春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

あなたへの贈り物

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 集まってくれた子たちを、寮まで送り届けた。初等部に専用の寮があったこと、私はこの時初めて知ったんだ。確かに、女子寮でも初等部の子、見かけなかったよね……。

 もう日は落ちてしまっているんだろうね。天気は曇り空、月だって拝めない。
 そんな夜道を、私はエミルさんと歩いていた。女子寮まで送ってくださると。悪いと遠慮したけれど、通り道だと整然と返されてしまった。



 私たちは女子寮前に到着した。

「着いたね」
「はい」
「今日は本当にありがとう。連休明けに、またね? いつでも図書室に来てほしいな?」
「はい、ぜひ……」

 そっか。もうお別れなんだ……。
 名残惜しい気持ちはあっても、エミルさんだって明日は予定があるらしいし。

「……っと、ちゃんと渡さないと」

 またしても何かが出てきた彼の鞄。花柄の包みを渡された。なんか美味しそうな匂いがする。

「お礼なんだ。受け取ってくれるかな?」
「お礼って、そんな……」

 私の方こそ、たくさんしたいくらいなのに。

「えーと……」

 エミルさん、言いづらそうにしている? それでも、ぽつりぽつりと話し始めた。

「うん……貴女がいなくなった部屋、片づけていたんだ。そこで、机の上に包装されたものがあって……どうしようかって思ってはいたけど」
「あ」

 そう、そうだ、そうだよ……! 頭の中のもやもやが晴れていく! 
 エミルさんに贈ろうとしたもの、それをそのままにしてしまっていたんだ。それが、エミルさんの手に渡ったと。

「ジェムさん? 僕宛てじゃなかった?」

 エミルさんは尋ねてきた。不安そうに、ではなく――不服そうに。まるで、自分以外ないだろうと言いたげな。

「まさか、他に相手が……」
「いえいえ、エミルさんで正解です……!」

 妙に迫力があったので、私は慌てて訂正した……! エミルさん宛で合ってもいたので。

「そっか、良かった。僕、開けちゃったし。使ってもいるから」
「あはは……」

 うん、問題はないから。エミルさんへのものだから。

「ありがとうね、ジェムさん……素敵なミトンを」
「いえいえ。使ってくださったのなら何よりです」

 私が作ったのはミトン。料理をしたいエミルさん。彼が喜んでくれたらって。

「それでね、僕の方でも作ってみたんだ。お菓子、きっと貴女の口にも合うから」
「……はい」

 はい、としか言えなかった。うん、美味しそうな匂いは漂っているんだ。それに、このエミルさんのニコニコした顔。私は拒みなんて出来はしない……!

「……そんな不安そうにしなくても」
「そ、そんなことはないですよっ?」
「本当に不安になることなんてないよ。僕、お菓子は作ったことはなかったから。彼らに教わって作ったんだ。味も保証付き」
「……っと、それは楽しみですね」

 私はこっそり安堵した。あ、エミルさんがジト目になっている。そんな私の心情、お見通しなんだろうな。

「改めまして、ありがとうございました。いただきますね」
「うん、良かった。渡せたことだし、僕はそろそろ行くね?」
「あ……」

 私は彼からの贈り物を受け取った。

 彼が、彼が行ってしまう。

「あの、エミルさん……一緒に食べませんか? お茶、お出ししますから」 

 私は呼び止めてしまった。
 エミルさん、明日も予定があるってわかっているのに、それなのに……。

「……ジェムさん、あのね」

 エミルさんは眉を下げて笑っていた。ああ、困らせてしまった――。

「ネタバラシするとね、それ、チョコのマフィンなんだ」
「え、チョコ?」
「そう。僕、食べられなくはないけど、あまり相性良くなくて」
「あ、あー……なるほど?」

 私はエミルさんの猫耳を見そうになるも、すぐに視線を戻した。『バレバレだよ』と、エミルさんに軽く笑われてしまった。気を悪くさせてしまったと思ったけれど、そうではなさそう?

「ジェムさん、チョコが一番テンション高かったから。だから、一番好きかなって」
「え!」

 ……っと、夜中に大声を出してしまった。いけない、いけない。
 でも、そうだった? 私、そんなにだった……? 私一人、疑問に思っていると。

「わかるよ。だって、見ているから」
「わかるものですか……?」
「うん……ああ、そうだね。一緒に食べられるものにしておけば良かったね」

 エミルさんが目の前に迫る。彼の大きな瞳が弧を描く。長いまつ毛にも見惚れていると。

「僕、ジェムさんの部屋にお呼ばれしていたんだ。惜しいことしちゃったな」
「はい……」

 蠱惑的に笑うのもそう。時折見せるそれに、私はもう目を奪われてしまっていた。

「お誘いありがとう。次こそは一緒に食べようか」
「はい……」

 ああ、そういう表情するんだ。あなたのそういった一面、私に見せてくれるんだって――。

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