春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
398 / 557
第五章

かけがえのない時間

しおりを挟む

 レイチェルさんたちが振る舞ってくださった。片付けは私たちの方で引き受けることにした。桶に水を汲んできたので、私たちはしゃがみながら食器の洗い物を――。

「あ」

 エミルさんの抜けた声の後、食器が割れた音がした。私は音につられてみると、両手を所在なさげにあげている彼の姿があった。

「ごめん……つい、手が滑ってしまって」
「いえいえ、お怪我がなければそれで――」
「あ!」

 と、今度はエミルさんの叫び声。立て続けに割れるは食器……。

「ごめん……つい。食器が勝手に」
「か、勝手にですか……そういう時もありますよね?」
「そうそう、そうなんだ」

 食器が勝手に割れることだって、不思議なことではないと――。

「……」
「……」

 それは無理があるなと思った。多分、エミルさんも思ってそう。彼の表情からして。

「……まだたくさんあるね。もっとペース上げるよ」

 エミルさんの指摘通り、始めたばかりでもあった。といっても、洗い物とゴミの片付けくらい。
 それにだった。私は木々の隙間から夜空を見上げる。

「提案ですけど、ゆっくりやりませんか?」
「え?」

 エミルさん、『大丈夫?』と言いたげな目で見てくる。

「まだ夜は長いですし。まったり片付ければと思いまして」

 就寝時間までまだ時間はあった。そんな私の提案だった。

「まったり?」
「はい、まったり。エミルさんのお勧めの本の話とか」
「春の女神様の本、ばかりになるけれど」
「いいですね」

 私だって大好きだから。笑顔で答えた。

「……そっか。うん、女神様もだけれど。他のジャンルもね?」
「はい、お願いします」

 私たちはゆっくりと食器を洗いながら、読書語りをしていく。

「……っと、エミルさん。もっと、ペース落として良いと思いますよ?」

 エミルさんの洗う手はまた速くなっていた。今もツルっと皿が飛び出しそうだっとので、私はすんでで受け止めた。

「ありがとう、ジェムさん。そっか、ゆっくりゆっくり……」
「はい」

 エミルさん、急ぎ気味なところがあるようだった。日頃忙しいのもあると思う。

「うん、そうだね。こういう時くらい、ゆっくりすればいいんだ」
「はい、そう思います。のんびりする時間ということで」
「うん……確かにもったいないよね。貴重な一時なんだから」

 エミルさんは深く頷くと、私の顔を覗き込んできた。

「は、はい。休める時には休むということで」

 こんなにも顔が近づくとなると、私は落ち着きなくなってきた。視線も彷徨ってしまう。

「それもあるけどね――」

 ――かけがえのない時間、と。エミルさんは綺麗に微笑んでいた。




 その後、片付けは終わらせた。食器は明日お返しすることになっていて、ゴミも収拾場所に置いてきた。
 そうして、お世話になっている小屋の前へ。あとはもう就寝するだけ。

「ジェムさん、ちょっと待っててくれる?」
「はい」

 エミルさんは一度、ご自宅に入っていた。そして、すぐに出てきた。

「子供達に貸しているのとは別の本。良かったらどうぞ」
「わあ、いいんですか」

 というか、すでお借りしているのに。事情も事情だからか、エミルさんは気にしないでと笑う。

「うん。気分転換にもなるかなって」
「ありがとうございます」

 手にしているのは数冊の本――絵本とか、文庫本。私はお礼を告げて受け取った。

「あ……」

 中には春の女神にまつわる絵本もあった。
 リッカとも読んだね……リッカ……。

「……ジェムさん?」

 つい、思い出に浸ってしまっていた。私は笑顔を作って、答えた。

「……いえ、読ませていただきますね。おやすみなさい、エミルさん」
「……うん、おやすみ」

 私たちはそれから互いの小屋に戻っていった。


 私はベッドに寝転んで、天井を見上げていた。部屋は暗闇。脳裏に浮かぶのはリッカの姿。

「リッカ……」

 いつになったら霧が晴れるのかな。私はまだ……手がかりを掴めていない。

「金糸雀隊に会ってから……金糸雀隊なのかな。リッカを憂鬱にさせるのは」

 彼らにしてやられるのは、今に始まったことではないけれど。それでもあの子があんなにも震えているのだから……。

「明日、色々聞いてみようかな。エミルさんなら教えてくれそう――」

 ……今のは何? 胸がざわってなったのは?

「うん、明日……」

 ぽつり、ぽつりと雨音がする。その音を聞きながら、私は眠りに落ちていった――。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。 ……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。 ※不定期更新です。

処理中です...