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第五章
準備室にて
しおりを挟む学園の図書室は、休日も午前中のみ解放されていた。確かエミルさんは初日もいらっしゃったはず。
「失礼します」
初日の今日はそこそこ人がいた。カウンターも列をなしている。
「エミルさん……」
柔和に応対しているのは、エミルさんだ。うん、いたね……。
本の返却、しないと。学校のもだけれど、エミルさんからお借りした本も。
「……」
私はあの夢を見たあと、考えていた。エミルさんには『口外』はしないと誓っていた。なら、素知らぬ顔をした方がいいかとも。
でも……正直に伝えることにした。口外しないのはそう、それでも私は思い出してしまったと。どのみち、鋭いエミルさんにはバレてしまう気もしていた。
さあ、私の番だ。後ろに人も並んでいるけれど、どうにかお話できないか、それを提案してみよう。
「あ……ジェムさん」
私を見ると、エミルさんの目元は深く笑んでいた。
「……」
私は自分でもわからずにドキッとしてまったけれど、いけないと笑顔で返す。エミルさんも微笑んだままだった。
「ふふ、来てくれる予感がしてたんだ。嬉しいな」
「……っ」
いつもの綺麗な笑顔に加えて――艶めかしさもあるかのような。
「どうかした?」
「い、いえ……」
「そう?」
気がつくと、いつもの彼の顔があった。そうそう、いつもの彼。優しい眼差しなのも変わりのないもの。
「……」
「……」
互いににこやかに見つめ合ったまま。と、こうしている場合ではないんだ。なんとか切り出さないと。
そう思っていた時に、話しかけてきたのはエミルさんだった。
「ねえ、ジェムさん? この後、時間があるかな? お願いしたいことがあって」
「そうなんですか? こちらは問題ありませんよ」
「良かった。じゃ、終わるまで待ってもらってていいかな? 奥に準備室があるから、そこでゆっくりしてもらっててもいいし」
奥。エミルさんが座っている場所の背後。扉を隔てた先にある場所。図書委員専用の場所に、長居するのも……。
「……ある意味、ごめん。注目浴びさせちゃったから」
「っ!」
後ろの人からもそう。行き交う人たちからもそう。視線が止まない。エミルさんの発言により、私は妙に注目されてしまっているんだ……!
「……はい、お言葉に甘えます。大人しくしていますので」
「うん。それじゃ、どうぞ?」
「お邪魔します」
エミルさんは返却処理を手早く済ますと、一旦立ち上がった。制服のポケットから鍵を出して、開錠していた。彼によって扉は開かれ。
「書庫内にも本はあるし、お茶も好きに飲んでいいから。ね?」
エミルさんの言葉と共に、扉は閉められていく――。
「……」
鍵がかかる部屋。そうだよね、それはそうだよね……。
「……」
理由は不明にせよ、鳥籠を形成するほどの執着の持ち主。そんな相手と密室で二人きり……。
「ううん、人に聞かせられる話でもないし。そんな長くでもないし」
今回の私からの話、それは『覚えていた、でも口外する気はない』と。それさえ伝えられればいい。
「本を読んでいいとは仰っていたけれど」
準備室には本棚と、アンティーク調の長机があった。積み上げられた書類もある。さらに見渡すと、給湯室にあたる部屋もあった。
「ふふ」
前世の図書委員時代に思いを馳せた。私たちの学校の図書室にも当然、準備室はあった。あっちはパソコンやタブレットでの管理だったり、色々と違ってはいた。それでも懐かしくて。
「……っと、こうしてよう」
こう、勝手に触るのも悪いと思ったので。私は椅子はお借りするにしても、大人しく座り続けることにした。
私の鞄から取り出したのは、フォトアルバム。写真のリッカを眺めながら、私は待つことにした。
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