419 / 557
第五章
明日は最終日
どうにか日が変わる前には着きそうだった。
吐く息が白い。今夜はより冷える。もう少し歩ければ、オーナーさんの家。夜分遅いけれど、帰ってるかどうかの確認さえ出来たら――。
「――ほら、帰ってきただろ? 俺クラスになるとね、わかるから」
「うむ、余も想像つくようになったぞ。我ながら成長したものよ」
あれ? 聞き覚えのある声がした。私の家に立っている二人組、彼らは。
「アルトにエドワード君? どうしたの? ……というか、大丈夫? さすがに寒くなかった?」
こんな時間に二人がいた。私の家の前ってことは、用があるってことかな? それにしても冷えたでしょうに。
「平気平気。君の為なら、いくらでも平気」
「うむ、どうってこともないぞ」
二人は顔には出してないけれど、体を寒そうに震わせていた。うん、寒かったよね。
「中、入る? 話があるってことでしょ?」
時間が時間でもあるけれど、この寒空の下で待っていてくれたわけで。私は家の鍵を取り出し、開けた。
「うん、お邪魔しまーす……」
「遅くにすまぬな……」
二人は浮かない表情のまま、私に続いて家に入っていった。うん、よほど切羽詰まった話なのかも……。
「……明かり、ついてない」
私は遠目で確認していたけれど、オーナーさんの家の明かりはなかった。寝ていると言われてばそれまで、だけど。
二人へのお土産はそのままだったから。紙袋に入ったままで……。
「……」
この感覚、いやだな……。
前にも、何回も経験してきたこと。
リッカが……いなくなる前兆のような。
「――お願い、シャーロット。今晩、泊めてくれないかな?」
「!?」
家に戻ると、アルトが開口一番でとんでもないことを。
「アルト……?」
私は両手をあわせて懇願している彼を見た。その様は、真剣なるものだった。
「……うん、びっくりだよね。でも、本当にお願い」
彼を見て思う――純粋に案じているのだと。そう、彼はこう告げたのだから。
「――胸騒ぎがするんだ。今夜、何かが起きるかもしれないって」
今日を終えると――三連休の最終日。
「……うむ、そういうことだ。いてもたってもいられなくてな」
アルトの発言に、エドワード君も頷く。
「余たちにもわからぬ、えも知れぬ不安よ。それでも後になって後悔したくないのだ」
「……そう」
二人の心配する気持ちが伝わる。だったら尚更、巻き込みたくないって思いもする。
「……協力、だったね。うん、よろしくお願いします」
「もちろん、もちろん! 君の為なら、なんだって!」
「うむ。話を受けてくれて、安心したぞ」
彼らの力を借りることにした。私の返事に二人は安堵していた。せめてどうか、何も起きませんように。
「まあ、何もなかったら。それはそれで。ほら、シャーロット。冷えたでしょ?」
アルトが手際よく、暖炉に火をくべた。それから、『美味しい紅茶も淹れるね?』とも。
「余も手伝うぞ。それとだ、遊び道具もいくつか持参してきた」
エドワード君も張り切って台所に入っていく。持ってきた遊び道具をカウンターの上に置いて。トランプとかすごろくみたいなものだった。
「あ、私も」
お客様任せになるところだった。私も急ぎ台所に入っていく。
私たちは暖炉を囲んでいた。冷えた体に、温かい紅茶が身にも心にも沁みた。置き菓子のクッキーやマドレーヌも振舞った。
そういえば。エミルさんからのチョコマフィン、寮に置いてきちゃった。二人に分けても良かったような……ううん。
「……」
エミルさんと一緒じゃないなら、私一人で。私だけで味わいたいな、なんて――。
「……」
「……」
アルトとエドワード君からの視線を感じる。えっと、顔に出てた? 変な顔していたかも。
「……はあ、ジュッツェ先輩と仲がよろしいようで。おはなし会、俺も初等部だったら参加資格が……くっ!」
アルトってば噛むこともなく呼べるのすごいな……というか。
「図書室の君、だったか。柔らかな笑顔ながらも、容易にはなびかぬ人物と伺っておる。あちらこちらでフラグをたておって……」
図書室の『主』だけでなく、『君』とも呼ばれていたんだ……というか。
二人はずっと疑惑の目を向けてきたまま。
「いや、そんな。私とエミルさんは……」
っと、私はどこまで説明したらいいものか。あの集落のことは黙っている約束だった。うん、そうだね。
「同じ本好きの、先輩後輩ってくらいだよ」
私たちを結ぶものって、やっぱり本かなって。そりゃ、素敵な人だなって思っているけど。恰好いい、とかも……。私の顔、緩みきっているかも。
「……いや、これってさ」
「……まずいのではないか?」
二人の表情が険しくなっていく。というか、焦っている表情ともいえるような?
「いや、今までみたくフェードアウト感、とかはないけど……でもな……」
アルトは呟きながら、何かを推察しているようだった。そして、私の方を向く。
「ねえ、シャーロット――鳥籠の夢とか、みたりしていない?」
「え?」
鳥籠。今、私は――エミルさんの鳥籠の中にいる。
それはもう、いつものこと。当たり前のことをアルトが聞いてきた。
あ……でも、そうか。共有した方がいいのかな。今の鳥籠のこと――。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。