春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
392 / 557
第五章

遠慮なく、ね?


 エミルさんの足が止まった。小屋が二棟並んでいる。その片方が、私がお世話になる家みたい。
 室内に通された。エミルさんは近くのランタンに灯りをともす。夜の灯となる。

「今晩は保存食でいいかな? 明日以降の食事とか、服とか心配しなくていいから。他に入用のものがあったら、遠慮なく言ってね?」
「ありがとうございます……?」
「隣にいるから。そこは安心してほしいな」
「本当にありがとうございます……ん?」

 色々と気になる点が、うん。

「エミルさんに、なんですか? ……違っていたらすみません」
「うん、そうだよ? ちょうど面識もあるし、相談しやすいかなって」
「それはそうですね……って、お隣って? もう一棟の方にですか? その、エミルさんって、住まわれているんですか?」
「そうだし、違うとも。僕の本邸は居住区の方だけど。貴女が留まるまでは、こちらにいようかなって」

 ね、と微笑んでくるものだから、私もつられるように笑った。エミルさんの笑みは深くなる。

 うん……善意なんだ。善意、親切心。私も顔見知りの方でもあるから、有り難くもあった。
 最低限だけお世話になることにしよう。というか、泊まる場所のご提供だけでも大助かりともいえるから。

「遠慮なく、ね?」

 私がそう思っていた時に、エミルさんは念を押すかのように笑いかけてきた。あの有無を言わさない笑顔で……。

「はい、お世話になります……」

 下手に遠慮しまくる方が、エミルさんは気分を悪くしそうだった。

「あと……うん、そうだね。学園の方にも文を送っておくね。僕も休むことになるから」

 少しばかり――何かを考え込んでいたようだった。それはともかくとして、エミルさんはそうしてくださると。

「……」 

 エミルさんは瞳を伏せていた。その表情も気がかりだけれど、ここは彼を信じてと。

「ありがとうございます。そうなんですね」

 ひとまず、私の居場所を知らせることはできた。一安心だった。

 それにしても、エミルさんも休むとなる。霧が深いからかな。というか……エミルさん、この距離を通っているのかな。あまりにも遠すぎるというか。

「……あ。僕は都の方に下宿しているんだ。今回はまあ……たまたま、うん、たまたま帰ってきたというか」
「そうだったんですね」

 そのほうが現実的ですよね。さすがにこの距離は……。

「……っと、このへんにしないと。そうだ、ジェムさんにさらにお願いしたいことが」
「私にですか?」

 もう切り上げる気にはなったようだけれど、お話があるようだった。かなり深刻そうな表情をしている。

「――遠慮なく、僕を頼ってね」
「……?」

 重々しく、エミルさんは伝えてくる。こんなにも真剣に。

「困ったことになったら、僕を呼んで。すぐに駆けつけるから」
「はい……」

 私のことを心配してくださっているのはわかる。私も素直に応じた。大人しくしているのが賢明だとも思った。

「良かった、聞き入れてくれて。夜這いされかねないから、僕、心配で心配で」
「よ、よば……」

 エミルさんの上品な口元から、その言葉が飛び出たのも驚愕で……。
 ……待って、そんな可能性がゼロではないというの。私は口があんぐりしてしまっていた。

「……ああ、説明しておくね。同世代の子が迷い込んできた、ってもう広まってしまっていてね。近頃、『人間族』を迎え入れようという動きもあって――」

 『いや、これ以上は――』と、エミルさんは口を閉ざした。でも、私は彼が言わんとしていることがわかった。
 ――獣人族の伴侶に、人間族、私のようなのも選択肢に入れようと。

「……うん、まあ、うん。その話をさておいても、年頃の子もそこそこいるから……貴女の方からも警戒しておいてね」
「はい、わかりました」

 人間だからこそ、ってことだよね。

「……」

 私はそれとなくエミルさんを見た。うん、エミルさんはそういうことはしなさそう。とても結びつかないともいうか。
 今度こそ話がついたと、エミルさんは扉に手をかける。このまま隣家に向かうようだった。

「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

 私は隣の家に入っていくエミルさんを見送っていた。彼は困り顔になった。

「……もう、ジェムさん。家に入ってくれないかな。僕は見届けたいのに」
「いえいえ。たくさんお世話になっている身としては」
「そんな気にしなくても。ほら、ジェムさん」
「エミルさんこそ……って」

 このやりとりって……。

「ははっ、なんだろうね。このやりとり」
「確かに――」

 エミルさんは先程のように呆れた笑いをしていると、私は思っていた。思っていたのに。

「貴女といると……なんだろうね、不思議な感じがする」
「……」
「本当にどうしてなんだろう……」

 あまりにも綺麗に笑うものだから……私の心はざわついてしまっていた。

「ジェムさん、ゆっくり休んでね」

 エミルさんの方から扉は閉じられた。私も惚けている場合じゃない。扉を閉め、彼の忠告に従ってしっかり施錠もした。
 ……人間だからって、夜這いって。それは流石に考え過ぎかな、私は正直そう思っていた。とはいえ、エミルさんのご忠告は聞いておこう。

「ふう……」

 私は溜息をつくと、扉を背にもたれかかった。
 とりあえずね、ご家族も無事で良かった。私も助けていただいたわけで。
 しばらくはこちらでお世話になることになる。憶測ではあるけれど――エミルさんの故郷、であるのかな。

 リッカの様子がおかしかったこと。その手がかりは掴めてはいない。

「うん、リッカの笑顔の為にも」

 頑張ろう。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。