春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
414 / 557
第五章

本のことばかりだけれど



「――ジェムさん、お待たせ。入っていいかな?」

 規則正しいノックの音と共にエミルさんの声。そっか、もう正午回っているんだ。

「はい」

 私はすぐに立ち上がって、入口へと向かうことにした。すぐに話を終わらせようと思っていた。

「わっ。ずっと立っていたの?」

 扉を開いたらすぐに私がいたから、エミルさんは軽く驚いていたようだ。

「いえいえ、座って待っていました」
「ふふ、正直者だね」
 エミルさんは私の返答に、クスクス笑っていた。しばらくにこやかにしていたけれど。

「……ジェムさんは正直者、それでいてわかりやすいよね。僕に話があったんでしょ?」
「あ……」

 エミルさんは真剣な表情となっていた。『お願い事』、それこそが口実だったのかな。私の態度はみてとれるようだったと、彼は言いたげだった。

「まずは……本、ありがとうございました。とても興味深かったです」
「そう、良かった。うん……所感も気になるところだけど、ね」

 本の感想も長々と語りたいところ。でも、エミルさんとしては気になっていることがあるようで。

「『まずは』。本題があるんでしょ?」
「……はい」

 ……うん、言おう。お伝えしよう。私は口を開いた。

「エミルさん。私――あなたと暮らした日々を覚えています。思い出したんです」
「……」

 エミルさんは無言のまま、私を見つめている。

「あの、もちろん口外なんてしませんから」
「……うん。うん、それはわかっている」

 どこまでもまっすぐに。痛いくらいに。
 私を見つめたまま。

「僕は貴女を信じているから」
「エミルさん……」

 どうしよう、嬉しかった。エミルさんのその真摯な思いが、眼差しが。

「……そっか、『やっぱり』そうなんだ」

 エミルさんの表情が柔らかいものに戻った。それでいて、頬も紅潮しているようだった。

「貴女はきっと、思い出すって思っていた」

 幸福に満ち溢れた表情で、エミルさんは言う。私が不思議そうにしていると、『何でもない、今は』と笑っていた。

「そうそう、お願いだったね。『おはなし会』のこと。明日参加する予定だった子たち、都合つかなくなっちゃって。それで、ジェムさんにお願いできないかなって」

 エミルさんは手を合わせて、私に頼み込んできた。

 ……って、おはなし会って。私が本を読む側に回るってこと!? 実際に読んだりしていたけれど……!

「……駄目、かな? ジェムさんも予定があったり?」
「いえ、予定とかは……」

 愛しのワンコは出かけたまま。見事に誰からも誘われることもなく……うん。
 何より事件も発生してないから。それは素晴らしいことだよね、うん!

「そうですね……緊張はします。でも、エミルさんの為なら」

 ……? エミルさんの為でもある、あるけれど。

「……っと、初等部の子たちも楽しみにしてますよね? 私でよければ」

 自分でもびっくりだった。当然のように『エミルさんの為』って……普通は子供たちの為なのに。

「ジェムさんがいいんだ。うん、良かった」
「は、はい……」

 エミルさんもエミルさんでサラッと言ってくる……意識しているのは私くらいかな。

「ねえ? この後お昼一緒に食べて、それから読み合わせしない?」
「わあ、いいですね」

 素敵な提案に、私の心は踊った。両手を合わせて喜ぶ。エミルさんも嬉しそうに頷いていた。



 一度都まで出て、カフェでお昼をとることにした。

「――ジェムさん。テラス席が店内、どちらにしようか」
「そうですね……」

 道中、私は気になりっぱなしだった。視線が注がれるままだった。
 向けられたのはエミルさん。見目麗しい彼だからというのもそうで。
 ……獣人であることにも。彼の猫耳はやたらと見られ続けていた。

「……」 

 私に委ねながらも、エミルさんの視線の先はテラス席。そっか――。



 休日ということもあり、多くの人で賑わっていた。私たちはテラス席に座り、注文の品が届けられるのを待っていた。

「……ありがとう、ジェムさん」
「?」

 今も肩身の狭そうにしているエミルさん、彼は私に礼を伝えてきた。

「僕に気を遣ってくれたでしょ。それもある、あるんだけど……」

 エミルさんの視線は私から、街並みへ。

「人の目につかないように。隠れるように生きてきたから。だからね、どれだけ憧れてもこういった機会は中々、ね……」
「はい……」

 そうなんだよね……エミルさんたちは、そうやって生きてきたんだ。私だって、彼らのことをろくに知らなかったんだ。

「改めてありがとう、ジェムさん。貴女と一緒だから」

 エミルさんの緊張も少しは緩んだのか、彼は饒舌になってきた。私もつられるように、口数も増えていく。
 といっても、本のことばかり。とことん感想を語り合う。

「ふふ。そうそう、僕もそこで笑ってしまって――」
「あはは、そうですね――」

 いいの、楽しいから。
 とても満たされているから――。



 今夜もね、鳥籠の夢を見たんだ。

 今も私を取り囲む、木の鳥籠。
 木の香りが好き。ぬくもりだって好き。私の心をこんなにも温かくさせてくれるの。
 彩りを添えるのは、花々たち。とっても綺麗。

 いいのかな、もう。
 気にしなくて。
 こんなにも温かく、包み込んでくれるのだから――。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。