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第五章
何から何までありがとうございます
「……ともかく。勝手に話を進めない。ジェムさんは同じ学園の生徒。そして、巻き添えをくらってしまった子」
「えー……でもさぁ、エミル兄は」
「下手な勘繰りはしない。ティム、僕の代わりに『報告』をお願い」
「ふーん。まあ、いいっすよ。二人きりにさせて、エミル兄に恩を着せるっす!」
「……馬鹿正直だなぁ。二人で報告に上がってもいいけどね? 道中の会話、楽しみだな」
ふふ、とエミルさんは軽やかに笑うけれど……。
「ひ、一人で行ってきますっ!」
それは余計に震撼させるというか、竦み上がった彼は単独で行くことにしたようだった。
「それじゃ……ええと、シャーロット姉? 名前合ってます?」
「!」
去り際にそう呼ばれ、私は驚いてしまった。うん、親しみを込めてだとは思う。
「……馴れ馴れしい」
この声、エミルさん? こんな低い声も出せるんだってくらい。
「っと、すみません! シャーロットさん、シャーロットさんで! そんじゃっ」
言い改めた彼は、逃げるように去って行った。というか、私、名乗りそびれてしまっていたな。あの彼は、ティムさんだったよね。うん、ティムさんで――。
「はあ、本当に馴れ馴れしい」
「す、すみません!」
思考でも読まれたかのようなタイミング、だったから。私は名字で言い直そうとした。名字、教えて貰おう……。
「ええと、ジェムさん? どうかしたの?」
「……いいえ」
エミルさんは本当にわからない、といった顔をしていた。そ、そうだよね。そんな思考を読むなんてこと、頻繁にあるものじゃないよね。
「あちらの彼、ティムさんですよね? 慕われているんですね」
「……」
エミルさん、面白くなさそうな表情をしていた。質問、まずかったのかな。
「仲良さそうだと思いまして……見た感じ」
「……あ、うん。昔からの付き合いだし、気兼ねなく付き合えるかな」
そう語るエミルさんは、優しい顔をしていた。偽りもなさそうな。
「そうなんですね。はい、そのような感じします」
私も安心した。エミルさんもいつもの彼になっていたよう。
すっかりティムさんの姿は見えなくなっていた……『報告』、彼らの中で何かあるのかな。
「それじゃ……ジェムさん。遅くなったけれど、おはよう」
「はい、おはようございます」
朝からも優雅な微笑みのエミルさん。佇まいも凛としていて、身だしなみも整っている。隙がとことん無い人だ。
対する私は。
「……あまり、眠れなかったんだね」
「はい……」
私は正直に打ち明けた。何度も目覚めてしまっていたから。
「うん。これもせっかくの機会だ。今日はゆっくり休んで、ね?」
「……お言葉は有難いです。でも、何かしたくはありまして」
「うん、その気持ちは受け取っておくから。ちゃんと眠れるようになってから。いいかな?」
「はい……」
私が頷くと、エミルさんも笑んだ。
「そういえば、エミルさん。あのご家族ですが……」
「うん、元気にやっているよ。うちの小さい子たちとも、すっかり仲良くなっているし」
「そうですか。良かった……」
私は心から安堵した。慣れない環境下、特に幼い子たちの心がどうなのかと。楽しそうなら、それに越したことはないから。
「……。夕ご飯、一緒に食べようか。ティムとか料理上手が多いから」
「わあ、いいんですか? それまでには復活してますね」
「手伝えるように?」
「はい、そうです」
私の考えは読まれていた。素直に認めた私に、エミルさんも笑っていた。
「ジェムさん、料理上手そうだな」
「いえ、それが……そこそこというか。無難です」
料理上手な幼馴染にも教わったり、自炊で経験も積んできた。辿り着いたのは、『そこそこ』な腕前。
それでも美味しい、美味しいと食べてくれたリッカのことを思い出す。そうだね、もっと腕を上げないと。
リッカ……元気かな。
「そうなんだ。僕もそこそこ」
エミルさんは照れ笑いをする。意外、料理とかも優雅にこなしそうだったから。
「そうなんですね。エミルさんこそ、料理上手なイメージ持ってました」
「ううん、まだまだ。でも、そう思ってくれたなら。僕も張り切ろうかな」
「料理を振るまってくださるんですか?」
「うん」
「いいですね!」
「……期待値上げられてるなぁ。なら、尚更張り切らないと」
楽しみな私に、満更でもないエミルさん。どんな料理なんだろう。
「それじゃ、ジェムさんには寝ててもらうわけで。快眠出来そうな香があったから。家から取ってくるね?」
「何から何までありがとうございます――」
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