春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

花々で彩られた鳥籠



 ひんやりとした空気。薄暗いこの場所――ここは鳥籠の夢かな。

「え……」

 いつもの鉄製の鳥籠ではない。私は見上げ、そして周囲を見渡した。
 ――木で作られた鳥籠と変貌していた。枝が連なっていて、大きな木を模しているかのような。樹木の香りまでしてくる。

「……待って、誰が」

 ……誰によるものなの。これまでの傾向からして、私は。
 ……誰かに執着されていることになる。

「こんな綺麗で、温かみもあるのに……」

 執着とかドロドロしたものとは、ほど遠そうな形。

「あ」

 私は立ち上がって、鳥籠の端に向かっていく。『あるもの』が私の目を強く惹いていた。
 ほら、あそこに咲いている花々もとても綺麗なの。緑色の花が花束のように連なっていた。

「素敵……」 

 私は鳥籠の隙間から手を出し、そっと花々に触れてみた。溜息が出るかのような美しさで――。

「!?」

 触れたのは一瞬だけ――すぐに蔦のようなものが、私の腕に巻きついてこようとしたから。私は慌てて手をひっこめた。

 ドクン。心臓が波打ったのと同時に――私の頭に流れてくる映像。

「これって……」

 ここは……前にリッカとの遠出で訪れた、ところ? 大きな一輪の花の……?
 それで……霧が濃いからということで、私はあるご家族とお世話になっていて……?

「くっ……」

 頭がズキンズキンとする。目が眩みそう。そんな中で鮮明になっていく姿が。
 穏やかな笑顔でよくしてくれた、優しい人。

「エミル……さん……?」

 エミルさん、それに彼の同胞たち。レイチェルさん、ティムさん。

 ああ、思い出していく。思い出していく――。

 どうして、私は彼らのことを忘れていたの? 腑に落ちなかったけれど、私の記憶はエミルさんの言葉に辿り着いた。

『人間たちの記憶を消すから』

「そう、彼は『族長』として……」

 誰よりも規則を遵守しようとしていた、模範的であろうとしたから。

「それじゃ、この鳥籠って……エミルさんの?」

 あの蔦を張り巡らせていた花々たち――あれらが錠前ということ? 

 でも、あのエミルさんが……? 私に……? 何故……?

「一つ、考えられるとしたら……私が『人間』だから?」

 獣人族と人間とのこと、お話にもあった。相手に無理を強いることはないにせよ、エミルさんは言っていたよね――待ち望んだ、とか。恋焦がれた、とか。

「それにしても……」

 緩やかに他の錠前たちを締め上げているかのような。
 養分を吸い上げてもいるよう――緑色は保ちつつ、毒々しい色にも変容していっていた。

「……っ」

 鳥肌が立ってしまった。あれだけ美麗で無害そうにしていたのに……今ではあのようにおぞましくなっている。

 執着、そう形容できるものとなってしまっていた。 




 連休初日の早朝。私はまず、エーデル村に向かった。リッカたちが帰ってきたりしていないかな、と。

「不在、か……」

 オーナーさんの家の戸にかけられた札。まだ外出中なんだ……。

「お土産とメモを残して、と」

 私はしゃがみ、駅で購入したものを扉の前に置いておく。オーナーさんには紅茶缶とかお菓子とか色々。お口に合えばいいな。
 リッカにはお花のぬいぐるみ。あの一輪の花に似ているなって、思ったの。

「リッカ……」

 私は花を模したそれを持ち直した。額にあてて、祈るかのように呟いた。

「リッカ、会いたいよ……」

 日数にしたら、それほどではなくとも。どれだけ長く思えることか。
 強く、強く願った。そして、彼らの旅路の無事も――。

「……喜んでくれるといいな」

 私は紙袋にまとめていれておいた。開けてからのお楽しみだね。

「今度こそ帰ろう、そして」

 私は向き合わなくてはならない。正直実感はないのだけれど、私は今――『彼』の鳥籠の中にいるのだから。


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