春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

なにか大切なものを置いてきたような



 人の体温を感じた。私は誰かにもたれたまま、眠っていたみたい。目覚めた今、ゆっくりと瞳を開いた。

 ここは……駅の構内? 閑散とした駅、ここはそう……あの庭園に近い駅だった。

「……あー、良かった。目、覚めてくれたぁ」

 ベンチに座っていた私に声を掛けてきたのは……アルトだった。

「ご、ごめっ……」

 私の顔は青くなった。どれだけ寝ていたかは不明。それでも、かなりもたれかかっていたから。咄嗟に離れようとしたけど。

「あ、だめだめ。まだ安静にしてって」
「あ……」

 私は肩を抱かれ、そのまま引き寄せられてしまった。

「あー……こんなにも近い。あー……」
「……」

 私を案じて、それはあるとは思う。でも、こんなにも息が荒いというか。……挙動が怪しい子の近くというのは、ちょっと。

「アルト。気持ちだけもらっておくね」
「あっ……ごめん、ごめんねっ? 下心があって興奮もしちゃって……でも、心配は本当だからっ」

 深呼吸を繰り返したアルトは、そのままの体勢で事情を説明する。

「……こんなにも長く行方不明になっていたからさ? 俺……俺達、必死で捜したよ」
「そうだよね……ごめんなさい」
「本当にこの子はさ……」

 アルト、やつれている気がした。そうだよね、記憶がまともにない私とは違って、アルトからしたらずっと私がいなくなっていたから。何事かと思うよね。事件に巻き込まれてないか、とか。

「ごめんなさい、本当に心配かけて……」
「あ……こっちこそ、ごめん。ともかくね、無事だったから。それで良かったということで」

 肩を抱かれることはなくなったけれど、アルトは顔を合わせて笑いかけてきた。私も小さく笑った。
 ありがとう、アルト。気持ちが軽くなったよ。

 そう、そうだ。私は行方不明になっていたんだ。誰にも目的地を知らせずに。サボりという後ろめたい理由もあったからで――。

「……?」

 誰にも知らせてなかった? 伝わってなかった? そうだったの……?

「それで、ようやく今朝になってだった。よく知らない一家と一緒に倒れていたって……本当にもう……」

 アルトは大きく長い溜息をついていた。心配した、と口を尖らせてもいた。本当にごめんね……。

 一家? ええと、どなたたち?

「……?」
 
 ……あれ? 本当にそう? 本当に知らない人たち?

「……」

 私、リッカの手がかりを求めてやってきた。それからの記憶がなくなっていた。心配かけてしまったけれど、無事で良かったのはそうで。

「……リッカに会いたい」 

 私は口に出してしまっていた。長く、長く感じたんだ。もう体だって大丈夫。エーデル村に戻って、あの子に会いに行きたい。そこから仕切り直そう。

「あー……」

 私の独り言を聞いたアルトが、気まずそうにしていた。その表情のまま、彼は告げる。

「……リッカさ、オーナーさんと遠方に巡業に行っているって。君が行方不明だった時と重なってたから、リッカは知らない」
「……え」

 巡業……巡業? 現役バリバリな方だけれど、遠方に出かけたりしてたかな……?
 ワンコを連れてというのも不思議だと思った。リッカを置いていくよりは、だったのかも。急な話だったのかもしれないし。

「そっか、うん……帰ってきたら、会いに行こうっと。教えてくれてありがとうね」
「うん、それがいいよ。リッカも喜ぶよ」
「うん……」

 待っていてね、リッカ。

「私、落ち着いたみたい。お待たせしました」
「あー……それなんだけどね?」

 ぴたっと動きを止めたアルトは、微妙に顔を歪めていた。

「……実はさぁ、モルゲン大先生と一緒に来ててさぁ? ほら、あいつ一応大人じゃん? 教師じゃん? それで責任者として、というか? 今ね、色々話をしに行ってる」

 ううん、微妙にとかじゃなかった。かなり嫌そうな顔していない? 兄弟仲、良くなったと思っていたのに……。

「……くぅ、大人はずるいわ。俺もせめて成人していれば――」
「――おいおい、大人だって大変なんだぞ? こっちは羨ましいくらいだぞー?」

 ごちるアルトの背後に立ったのは、彼の兄でもあるモルゲン先生だった。しかも、アルトときたら。『げっ!』って、声にまで出てしまっているし。

「アルト。『げっ!』はよくないよ。先生、傷ついた顔しているよ?」
「すんっ」

 また、すんっとしているし……。

「先生もこの度はご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」

 アルトも先生も遠路はるばる来てくださった。本当に申し訳ないです……。

「……いい、気にするな。お前もあのご家族も無事だった。といってもな、これから都で病院にも行ってもらうけどな?」
「そうそう、受けときなよ。まあ、手厚く保護されていたとか、一家は言っていたみたいだけど……でもさ、心配じゃんか」

 私も、一家の人たちもそう。何があったかなんて、覚えていない。でも、私もそうだと思ったの。手厚く保護されていたって。

「……そうだね」

 ――大事にされていたって。

「……じいー」
「!」

 アルトからの視線を感じた。すごく見てくる……疑いも込めて。

「……はあ。ほら、行くぞ? そろそろ列車も来る頃だ」

 と、話している内に列車もやってきた。帰る時が来たんだ。

「……どうしたんだろ」

 私の手荷物もある。財布などの貴重品も。なのに、どうしてなの?

 ――なにか大切なもの、それを置いてきたような。


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