春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
407 / 557
第五章

族長




 様子見の一日、霧は晴れたまま。これなら明日は大丈夫だろうと。精通している獣人族の判断に、私たちは従うことにした。


 そして、夜が訪れた。用事で日中出掛けていたエミルさん、彼とは会うことはなかった。朝食も先に済ませていたようだった。
 それでも、私の分も用意してくださっていた。気まずい雰囲気なのに、気遣ってくださるとか……。

「……」

 私は机にある『完成品』を手にとった。さすがに最終日には挨拶もしたいから。その時にお礼ですって、渡そう。調合品も一緒に。

「……寝よう」

 私は机から離れ、ベッドに寝転んだ。明日は早いと思われる。かなりの距離も歩くようだし、温存しておかないと。

「リッカ、仕切り直しだね……」

 別のアプローチをかけよう。その前にね、君に会いに行っていいかな? オーナーさんにも感謝の気持ちを込めて、お渡ししたりしたいし。
 っと、考え事はこのへんにしよう。寝よう――。

「――ジェムさん、起きてる?」
「……!」

 扉越しに聞こえてきたのは――エミルさんの声だった。
 夜ということもあるけれど、抑え目で遠慮がちな声なのは……気まずさもあるのだと思う。

「……寝てるよね。おやすみなさい」
「お、起きてます……!」

 すぐに去ろうとしていたので、私は慌ててベッドから立ち上がった。寝間着の上にガウンも羽織って、扉も開ける。
 そこにいたのは、軽いコートを羽織ったエミルさん。彼は声を潜めていた。

「遅くにごめんね。今、出られるかな?」
「今、ですか?」
「うん、今。一緒に来てほしいところがあって」
「はい……」

 私も今すぐ出られる恰好だったし、断る理由もなかった。エミルさんの招きについていく――。





「ここは……」

 森の中を少し歩いて、辿り着いた場所。ここは――巨大な一輪の花がある場所だった。
 あの聖域のような場所。こんなにも迷いもせず辿り着けるなんて――。

「――あー、良かった……ちゃんと着けて」
「!?」

 私の隣にいるエミルさんが、一息つけながらそう口にしていた。待って? エミルさん、結構すいすい進んでいたよね? 

「あ、うん。その、あれなんだ。僕たちでも迷いなく着けるってことは、そうそうなくてね?」

 照れ笑いしながら、エミルさんはそのようなことを。はにかみ顔は可愛らしく憎めないものなんだけど……。

「そ、それって……」
「下手したら彷徨っていたのでは、と言いたげな顔している」

 エミルさんは得意そうに指摘してきた。それは、まあ。

「はい」

 私は正直に答えた。エミルさんは眉を下げて笑っている。『ごめんごめん』と笑いながら。

「――純粋なる思いで、強い意志を持って」 

 エミルさんは一輪の花を尊そうに見上げていた。

「そうならば、辿り着ける場所。幼い頃から教わっていたんだ。それでも、僕は本当に稀にしか辿り着けなかった」

 そんなエミルさんは私と向き合う。

「ジェムさん、貴女が一緒だったからかな。それって、貴女が純粋で強い心をもっていたから。あの子達を助けた時みたく」
「それは……」

 エミルさんは私を眩しそうに見ているのがわかった。

 でも、違うんです……私は、そのような存在じゃない。自分が綺麗な人間じゃないって、知ってしまっているから。

「私はそんなことないんです……せっかくの褒め言葉ですが」
「……」

 エミルさんは褒め言葉は素直に受け取ってほしそうな人。それでもね、こればかりは……こればかりはなんです。

「……うん。貴女は色々抱えてきたのかもね」
「え……」

 エミルさんの労わるような声、それでいて探るような目。私は狼狽えてしまった。

「どのみちね、今こうしてここにいる。それが――僕にとっての答え」

 彼は一度瞳を閉じると、再びゆっくりと開く。何か、覚悟を決めているかのような。

「貴女が信頼できる人だと思ったから。だから、話しておきたかったんだ」
「お話を……」
「うん、話でもあって――お願いでもある」

 ただの話ではない。これ程までに、思いつめた表情をしているのだから。

「……」

 私は。

「お聞かせください。口外もしませんから」

 こんなにも、真剣な思いを向けられている。私も襟を正した。

「ありがとう、ジェムさん……」

 エミルさんは少しだけ笑って、それから語り始める。

「うちの子たちが、来なくなかったこと。それは僕が止めた、命じたから」
「えっ……」

 うちの子たち――獣人族の子たちを指すのだと思う。確かにあの子たちは急に来なくなったけれど……。
 それに、止めた……というか、命じたって。

「……ああ、言うの遅くなったよね。僕は『族長』なんだ」
「族、長……?」

 族長。
 ――長。
 私の心臓が音を立てた。不穏な響き、そう捉えてしまって。

「ジェムさん?」
「……い、いえ。何でも」

 エミルさんが不思議そうにしている。私は動揺を隠し、彼の話を待つ。

「そう? 族長っていっても、代理なんだ。両親が……うん、不在だから」
「あ、ああ……そういうことですか」

 そう、そうなんだ。エミルさん自体が族長――長ってことじゃないって。それにそう、彼の態度からして、今のは本題ではないんだ。さらりと流してもいいところ。
 ……うん、今のは何でもない、ないんだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。