427 / 557
第五章
共に生きられない日々②
部屋の扉から出たタイミングで、エドワード君とはち合わせた。リッカも連れだっていた。
「すまなかった!」
「!?」
エドワード君は開口一番、謝ってきた。しかも頭も思いっきり下げていて……?
「余がついていながら、あの者の接近を許してしまったのだ……! ああ、余はなんて未熟者よ……!」
「あ、いや……ねえ、エドワード君? 全然気にしないで、ね?」
私は彼に近づいて、そっと肩に触れた。
「いや、そうでしょう? あの距離をいきなり詰められるとか、そんな……ね? それに」
顔を上げたエドワード君と目が合った。
「まあ……そなたもリッカ殿も無事だった。だがな、あの者は何故……」
彼はとても困惑していた。それもそうだった。ここまで追ってきた相手が、自らなんて。
「……ただならぬ者であった――して、シャーロット殿。その、だな」
相手に畏怖を抱いていたエドワード君、彼は私に何か言いたいことがあるようだった。
「そなたに断っておこうと思ってな。余は――彼を海に還そうと思っておる」
「エドワード君、それって……」
「ああ、弔いだ。もちろん、憎き相手には変わらぬ。そなたも余とてそうだ。よくも思わないであろう。だが、余は教えでもあってな……すまぬ」
そう……そっか……。エドワード君、とても私に申し訳なさそうにしている。
これまで私を殺してきた相手を、弔うこと。エドワード君の心情的にも複雑だろうね……。
「……エドワード君。私も立ち会っていい?」
「……よいのか?」
「うん。私がどうこうできるわけではない。でも、見届けさせてほしいの」
これまでの恨みはある。だけれど……『今回の彼』に殺されたわけじゃない。彼と過ごした日々もあった。借りもあったりもしたから、それだけで――。
「……」
言い訳じみているな、私。
私の心が……ただ、そうしたかっただけなのに。認めたくなんてないけれど、このままお別れなのが嫌だなって。
あの人が……エミルさんが。あまりにも優しい顔をしてくれたから。
知らなければ良かったのに。
「……うむ」
エドワード君は先頭きって歩いていく。私とリッカもついていく。
甲板に出ると、港町が見えた。晴天の空に、穏やかな海。
「――母なる海で、安らぐがよい」
エドワード君は代用の杖で儀式を行っていた。
大きな水の泡が――金糸雀隊の彼を包み込む。海へ送られていく。海に還っていく。
「……女神様は優しいの。だから僕も……春の女神様が守ってくださるように……」
リッカも目を閉じて祈りを捧げた。白く輝くリッカは、彼の黄泉路の無事を祈りながら。
「……」
私は、亡くなった人への祈りを込めて。今はそれが限度だった――。
「……」
エドワード君は物資の調達に寄っただけだったみたい。彼が船に戻ってくるまでの間、船で待たせてもらうことにした。
私はベッドに腰かけて考え込んでいた。隣で寝ているリッカを撫でながら。
鳥籠の相手が命を絶つだなんて……これまにでなかったことだった。鳥籠は元のものになっているのか、どうなのか。それは夢で確認するしかない。
まだ日々が続いているのは確かなんだ。助かった命、追撃だってしのいでみせる。これからどうなるかはわからない。でも、無駄になんてしない。
そうだよ、誰かが女神像を壊したの? 考えれば考えるほど、おかしいと思えてならない。私はこれまでのことを思い出し、頭を巡らせた。
私はあの人の鳥籠にいた。アルトたちの時、どうだった? 事件なんて起こったりした? 少なくとも、彼らの『理想の日々』ではあったんだ。
今回の事件は突発的と思えてきた――彼の理想の日々をぶち壊したかのような。
「……」
すごく、すごく苦しいよ。
また、繰り返しの日々を迎えてしまったら。また、私が罪をでっち上げられて。命を狙われることになる。
私がやられるか。彼がやられるか。私たちの関係はこうでしか、成り立たないのかな?
私は死にたくなんてない。ならば。
私は――彼の死を見せつけられるんだ。
その度。
私の胸はこんなにも締めつけられるんだ……。
「――失礼するぞ、シャーロット殿。今、よいか?」
部屋を叩く音。エドワード君、帰ってきたんだ。荷物の積み入れとかあるよね。うん、私も行かないと。
「おかえり、エドワード君」
私は部屋の扉を開いた。リッカも起きたみたいで、こっちに来ていた。尻尾を振って迎えていた。ああ、この尻尾ぶんぶん、すごく久しぶりに思える……。
「うむ、戻ったぞ……で、さっそくだがな。そなた、出られる状態か?」
身軽な姿の彼がいた。荷物、下に置いたままなのかな?
「う、うん? 荷物とか運ぶよ?」
「いや、荷物のことではない。この町のギルドに寄るぞ」
「ギルド?」
いきなり出てきたワード――ギルド。エドワード君はうむ、と頷く。
「不思議な連携でもあるのだな――アルト殿から連絡が入ったと」
「!」
連絡があった……生存している! 私たちは急いでこの町のギルドに向かうことにした。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。