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第五章
まさかのジュッツェさん
「――夜分遅くにごめんなさい、ジェムさん」
「こ、こんばんは……?」
『はい、こんばんは』と、はにかむ綺麗な人。まさかのジュッツェさんだった。
「……」
ええと、わからない。どうしてこの人が訪れたのか。手には何かを抱えているようだった。ひとまずは。
「その、冷えますし。寮内に入りませんか?」
冬だから。ダイヤノクト正真正銘の冬の時期、私たちの吐く息が白いこと。
「それはさすがに悪いよ。ううん、こうして訪れたのも不躾だったかな……」
「いえ、そんなことは……でも、どうされたのですか?」
中に入らないとなると、長話もなんだし。私は寒さに耐性はあるけど、この人は寒そうに――。
「……」
全然寒そうじゃないね? むしろ私の方が体を震わせているくらい。ジュッツェさん、全く動じもしない。平然としている。
「……あ、そっか。ジェムさん、冷えるよね。僕のコート、着る?」
やせ我慢とかでもないのかな? 某リヒターさんも正直に寒いと言うほど、冷える夜なのに。というか、それは申し訳ない、遠慮したい。
「いえいえ、私は全然」
「まあまあ、着といて? うん、これも」
「いえ、本当に――」
私が遠慮している間に――気がつけば、コートを着せられていて。おまけに、マフラーまできゅっと結ばれていた。彼は善意でやったことと、笑顔でいる。
「……うーん、もっとブカブカになると思ってたのに」
笑顔から、眉を下げた表情となっていた。なんだか納得がいってないような?
「そこまで身長差と体格差が無いからかな……ううん、背はそれなりに差があるはず」
「……」
ええと、なんだろ。なんなんだろ。なんだか私、ダメージ食らっているような?
「っと、そうだった。こちら、ジェムさんに渡しておきたくて」
ジュッツェさんが両手で差し出してくださったもの、包み。
「これこそ不躾かもだけど、結構女神様関連の本、借りていたよね?」
「ええ、はい……」
そっか。この包みの中、本なのかな?
「僕の私物だけれど、良かったら。ゆっくり読んでくれていいから」
「え、いいんですか?」
「うん、もちろん。迷惑だったら今、返してくれてもいいし」
「いえいえ、迷惑だなんて……」
そんな、突っ返すかのようなこと……! ジュッツェさん、春の女神様が大好きということは存じていた。それで布教ということで、貸してくださったのかな?
「ありがとうございます……出来るだけ、すぐにお返しするようにしますね」
私はご厚意に甘えることにした。知りたいのも本当だから。どのような本なのかな。成り立ち? 神話? 可愛い眷属の話とかあったり――。
「中身は――女神様が気に入られている、花園のこととかもね」
「……え」
彼はあっさりとネタバラシをしてきた……ううん、待って。あの……ガイドムック、ゆかりの地に関連するものって。
ピンポイントにそれ、なの……?
「僕がずっと大切にしていた本、大好きな逸話があるんだ」
「そ、そうなんですね……」
「うん。あまり伝わってない話。それに、ジェムさんも気になっているんでしょ?」
そう、そういうことですよね……? それにそう、ガイドムックも借りているくらいだから。そりゃ、行きたいのかな、調べたいのかなともなるよね? 私は変に考え過ぎていて――。
「はい」
「うん、そうだよね」
「……ジュッツェさん?」
断言している彼、私はどうしてかわからない。不安げに彼の名を呼ぶと。
「それ。噛まないように意識しているけれど、言いづらいよね?」
『僕の名字は』って、彼は言う。
「エミル、でいいよ。わりと皆、そう呼んでるから」
「それは、ええ……」
それは前にも言われたことがあった。その時だけ、私はエミルさんと呼んではいた。今は突然名前呼びは不自然かな、というのと……私自身が不慣れなこともあったから。名前呼び。
「ね? ジェムさん?」
「……はい」
笑顔で念押されたのかな、今? 私の呼び名は姓の方だけれど、私はそれでいいかな。
「はい、エミルさん……」
人様の名を噛むよりは、なのかも。私はいずれ慣れるだろうと、名前で呼ばせてもらうことに。ジュッツェさん……エミルさんも微笑んでいる。
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