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第五章
獣人族だから
「エミルさん……?」
制服姿ではなく、私服の彼。まっさらな白いシャツに、ズボンというシンプルな装いの。
「貴女は……」
向こうも驚いているようだった。それで、こっちに近寄ろうとして。
「きゃあっ!」
小さな子たちが声を上げていた。私の後ろで怯えてきってしまっている。
「ま、魔物だ……!」
一番上の子が、そう叫ぶ――エミルさんを見て。
猫の獣耳をもつ、獣人だからと。見慣れないのもあるにせよ、それはさすがに……。
「……あのね、あの人はね?」
私だって学園に来るまでは、そうそう接する機会もなかった。驚くのもわかりはする。でも、エミルさん自体は至って普通の人。私はやんわり説明しようとした。
「……。驚かせて、ごめんね?」
そこで、だった。エミルさんは、子供たちに合わせて体を屈ませて――それから微笑んだ。なんとも優美なもの、子供たちの震えも止まっていた。
「僕はね、助けにきたんだ。お父さんとお母さん、待っているよ?」
その言葉に、子供たちは前に出た。エミルさんは、うん、と柔らかく頷いていた。嬉しくなった子供たちは、エミルさんに近寄っていく。
「おお……」
私は単純にすごいと思っていた。子供たちの強張りは解けていた。というか、すっかり懐いているともいうか。
子供たちは、エミルさんの耳を触ったりもしていた。『モフモフー』とも口々にしていたり。
「おお……」
モフモフ……モフモフしているんだ、そっか……。
「さあ、待っている二人のところに行こうか?」
ご両親のところに連れて行こうとしているんだ。
「ありがとうございました、エミルさん」
きっと私より土地勘もある。助かったと、私は心から感謝したくなっていた。
「……」
そんな私を、エミルさんはしばらく見ていた。それから、言いづらそうに口を開く。
「……その、ジェムさんも」
「……よろしくお願いします」
エミルさんは、私も連れていってくださるみたい。でも……なんというか。神妙な顔つきでもあった。私に対して、何かを言いたそうにもしているというか……。
禁足地から出ると、また森が続いていた。濃い霧もずっと続いたまま。
「……」
先頭を歩くエミルさんは、意識をすごく集中していた。迂闊に話しかけられないほどで。私たちは沈黙したまま、彼らについていく。
そこを抜けると、私たちは辿り着いた。
秘境ともいえる、集落地。獣耳を生やした人たちが暮らしている――獣人族の里に。
「おとうさぁん、おかあさぁぁん!」
入口付近にて、待っていたのはご両親だった。子供たちは真っ先に駆け寄っては、抱きつく。一番上の子も、たくさん頑張って我慢していたんだろうね。泣くのを隠すことはなかった。
「ああ……なんてお礼を言ったらいいのか……」
お母さんらしき方が、私、そしてエミルさんと順々に見ていた。
ううん、私じゃない。エミルさんに助けてもらったんだ。感謝はエミルさんにこそ。私は彼にお礼を言おうとしたところ。
「お礼は結構です。これに凝りて、無断侵入はしないと。そう誓ってくだされば」
……って、微笑みながら仰るけれど。その、圧というか……。
「……はい」
「……すみませんした」
うん、圧がすごい……ご両親も萎縮していた。
「まあ、お疲れでしょうし。泊まるところにご案内します。こちらへ」
「何から何までありがとうございます……」
エミルさんは入口近くに点在している小屋の一つ、そこに通すことにしていた。もう夜だから、ということなのかな。一家がお礼をしていた。
「ジェムさんは、別の家に案内するね」
「私までありがとうございます……」
すみません、お気を遣わせて。私も一礼した。
今晩はお世話になるとして、明日にでも発とう。授業サボりに続いて、無断外泊。戻ったら全力でお詫びしないと……各方面に!
「――そうだ。二点、お話しておきますね。まず、ますます霧が濃くなると思われます。その為、弱まるまでは滞在願います」
「「「え!」」」
私もそうだし、お仕事があるであろう両親たちも声を上げてしまった。
「仕方ないでしょう? 原因はそちらにあるのですから」
正論ではあった。エミルさんの仰る通りなんだ。私たちが踏み入れて、迷った結果でもあるのだから。
一緒にいられると、すっかり安心している子供たちの存在もあった。私たちは異を唱えることはなくなった。
「そして、大事なことです。皆さんは入口付近に留まってください。ここから奥の居住区、さらに――中央部には決して、入らないこと」
エミルさんが指すのは、大木のアーチがあるところ。そこを越えたところが、居住区という。そして、彼が強く禁ずるのが――集落の中央部に踏み入れないこと。
「中央部は神聖なる地とされています。禁を破られたら……その身の保証は出来ませんから」
笑みが消失したエミルさん、私たちの喉がゴクリと鳴る。それから何度も頷いた。
私たちはしばらくお世話になる。エミルさんの忠告通り、居住区、そして中央部には近寄らないこと。
「今晩は保存食でご容赦ください。明日以降の食料や衣類は持ってこさせます。他に入用のものがありましたら、世話役にご相談ください。どうぞご遠慮なく」
「本当にすみません……」
至れり尽くせりというべきか……私は恐縮してしまっていた。エミルさんたちに迷惑をかけたのはこちら側だというのに。
「起こってしまったことだから。気にしないで」
「はい……」
エミルさんは端的に返してきた。それが逆に助かったりもした……気持ち的に。
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