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第五章
安心できる人
今日は部屋でキルト作りをしていた。私は手を動かしながらも、考え止まないのは。
「リッカ、元気かな……」
リッカのこと。結構経つよね……依然、手がかりはわからないままで。
「……ここじゃないのかな」
ここはただ、エミルさんたちの住んでいるところ。たまたま、そういうところ?
「それとも……」
居住区なるものところ、中央に何かあるというのかな?
いずれにせよ、今の状態では進展がないのはわかる。
「――ジェムさん、今いいかな」
「はい、どうぞ」
エミルさんが個室のドアをノックしていた。彼は今日、ずっと滞在できるようだった。私は完成間近の贈り物をさっと隠し、それから彼を迎え入れた。
「今日も子供たちが来てるよ。ジェムさんもどう?」
ドアを開けたエミルさんが教えてくれた。ここ連日、子供たちが遊びに来ていた。今日もなんだね。
……うん、堂々巡りだったし。あの子たちから元気ももらえるから。私も喜んで加わることにした。
「はい、行きますね」
「良かった。行こう」
私がそう返事すると、エミルさんは嬉しそうに頷いた。
エミルさんが用意してくださったボードゲームや、カード。それらで一通り遊ぶ。その後は絵本の読み聞かせ。定番の流れだった。
私たちは床に座って絵本を読む。少し離れたところで見守っているエミルさん。
「――幸せに暮らしましたとさ」
私は結末まで読み終える。
「……あらら」
子供たちはいつの間にか眠っていた。仲良く並んでいる兄妹たちが微笑ましい。私は近くにあった毛布をかけた。
「……」
……そう、兄妹たちだけ。私と一緒に遭難した子たち――獣人族の子たちはいなかった。
それは今日に限った話ではなく。ここ最近になってからだった、彼らを見なくなったのは。
『……あのね、命令されたんだって――会うのはこれきりにしなさいって』
一人が教えてくれた。彼らはとても悲しそうにしていた。そうだよね、せっかく仲良くなれたのにね……しかも、よくわからないままでって。
『……』
その話の時、エミルさんが目を伏せていたのを覚えている。そう、色々な事情があるのかな……?
子供たちが帰ると、私たちは夕食の準備を始めた。
「おおー、見事だね」
私が材料を刻んだり、煮込んだりしている間中。エミルさんに見られていた。というか、観察されているともいうか。
エミルさんには食卓に食器類を並べるのをお願いしていた。
「ゆっくり、ゆっくり……と」
慎重に運ぶエミルさんが微笑ましい、私が密かに笑っていると。
「どうしたの、ジェムさん? そんな楽しそうにして」
「い、いいえっ?」
そんな近くでもないのに、彼は気づいていた。鋭かった。
料理も完成し、食卓を二人で囲む。
そんなに多くのことは話さない。饒舌になるのは、本のことか――春の女神様のことくらい。
そんな静かで、穏やかな時間。
満たされていた。
食べた後は、少しだけ話して互いの部屋に戻る。そういう流れだったけれど、今夜は違っていた。
「今度の三連休中日にね、おはなし会をやるんだ」
「おはなし会。いいですね」
世間話の続きで出てきたこと。エミルさんたち図書委員が、初等部にて催すのだとか。
三連休か……これまではバタバタしていたから。ララシアとか『聖女』のことでかかりきりだったともいうか。
でも今回からは、平和に三連休を過ごせるのかな。なら一層、リッカのこと解決しないとね!
「――で、思ったことがあって。ジェムさんって、読み聞かせ上手だよね」
「私がですか?」
エミルさんに褒められたようだけれど、正直ピンと来なかった。というか、自分ではそう思わなかった。結構噛んだりもしたり、棒読みなところもあったりしたから。
「うん、貴女が。上手上手」
「いやぁ、そんなことは……」
エミルさんににこやかに微笑まれると、悪い気はしなかった。前にも受け取ればいいのにって、仰っていたよね。そっか、素直に受け取ろうかな。
「ありがとうございます――」
「僕にも読んでもらえないかな?」
「……へ?」
私は間抜けな顔になっていたと思う。私が、エミルさんに?
「おはなし会の参考にしたいなって」
「い、いえ……私はまだまだですから……」
参考に……!? 何も参考にならないと思う。恐れ多い……!
「ほら、一、二冊でいいから。座って、座って」
エミルさんは先にソファに座ると、私を手招きしてきた。私は遠慮する姿勢でいこうとしていたけれど。
「読んでもらえるまで、待っていようかな?」
「……エミルさん」
エミルさんはソファに深く座り込んだ。この人って、何気に強気で通すところある……。
「一冊でよければ……」
お世話になっている身でもあるし、本当にずっと座り込んでいそうだから。
「二冊って話じゃなかった?」
「一、二冊って仰っていたような」
「……うん、拾ってくるなぁ。じゃあ、一冊でもいいよ」
「……はい、失礼します」
私は少し間隔を空けて、エミルさんの隣に座った。そして、手渡された絵本を開く。
「よっと。ちょっとごめんね、ジェムさん?」
エミルさんも近づいてくるけれど、それはあくまで本の絵が見える程度まで。それ以上は寄ってくることはない。
肩も触れ合うこともない、適度で適切な距離。
エミルさんはずっとそうだ。
無理にでもこじ開けて入ってくることもない。
安心できる人。
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