春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
400 / 557
第五章

雨の中のおはなし会


 私は今、あのご一家の元を訪れていた。

 あの後、読書に集中しようと思ったけれど。こう、世話になりっぱなしという事実が、頭をぐるぐるとしてしまっていた。気分転換も兼ねてということもだった。

「きゃー」
「あははは」

 子供達が室内を元気に走り回っていた。遊びにきた獣人の子供たちも一緒になって、だった。

「もう、静かにしなさい! ……うるさくて、ごめんなさいね?」
「いえいえっ! こちらも突然訪れてすみません」
「いえいえ。歓迎しますよ。ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます……」

 私はお茶を出されて、おもてなしを受けていた。お母さんと向い合せにテーブルに着いていた。子供たちは元気元気。

「じゃー、お姉ちゃん、絵本読んで―」

 私が持参してきた絵本に、子供たちの視線は集中していた。

「もちろん。じゃあ、みんな大人しく座ってね?」
「はーい」

 返事も元気良かった、それは良いことだよね。私が床に座ると、子供たちも囲む。私はゆっくりと絵本を読み始めた。ああ、目を輝かせている……可愛いなぁ……。



 しばらく読み進めていると、あるページが目につく。春の女神様の愛鳥でもある――一羽のカナリア。

 ……金糸雀隊のこと、聞いてみる? こんな無邪気に楽しんでいる子たち相手にだけど……。

「……ねえ、みんな? 金糸雀隊って知っている?」

 聞いてしまった。ああ、緊張する……これで知っているとか、色々語るとなると――。

「かなりあたい? なにそれー?」
「たい、ってなに? なーに?」

 獣人族の子たちがそう答えていた。本当に不思議そうにしていた。

「僕、カナリアは知っているよ。お姉ちゃんの髪の色と一緒なんだよ」
「わー、綺麗だねぇ。小鳥さん、かわいいよね」
「お米が大好きな鳥さんとか! とってもかわいいんだよー」
「鳥さん、雨の中ってどうしているのかなー?」

 可愛いけれど……脱線していく、話が大きく脱線していく。今、小鳥の話から、雨の話、でもってカエルの話にまでなっていった。えっと連想づいてはいるから、脱線ではないのかな?

「……そうなんだね」

 この子たちは、本当に金糸雀隊は知らない。そういう認識で合っているんだよね? うん、良かったのかな。小さな子を脅かしたりはしていないのなら。



 こうして絵本を読んでいく内に、子供たちもウトウトとしてきたみたい。彼らは体をくっつけあって、床に寝転んでいた。お母さんが立ち上がると、包むように毛布をかけていた。愛しげに子供たちを見つめている。

「……ふう、やっと静かな時間ね」

 と、言いつつも。その瞳はとても優しい。

 私たちは席に戻った。すやすやと眠る子供たちを眺めながら。

「さて、再開しようかしら」

 彼女が近くの箱から取り出したのは、洋裁セットだった。商売道具ともいう。

「そうね、シャーロットちゃんもやってみます?」
「私もですか?」

 既に完成品がいくつもあった。彼女が手がけたキルト製品、実に見事だった。

「うちの旦那もね、薪割りとか採取とか、狩りとか。そうして貢献しているんです。私も恩返しをしたくて」

 それで旦那さんがご不在だったんだ。お母さんの方は、作り上げたのをプレゼントするんだろうね。

 キルトは挑戦したことなかったな。うん、そうだ。私も。

「教えていただけますか? 私も作りたいです」
「ええ、もちろん。思いを込めて、作り上げる。さぞ喜んでくださることでしょう」
「はい、思いを込めて」

 私は素敵な考えだと思い、しっかりと頷いた。すると『まあ』と、目の前の女性は頬に両手を添えていた。ええと……?

「ええ、ええ……! 絶対に喜んでくれることでしょう……!」 
「!?」

 寝ている子を起こさないボリュームとはいえ、かなり興奮しているというか……!? そんな興奮する要素あった?

「――エミル君にあげるのでしょう?」
「え」

 私は単純に、子供たちが喜びそうな可愛いのを作るつもりだった。ここでエミルさんが――。

「あ、でも……そうですよね。一番お世話になっているのだから……」

 あれだけよくしてくださっているのに。忙しい合間を縫ってまで……ただの後輩に……。

「はい、エミルさんに作ります」
「そうそう、その意気よ」
「? そうですね。それで材料費とかですが、小屋にお金がありますので」
「いいのー、いいのよー? そうそう、子供たちと遊んでくれたお礼ってことで。さあ、作りましょ、そうしましょ」

 私以上にテンション高い、というか。張り切っているお母さん……?

 エミルさんが喜びそうなもの……うん、『アレ』にしようかな。そうしよう。

 私は彼女に教わりながら、雑談もしながら。贈り物を作り上げていく。

「……」

 お母さん、か。ふふ、お母さん……目の前の彼女にはバレないように、私は顔を綻ばせていた。



 夕ご飯時になったので、私たちはお開きとなった。あれだけ賑やかだったのが、こんなにも静かになっていた。

 雨はもう小ぶり、明日は晴れるのかな。私は傘を手に、歩いていく。

感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。