも、どうしたの……リッカ? なんだか様子が……。
「これから、学園に……歩いて」
そう言っているリッカの足取りが重くなっていた。
「学園、に……」
リッカの足がぴたりと止まる。それから動こうとしない。うん……様子がおかしい! 私はリッカの側に駆け寄っていく。
「あのね、あのね、シャーリー……」
リッカの声が震えていた。そんな彼は私を見上げて。
「僕……僕、ね。僕は――」
「リッカ!?」
リッカが――吐いた。何度も吐き出している。
「ああ……」
私の顔は真っ青になった。リッカが、苦しそう……! 背中をさすっても、それでも意味がなくて……!
「リッカ、リッカ……!」
ど、どうしよう……! 私じゃ、私じゃ……! 今から獣医さんのところか――。
「あ……!」
店のオーナーでもある、ベテラン薬師の彼女……! 彼女も動物は専門じゃないけれど、それでも私はもう、そのことしか頭になくて――。
「――すみません、シャーロット・ジェムです……! 朝早くから、すみません……!」
自分では声を落ち着けたつもりでも、実際は荒ぶってしまっていたと思う。それでも。
「おや、シャーロットちゃん? ……おやおや」
それでも、オーナーさんは優しかった。嫌な顔をすることもなく、家に招き入れてくださった。そして、異変を察した彼女はリッカを抱えた。
「……そうかい、そうかい」
リッカをあやすように体ごと揺らしている。そして、大丈夫大丈夫、と語りかけてもいて。
「……え」
淡く、光った気がした。
「ばあばがついているからねぇ――リッカちゃん」
「はい……」
このような二人のやりとりが――不思議だった。
オーナーさんはリッカを落ち着かせていた、それに徹していた。でも、そのことによって、リッカは楽になっているようだった。呼吸も落ち着いている。
「安心おし――リッカちゃんは大丈夫だよ」
オーナーさんから動物用?のかな、カプセル状の薬をリッカは飲まされていた。
「すうすう……」
安心しきったかのように、リッカは腕の中で眠っていた。
「あ……」
リッカが、リッカが大丈夫なら……。
「あ、ありがとうございました……」
取り乱していた私も、ようやく心を落ち着けた。良かった、本当に良かった……。
「でもどうして急に……」
なにか病気か……それともメンタルか。
リッカは確か――学園、そのことに関することを口にしてからだった。
「そうなのかな……?」
リッカ、君は……学園に行きたくないの?
学園に――君を悩ます何かがあるというの?
「……」
リッカを学園に連れて行く、それはやめた方が良さそうだった。こんな辛い思い、させたくない。そう私は判断した。
なら、私だって学園に行かなくとも――。
「リッカちゃん、村でばあばとゆっくりするかい?」
リッカは眠ったままだったけれど、体を摺り寄せていた。無意識か、それとも彼が望んでいたからか。
「うん、そうしようね? シャーロットちゃん、こっちは心配しなくていいんだよ? ばあばが面倒みるからねぇ?」
「それは有難いのですが……」
オーナーさんに面倒をみてもらうと。いつもよくしてくださっていて、これ以上甘えるのも、申し訳なくて……。
「リッカちゃんが落ち着くまで。ね、シャーロットちゃん?」
オーナーさんのご厚意。リッカとも離れたくないし、心配にもなるけれど。
「……はい」
リッカを悩ます何かが、学園にある可能性だってある。それなら。
「リッカ、できるだけ帰ってくるからね?」
「シャーリー……」
リッカの寝言だとは思う。それでも私は何ともいえない気持ちになってしまった。
「本当に……ありがとうございます。発つのは明日にしようと思います。それから――」
学園には早朝に向かえばいい話。私はお世話になるということで、家からご飯とかトイレセットとか色々持ってくることにした。
オーナーさんの家で、私もゆっくりさせてもらうことにした。
起きたリッカは本調子ではなかったけれど、一緒にいた。ご飯も少しずつ食べてくれたね。
夕方のお散歩、川のほとりで並んでぼうっとしたりして。帰ると、オーナーさんと一緒にご飯も作ったりして。
リッカは次第に尻尾を振る回数が増えていた。こうしていると、いつもの元気な君なんだ。そう、学園のことがなければ……。
眠るのは私の部屋、いつものベッドだった。
私の足元で毛布にくるまるワンコ。すやすやと眠っている。この重みともしばし別れなんだね……。
「リッカ……」
また一緒にいられる日々の為に。私は彼を想って、瞳を閉じた――。
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