春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

初等部でおはなし会②


「……ふう。今日は集まってくれてありがとう。最後の出し物です。えっと、見えるかな」

 エミルさんは絵本を開き、生徒たちに見せる。彼らはエミルさんを囲んだ。食い入るように見ている。

「これはね、猫の耳をもった男の子の話。人間と仲良くなりたかった――お話」

 エミルさんは絵本は見せたまま、そらで読んでいく。いうなれば、年季の入った絵本だった。薄い色合いとは、聞こえの良い言い方だった。本当は色褪せていた絵本。どれだけ、彼はこの絵本を読んできたのだろう。

 猫の耳に――尻尾。それがある男の子は……人とは違うと。怖がられてもきて、一人ぼっちで過ごしてきた。
 それでも男の子は強く願っていた。
 人間と仲良くなりたい、と。

「彼は言いました――『人間と仲良くなりたい。たくさん、お話したい』」

 どれだけ、そう思ってきたのだろう。

「『僕を怖がらないで。ちょっと猫の耳と尻尾があるだけ。一緒なんだよ』って――」

 エミルさんは感情移入してしまったのか、声が震えていた。生徒たちも大人しく、『お話』に耳を傾けていく。
 物語の結末は男の子の想いが通じて、一人、二人と友達が増えていったこと。ハッピーエンド、そのはず。それなのに。

「……おしまい、おしまい、と」

 エミルさんが物語の終わりを告げた。それから、彼は黙ってしまう……。

「……」
「……」

 つられるように静まり返る生徒たち。反応に困っているみたい……。

「……うん、ありがとうございました。エミルさん」

 私一人、拍手を送る。虚しく響く、手を叩く音……。それでも、私は手を止めたりはしない。

 ねえ、エミルさん。あなたはきっと、幼い頃から。ずっと、そう願い続けてきた。

「そうですね。同じなんですよね……種族で分けられがちですけど」
「ジェムさん……?」

 エミルさんは目を大きく見開いていた。突然、感想を語り出してるものね、私……。

「悲しく思ったりする。一人ぼっちは嫌だって思う。それって、私たちもそうでしょう? ね、みんなは? どんな感想かな?」

 私が話を振ってみると、彼らも少しずつ感想を語り始めた。
 可哀そう、とか。怖い、とか。怖がられるのも仕方ない、とか。仲間はずれはよくない、とか。うん、色々な感想があるね。それが君たちの心のままに出た答え、私はうんうん、と頷く。

「――わたしだったら、おともだちになりたい」
「そう、そうだね……」

 こういう意見だってあった。思いのほか、盛り上がったようだった。

 あっという間に時間は過ぎていく。

「っと、そろそろかな。みんな、帰る時間だよ。ですよね、エミルさん?」

 予定していた時間より、押してしまっていた。私はエミルさんに伺う。

「あ……うん。みんな、突然で困ったよね。ごめんね?」

 一度でも妙な空気にさせてしまったと、エミルさんは詫びていた。生徒たちは『ううん』と首を振っていた。

「あのね、ぼく、読んでみたいんだ!」

 生徒の一人がそう言った。エミルさんは驚いて彼を見た。ううん、彼だけではない。他の子たちもそうだった。

「そう、そっか……」 

 エミルさんは読み古した絵本を抱えた。

「……うん。あのね、みんな。図書室で読めないか、お願いしてみる。時間がかかるだろうけど、借りて読めるように、ね?」
「……エミルさん」

 彼にとって大切な絵本でしょうに。それでも、彼は厭うこともないようだった。
 ううん、彼は望んでいるんだ。きっとそう。とても嬉しそうにしていたから――。


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