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第五章
穏やかな時間を共に
「――夕飯、一緒にどうかな?」
小屋に着いてしばらくして、エミルさんがやってきた。彼が手にしているのは、布に包まれたお弁当のようだった。美味しそうな匂いがしている。
「わあ、ごちそうになります」
「良かった。僕も張り切った甲斐があった」
私が笑うと、エミルさんも微笑んでいた。そう、エミルさんが用意してくださって――。
「……」
失礼だよ、私……そんな、内心で狼狽するだなんて。
「ジェムさん?」
「あ、いえ、なんでも! とても楽しみです、はい!」
エミルさんがきょとんとしている。そうだよ、わざわざ作ってくださったのなら、本当に有難い話じゃない。
「あー……」
エミルさんが困っているようだった。私、わざとらしかったかな?
「ごめん、ジェムさん……それ、出来あいのものなんだ。僕はその、詰めただけというか」
「あ」
……なるほど? 市販品を、と? あー、ああー……なるほどなるほど。
「エミルさん、どのみち食欲そそる匂いがしていますから。ありがとうございます、いただきますね?」
「そっか……うん、どこかで時間作ろうかな。僕のも食べて喜んでほしいし」
「あはは、ええ……」
エミルさんの瞳がキラキラしていた。この眩しさを前に、私は何を言えるのか。そう、そうだよ、エミルさんがその気なら。私の『贈り物』も役立ってくれそうだよね?
「それじゃ、食べようか」
「はい」
私たちはテーブルに着いた。とても美味しそうな料理が、並べられていく。
「昔からの馴染みの料理屋なんだ。口に合えばいいけど」
「ええ、とっても美味しいです。ほっこりする味というか」
「はは、ほっこり。でも、そうだね――」
優しい味わい、私たちはゆったりと食卓を囲んだ――。
食後はゆっくりしてもらって、それからエミルさんは帰ると。私はそう思っていた。
「そうそう、モルゲン先生……あの人の授業で……騒動が……」
「エミルさん……?」
そのままテーブルで話を続けていたのだけれど、エミルさんはというと――船をこいでいた。今にも頭をぶつけそう、を繰り返しては体を起こす。それを繰り返していた。都度頭を支えようとしているこちらとしては、いつ来るかいつ来るかとハラハラしてしまい……。
エミルさんはすごく眠そうだった。食後というのもあるし、相当お疲れなのもあるよね……。
「エミルさん、帰られますか? 私、支えますから」
家に戻って、しっかりと休まれた方がいいよね。私は立ち上がり、彼の隣に立つ。
「……んー?」
「んー……って」
エミルさん、寝ぼけている? あ、うつ伏せになっていた。寝る体勢に入っている。
「……そうだね」
このまま仮眠でもとってもらう? エミルさん、きちんと目覚めそうだし。なら、せめてソファで休んでもらおうかな?
「エミルさん、せめてソファで休んでもらえませんか? ほら、すぐ近くですから――」
「ん……」
梃子でも動かなさそう。エミルさん、決め込んでるね……。
「……おやすみなさい、エミルさん」
「……うん」
私はくすっと笑った。夢を見つつも、返事をしてくれたのかなって。
エミルさんは幸せそうに眠っていた。良い夢見ているのかな?
私は少し離れた作業机の元へ。そこで薬作りをすることにした。
途中で起きなかったら、その時はもう少し強めに起こすしかないかな……泊めるのはアレだし……お世話になっている身だけど……。
「――うわぁ!?」
夜が深まった頃、大声がした。私が視線を寄越すと――慌てて飛び起きたエミルさんの姿が。
思ったよりも早い起床だった。そこはさすがエミルさんなのかも。彼はいかにもきっちりしてそうな――。
「あー……寝ちゃってた。しかも、ジェムさんも放って……何やっているんだ、僕は……」
エミルさんは起きて早々、落ち込んでいた。頭を抱えて項垂れている。
「ごめん、ジェムさん。勝手に寝たりして」
「家に帰そうとした身ではありますが、睡眠をとれたのなら何よりです」
先輩でもあるから、私もそわそわしてしまったけれど。エミルさんの顔は、さっきりよりははっきりとしているから。だからそう伝えた。疲れもわりと取れたっぽい。
「……うんまあ、休めたかな。時間を浪費してしまったというか」
「無駄じゃないと思いますよ。エミルさん、さっきよりすっきりとした顔しているのに」
「それはそう、そうなんだけど……」
エミルさんは、どこか納得がいってなさそうだった。
「……もっと、貴女と話したいことがあったのに。時間がもったいない、というか」
「……そう、ですか」
うん……うん、話したい気分の時だってあるよね。エミルさんだって。でも、睡眠も大事だと思うけどな。
「……っと」
エミルさん、急に顔を引き締めて考えだした。その間、こちらを見てきたりもしてきた。よくわからないけれど、私は笑んでみた。
「……うん」
エミルさんの表情は深刻になった。笑うの、余計だったね、うん。
「……ちゃんとしなくちゃ、なんだけどね。婦人の前で寝たりなんてせず、紳士であるように、と」
「ふ、婦人ですか」
「そう、貴女は貴婦人。僕は紳士であるように、きちんとするようにって……なのにね」
片肘ついた彼は、肩頬がつぶれていた。あまり紳士とはいえない所作。いつも品がある、そんな彼らしくはないもの。
「貴女の声が心地いいから。ゆっくりしていいって、優しく言ってくれるから」
「エミルさん? ……それは?」
「ふふ、貴女のせいにしてみた。そう、ジェムさんのせい」
「私が原因、ですか?」
エミルさんは楽しそうに笑う。私はというと、要領を得ないままで。
「そう、そうだね……ジェムさんがいけないんだ」
悪戯っぽく笑う彼は、今まで見たこともなかった。
「ジェムさんの声が、話し方が。笑顔もそう。どれも優しくて、心地よいから」
彼はそのまま告げる。彼こそが、優しい顔、声をして――。
「言ったでしょう? ――かけがえのない時間って」
それは確かに耳にしていた言葉。その言葉が、深く。
「僕はずっと望んでいたんだ。きっと、そうだ。――こうして、穏やかな時間を共に過ごしたいって」
ずっと、って。
深く。
深く刻まれるようだった。
小屋に着いてしばらくして、エミルさんがやってきた。彼が手にしているのは、布に包まれたお弁当のようだった。美味しそうな匂いがしている。
「わあ、ごちそうになります」
「良かった。僕も張り切った甲斐があった」
私が笑うと、エミルさんも微笑んでいた。そう、エミルさんが用意してくださって――。
「……」
失礼だよ、私……そんな、内心で狼狽するだなんて。
「ジェムさん?」
「あ、いえ、なんでも! とても楽しみです、はい!」
エミルさんがきょとんとしている。そうだよ、わざわざ作ってくださったのなら、本当に有難い話じゃない。
「あー……」
エミルさんが困っているようだった。私、わざとらしかったかな?
「ごめん、ジェムさん……それ、出来あいのものなんだ。僕はその、詰めただけというか」
「あ」
……なるほど? 市販品を、と? あー、ああー……なるほどなるほど。
「エミルさん、どのみち食欲そそる匂いがしていますから。ありがとうございます、いただきますね?」
「そっか……うん、どこかで時間作ろうかな。僕のも食べて喜んでほしいし」
「あはは、ええ……」
エミルさんの瞳がキラキラしていた。この眩しさを前に、私は何を言えるのか。そう、そうだよ、エミルさんがその気なら。私の『贈り物』も役立ってくれそうだよね?
「それじゃ、食べようか」
「はい」
私たちはテーブルに着いた。とても美味しそうな料理が、並べられていく。
「昔からの馴染みの料理屋なんだ。口に合えばいいけど」
「ええ、とっても美味しいです。ほっこりする味というか」
「はは、ほっこり。でも、そうだね――」
優しい味わい、私たちはゆったりと食卓を囲んだ――。
食後はゆっくりしてもらって、それからエミルさんは帰ると。私はそう思っていた。
「そうそう、モルゲン先生……あの人の授業で……騒動が……」
「エミルさん……?」
そのままテーブルで話を続けていたのだけれど、エミルさんはというと――船をこいでいた。今にも頭をぶつけそう、を繰り返しては体を起こす。それを繰り返していた。都度頭を支えようとしているこちらとしては、いつ来るかいつ来るかとハラハラしてしまい……。
エミルさんはすごく眠そうだった。食後というのもあるし、相当お疲れなのもあるよね……。
「エミルさん、帰られますか? 私、支えますから」
家に戻って、しっかりと休まれた方がいいよね。私は立ち上がり、彼の隣に立つ。
「……んー?」
「んー……って」
エミルさん、寝ぼけている? あ、うつ伏せになっていた。寝る体勢に入っている。
「……そうだね」
このまま仮眠でもとってもらう? エミルさん、きちんと目覚めそうだし。なら、せめてソファで休んでもらおうかな?
「エミルさん、せめてソファで休んでもらえませんか? ほら、すぐ近くですから――」
「ん……」
梃子でも動かなさそう。エミルさん、決め込んでるね……。
「……おやすみなさい、エミルさん」
「……うん」
私はくすっと笑った。夢を見つつも、返事をしてくれたのかなって。
エミルさんは幸せそうに眠っていた。良い夢見ているのかな?
私は少し離れた作業机の元へ。そこで薬作りをすることにした。
途中で起きなかったら、その時はもう少し強めに起こすしかないかな……泊めるのはアレだし……お世話になっている身だけど……。
「――うわぁ!?」
夜が深まった頃、大声がした。私が視線を寄越すと――慌てて飛び起きたエミルさんの姿が。
思ったよりも早い起床だった。そこはさすがエミルさんなのかも。彼はいかにもきっちりしてそうな――。
「あー……寝ちゃってた。しかも、ジェムさんも放って……何やっているんだ、僕は……」
エミルさんは起きて早々、落ち込んでいた。頭を抱えて項垂れている。
「ごめん、ジェムさん。勝手に寝たりして」
「家に帰そうとした身ではありますが、睡眠をとれたのなら何よりです」
先輩でもあるから、私もそわそわしてしまったけれど。エミルさんの顔は、さっきりよりははっきりとしているから。だからそう伝えた。疲れもわりと取れたっぽい。
「……うんまあ、休めたかな。時間を浪費してしまったというか」
「無駄じゃないと思いますよ。エミルさん、さっきよりすっきりとした顔しているのに」
「それはそう、そうなんだけど……」
エミルさんは、どこか納得がいってなさそうだった。
「……もっと、貴女と話したいことがあったのに。時間がもったいない、というか」
「……そう、ですか」
うん……うん、話したい気分の時だってあるよね。エミルさんだって。でも、睡眠も大事だと思うけどな。
「……っと」
エミルさん、急に顔を引き締めて考えだした。その間、こちらを見てきたりもしてきた。よくわからないけれど、私は笑んでみた。
「……うん」
エミルさんの表情は深刻になった。笑うの、余計だったね、うん。
「……ちゃんとしなくちゃ、なんだけどね。婦人の前で寝たりなんてせず、紳士であるように、と」
「ふ、婦人ですか」
「そう、貴女は貴婦人。僕は紳士であるように、きちんとするようにって……なのにね」
片肘ついた彼は、肩頬がつぶれていた。あまり紳士とはいえない所作。いつも品がある、そんな彼らしくはないもの。
「貴女の声が心地いいから。ゆっくりしていいって、優しく言ってくれるから」
「エミルさん? ……それは?」
「ふふ、貴女のせいにしてみた。そう、ジェムさんのせい」
「私が原因、ですか?」
エミルさんは楽しそうに笑う。私はというと、要領を得ないままで。
「そう、そうだね……ジェムさんがいけないんだ」
悪戯っぽく笑う彼は、今まで見たこともなかった。
「ジェムさんの声が、話し方が。笑顔もそう。どれも優しくて、心地よいから」
彼はそのまま告げる。彼こそが、優しい顔、声をして――。
「言ったでしょう? ――かけがえのない時間って」
それは確かに耳にしていた言葉。その言葉が、深く。
「僕はずっと望んでいたんだ。きっと、そうだ。――こうして、穏やかな時間を共に過ごしたいって」
ずっと、って。
深く。
深く刻まれるようだった。
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