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第五章
初等部でおはなし会①
おはなし会の当日になった。自室にて制服に着替える。リボンの色、どうしようかな?
「うん、この色がいい」
落ち着いた色合いの緑。緊張も和ませてくれるような、安心をもたらす色。
エミルさんも喜んでくれそう。なんとなく、だけど。
まずは本校舎にある図書室で待ち合わせ。たくさんある荷物を、エミルさんは軽々と抱えていた。
細々したものは私にお願い、と。軽いものばかりで悪いと思ったけれど、彼に『壊しそうで怖いから』と返された。うん……。
エミルさんについて、初等部にあるプレイルームへ。
プレイルーム、私は初めて訪れた。外側がら覗いてみると、おもちゃや遊具がある、楽しそうな雰囲気の部屋だった。
部屋に入ると、数十名の生徒たちがいた。みんな、お行儀よく座って待っていた。待望にしていたんだろうね。
「こんにちは。図書委員のエミル・ジュッツェです。こちらのお姉さんは……」
にこやかに挨拶をしていくエミルさん、彼は私も紹介しようとしてくれていた。いたのだけど……。
「えっと……」
「?」
エミルさん、言い淀んでいるようだった。私の名前忘れたのかも。うん、こちらから自己紹介しよう。
「シャーロット・ジェムです。今日はよろしくお願いします」
私が一礼すると、生徒たちは元気に返事してくれた。ふふ、私まで嬉しくなってくる。
「ごめん……」
「いいえ?」
エミルさんは気まずそうにしていたけれど、何も気にすることないと私は笑った。
「……ふう。今日はいろいろな物語に触れたり、一緒に遊んだりしましょう。まずは、紙芝居からです。いいかな、ジェムさん?」
「はい」
昨日の打ち合せ通り、紙芝居から始めることにした。手書きのものは、図書委員のものかな? うん、きっとそうだと思う。
「むかしむかし、あるところに――」
この世界に伝わる童話を、可愛らしいイラスト共に語っていく。そのエミルさんの声の優しいこと。子供たちも見入っていた。
棒読みの私の声も添えて、物語は進んでいく――。
いくつかの紙芝居を経たあと、参加型の遊びも始まる。防音もしっかりしているので、皆楽しそうにはしゃいでいた。
「……そっか」
私は思った。楽しそうな子たち、優しく見守るエミルさん、彼らを見て思ったんだ。
今日は連休の中日、それでここにいる子たち。寮で待機している子たちなんだ。彼らを寂しい思いをさせないようにと、図書委員の皆さんは考えていたんだなって。紙芝居とかも作り上げてきたんだよね。
初等部の子たちは笑顔。エミルさんも微笑んでいる。
「……?」
おはなし会が終わりに近づくにつれ、エミルさんの表情がこわばっているようだった。もっとも、微かに現れているようなもの。微々たるものともいえたけど……どうしたのかな?
「エミルさん? お体の具合でも悪いのですか?」
「っ!」
私は彼の隣に近寄り、そっと話しかけた。エミルさんは声にならない驚きをあげていた。
「あ、いや……具合とかは。うん、大丈夫だよ?」
「そうですか?」
と仰るけれど、顔色は良くないなって思った。
「……うん、貴女なら気づくのかな。ちょっと迷っていてね」
エミルさんが鞄から取り出したのは、一冊の絵本。薄い色合いのそれは、打ち合わせにもなかったもの。私が見たことがないものだった。
「……読みたい。でも、読まない方がって。持ってきてはしまったけれど、どうしようかなって」
「そうですか……」
私はちらりと時計を見た。続いてエミルさんもそうしていた。もう夕方になっていた。お開きになる頃合いだ。彼が迷っている間にも、刻一刻と――。
「……うん、読むよ」
私の方を見て、しっかりと頷くエミルさん。緊張したままだけれど、それでも彼は覚悟を決めたようだった。
「ジェムさんが隣にいてくれるから」
「エミルさん……」
私を信頼して、頼ってくれるってことかな。すごく嬉しいな……。
「はい、お傍にいますから」
私がそう答えると、エミルさんは嬉しそうに微笑んでいた。本当になんて美しいんだろう……。
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