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第五章
共に生きられない日々①
「――うー……がるるる」
意識がぼんやりとしたまま、私は目を覚ました。聞こえるてくるのは、リッカの唸り声?
「……?」
それに、重みを感じている。まるで――誰かに乗っかられているかのような。
夜は明けたばかり。薄闇の中、私は状況を確認しようとして。
「!?」
一気に目を見開いた。寝ている私の上に馬乗りになっているのは。
「――どこへ逃げても無駄だ。我は追いかけるのみ」
装束姿の死神――金糸雀隊の『彼』だった。
「がるるる……!」
「近づくな、犬。主人がどうなってもいいのか」
とても冷徹なる声がした。私を助けようとしているリッカを牽制していた。
「し、信じられない……」
ワープゾーンの存在はあっても。こちらがこんなにも速かったのは、水の女神様のご加護があってこそ。それに、どの船に乗るか、どこに向かうのか。それを知る由もないでしょう……!?
「……っ」
不可解な力が働いている、そう思った。そんな相手が――私の喉元に剣をつきつけている。
「シャーロット・ジェムを殺せ……大罪人、シャーロット・ジェムを……」
復唱しながら、私の命を奪おうとしている。
ああ。
鳥籠の夢の彼は、幻だったのかな。戸惑う彼は、夢だからこそだったのかな。
「そうだ、女神の命のもと……」
そう、女神の命が第一だから。どれだけ彼が春の女神を信じているか。信じてきたのか。私は知っているから。
「そう、だ……女神が命ずるままに、我は……」
「……?」
彼の声が揺れている? 剣が私の喉元から離れていく。
「――僕は何度も貴女を殺してきた。きっと、そうなんだ」
声がした。金糸雀隊の死神ではない――エミル・ジュッツェの声が。
彼に記憶なんてない。それなのに、こうも……確信をもって告げてくるのは。
「その度に貴女だってそう、何度も無実だと。抵抗もしてきて……最期まで抗って……」
それなのにね、と彼は自嘲するかのように笑った。
「僕は抗えない……どれだけ僕が、僕の心が……」
そこで彼は言葉を止めた。
「ふふ……」
このような時にまだ笑うの? 覆面の下、いつもの儚い笑顔をしているとでも? あなたは何を考えているというの?
「……我の役目、使命は大罪人を抹殺すること。我らが女神に仇なす者、シャーロット・ジェムを――」
幾度も口にする言葉。私はその度に、思い知らされるのかな。それはもう――定められたことと。
彼は笑った。
「……はは、そんなのってないよ」
――ああ、覆面の下もなのかな。あの綺麗な笑顔を浮かべているのかな。
「僕にはもう無理なんだ……貴女を殺せない」
「え」
一瞬だった。
私に。
血しぶきがかかった。
見上げた先には。
「もう……殺さなくて……済むなら……」
かっきられたのは。
彼の、首元。
「あ、あ、ああああああ……!」
私の声が、震える。
彼が自ら、自分から……待って、本当に待って……!
「あ……」
スローモーションのようだった。彼が、こちらに倒れ込んでくる。
生ぬるくなっていく、彼の体。血がね、血が止まってくれないの。
「わん……わんわん! わんわんわん!」
リッカの声が、吠える声がする。
でも遠くの出来事と思えて。
「――何事だ!? ……なっ!?」
勢いよく扉を開けたのは、エドワード君……? 私の意識も遠のいていく。
ねえ、何度もって『彼』もそう口にしていた。
私の言葉が。
彼の記憶にない記憶を呼び覚ましたの?
繰り返しの日々で、積もっていたのは。
彼が何度も私を殺してきた、その事実。
彼は――殺さなくて済むなら、と。
彼は……あなたは、何を考えてきたの。何を思ってきたの。
わからない。本当にわからないの――。
「……あ」
部屋に朝日が入り込んだ。私は寝た状態のまま、窓の方に目をやった。
海が凪いでいた。そう……船の上にいるままなんだ。
時間の感覚がない。今はいつ? 何日経ったの? それとも、今は。
「……っ」
あの『悪夢』の続き? 私の前で絶命した、あの人は――。
「――シャーリー、起きた」
「あ……」
リッカ、私の足元にいたんだ……いつもみたいに。彼は私の近くまでやってきて、顔を満遍なく舐めてきた。
「ふふ、くすぐったい……」
リッカは大事大事に舐めてくる。それによって私の心は落ち着いてきていた。
「……リッカ、教えてくれる?」
衝撃的なことが立て続けであり過ぎた。それでもね、私は逃亡中の身。
……あの人が亡くなろうと、他の金糸雀隊が残っている。それに、私が大罪人であると。あの放送によって決めつけられてしまってもいるから。
しっかりしよう。今は気を強く持つんだ。
「今って何日かな? それに停泊もしているみたい。どこかに着いたの?」
「あのね、一日経ったの。それとね、港町だって。エドワードがね、調達に寄りたいって」
「そっか、ありがとね」
「えへへ」
リッカ、はきはきと答えてくれた。さすが、賢い子。
「ねえ、シャーリー。君が起きたら、動けるようだったら教えてって。エドワードがそう言っていたの。僕、呼んでくる。すぐ戻るよ」
「あっ」
リッカは軽やかに下りると、開いていた窓から出ていった。窓伝いでエドワード君を呼びに行ったのかな?
「……」
そうだね、起きないとね。動かないと。
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