春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

エミルさんは優しい人

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 相手は笑顔のまま。私は口を閉ざしたまま。そんな緊張した場を――破る音がした。

「――ふざけた真似を!!」

 扉が大きく破壊される音がした。その怒号と共に入ってきたのは――エミルさん。

「ジェムさん!!」
「!?」

 私は驚きのあまり、勢いよく振り返った。あまりにも激しい音がしたから。

「あらあら、まあまあ――」

 口元に手をあてて、微笑んでいた彼女。

「……一体、何を。付近に『彼らを潜ませて』まで、何をしようとしていた」

 怒りを伴った行動ではあるものの、エミルさんは努めて冷静であろうと。そうしようとしているのがわかった。
 感情を抑え込んでいるのだと……。

「……まあ」

 エミルさんの鋭い指摘に、彼女の笑みが消えた。真顔となると、こんなにも冷えたものになるの……?

「……って」

 彼ら? 潜ませる? ねえ、何を言っているの? 彼らは何を話しているというの?
 私を眠らそうとしてまで、しようとしていること。

「内容をお伝えせよ、と? そうね、あなたまで出てこられたらね」
「……いや、いい。言わなくていい」
「あらあら、あなたが質問してきたのに。愛らしい人間族のお嬢さんをね――ぺろりといただこうと」

 言葉通りに、舌なめずりをする彼女。

「でも、私は非力だから……血気盛んな子たちに協力してもらおうとしたの」

 非力というけれど、口元から覗く鋭い牙……捕食者の目。彼女だって立派な――。

「それが、私たち獣人族でしょ? ――あなたと同じ」
「……違う。僕は違う」

 エミルさんは首を何度も振っていた。そんな彼は、私の方を見た。

「……ジェムさん」

 エミルさんが、私に近づこうとしている。きっと、私を守ろうとする為に。

「あなただって、同じなの。獣、けだもの。理知的、紳士的であろうとしても」
「……」

 エミルさんは足を一歩、止めた。私に近づくのを躊躇うかのような。

「エミルさんと、あなた……あなたたちが?」

 同じ、同じだというの? 私には……。

「同じじゃない……エミルさんは優しい人って、そう思いますから」
「……ジェム、さん」

 戸惑うエミルさんは、私の顔を見ていた。ええ、エミルさん。私の気持ちです。

「エミルさんが来てくださって、助かった。私はあなたの存在に――」

 うん、今、迷いなく思うこと。

「――安心しているんです」
「!」

 ……エミルさん? すごく彼は衝撃を受けた顔をしていた。それでいて。
 泣きそうな顔もしていた。
 私は自分の気持ちを伝えたに過ぎないのに。

「……未遂だろうと、今回のことは報告させてもらう。追って処分を知らせる。それだけのことをしたんだ」

 エミルさんは私の隣に立った。彼は気を引き締め直し、相手に示した。大事になってしまった。

「処分されること? だって、結局は――」
「されるようなことだ。僕としても許せないことをした」

 不遜な態度の相手に、エミルさんは被せるように言っていた。冷静であっても、声に怒りを含ませていた。相手方の少女は肩を竦めた。

「……ごめん、ジェムさん。少しだけ耐えられるかな? 彼女を居住区に連れていくのと、のびている彼らも保護しなくちゃならなくて……」
「あ、いえ、私は全然……」
「……また戻ってくるから」

 エミルさんはそう言って、壊れた扉を通り抜けていった。私はその様を茫然と眺めていた。
 私を一人にすることになると。居住区には入れないっていう、お話でもあったから。あと、外に待機していた、だったかな。エミルさんが彼らに何かを……彼らに……。

「……」

 ……私だって、色々知ってきたから。眠らせて、ううん、眠らせなくたって、力ずくで。
 ……事に及ぼうとしていたって。それも、『人間族』だからという理由で。
 だから……だからだった。エミルさんはいつだって警戒していた。忠告もしていた。

 それが、獣人族だというの……? こういうことをするのが……?

「ううん、エミルさんは違う……レイチェルさんたちだってそう」

 考えに落ちていってしまいそうだった。でも、違うと。私は自身を奮い立たせていた。会ってきて、関わってきた人たち。エミルさんを筆頭に優しかったじゃない。

「エミルさん……」

 私が彼に伝えた言葉。本当に、本当にそうなんだ。

 繰り返しの日々の中。私はね、柔和に接してくださるのに……あなたが怖かったりしたの。

 でも、この集落での暮らしからか。それとも、もっと前からだったのかな。時間は決して多くはなかったけれど、あなたと語り合った時が。それらが積み重なったからなのかな。

 あなたの存在に安心しているの。安心していられるの。

「……エミルさん」

 私はもう一度、彼の名前を呼んだ。今はここにいない、彼の名を――。

「――お待たせ、ジェムさん」
「あ……」

 その声に、私は振り返った。壊れた扉の向こう側、そこで佇んでいたのはエミルさんだった。

「ああ、エミルさん……って」

 私はハッとした。あまりにも戻ってくるのが早いんじゃ……。

「近くにあの二人、ティムとレイチェルもいたから。託してきたんだ」

 と、にこやかにエミルさんは言うけれど。

「……僕が責任を持って、なんだけど。でも僕は、貴女を一人にしたくなかった」
「そう……そうなんですか……」

 申し訳なさと嬉しい、その気持ちが入り混じっていた。私が複雑な思いでいると、エミルさんはエミルさんで言いづらそうにしていた。

「それで、その……今日のところは……その……僕の家にというか」
「ええと……」

 扉は破壊されていて、あんなこともあって……。

「だ、大丈夫だから! ちゃんと個室もあるし、鍵も閉められる! でも、何かあった時に……すぐにでも守れる距離でいたい」
「……エミルさん」
「ジェムさん、僕が守るから」

 ……不思議。前にも聞いたことがあるような。

 私は彼から差し出された手を受け取った。


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