春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

共に生きられない日々⑤



 男子寮にリッカを迎えに行った。アルトにもお礼を言い、女子寮に戻ることにした。
 リッカは学園に戻ることができるようになっていた。相当なストレスだったんだね。苦しかったよね。気づいてあげられたら良かったね、ごめんね……。


 自室のベッドでリッカと一緒に眠る。うん、おかえりだね、リッカ……。

「あのね、シャーリー」
「ん?」

 私の足元から声がした。リッカが暗闇に光る目を向けてきた。だいぶ慣れてはきたけど、いまだにドキッとするんだよね……。

「女神様は優しいの」
「うん、そうだね」
「それなのにね? そんなひどいこと、命令していたの……?」
「あ……」

 そう、そうだよね……この子がだよ? この子が慕う存在、それに私も絵本や伝承で学んだこと、思っていたこと。

 優しい女神様。私たちを慈しむ存在だって。
 そのような方が、あのようなことする? ……しないよね。

「そうだね、リッカ……何かがおかしいよね」
「うん、シャーリー……」
 
 冬の終わり。私の誕生日はまたしても迫っていた。



「どうして、どうしてなの……」

 またしてもだった。

 事件はもう起こらない。金糸雀隊に襲撃されることもない。

 それなのに――私たちは終わりを迎えてしまった。

 極寒があらゆる生命を終わらせていく。

 凍える体、意識が朦朧としていく。

「くーん、くーん……」

 ああ、リッカ、泣かないで……。

 あの子の悲しい鳴き声は、次第に聞こえなくなってしまって――。





 気がつけば、鳥籠の夢の中。ああ、あのまま終わりを迎えてしまったんだ……あの子を置いて。

「この状態のままなんだ……」

 木の鳥籠は健在だった。このまま、繰り返しの日々に戻ることになると。

「シャーリー……」
「リッカ……」

 とぼとぼ歩いてきたのはリッカだった。この子の無事な姿を見て安心して……そして、憂う。

 さすがに二回目となると、こう思わずにはいられない。
 成し遂げなかった時。行きつく先は――あの凍てつく冬の世界なのだと。





 私の足元で寝ているのはリッカだった。鳥籠の夢から覚めたんだ。
 私は体を起こして、ベッドから下りた。カーテンを開けると朝の空――だけれど。

「なんか違わない?」

 年の始まりを祝う、その準備風景ではなかった――いつもの長閑な村の姿。

「っ!」

 私は心が急くまま、部屋のカレンダーを確認した。

「え……どういうこと?」

 年最初の日ではない、今は一月の下旬――それも三連休の最終日で。

「あ……」

 今は、朝。ねえ、どうなったの……? 今ってもしかして……? 考えれば考えるほど、私の顔は青ざめていく。

「……シャーリー、起きた」

 足元からリッカの声がした。

「シャーリーのこと、待っているの。行こう?」
「うん……?」

 私のことを待っている? 外で待たせているのかな? なら、急がないとだよね。
 寝起きだったので、待たせることになっても最低限の身支度を。それらを終わらせて、すでに下で待機していたリッカの元へ。




「あ、シャーロット。おはよ……」
「うむ。休めただろうか?」

 あれ……アルトにエドワード君? ソファに座って待っていてくれたようだった。
 しかも、私の家に訪れた時の恰好そのままだった。カウンターの上にあるのは、エドワード君が持ってきた遊び道具も。

 そう、本当に今は連休最終日なんだ。『あの夜の続き』であると。

「うん……なんかさ、『ループ時点、ここ?』みたいなさ……」

 アルトは納得がいってなさそうに話していた。それはそう……。

「……ああ。とはいえ、異なる点もある。そなたは狙わなくて済んだのだ」
「うん、そうだね……?」

 私は悠長に寝られていたから。自分は安全圏内にいるってことだよね。でも、それが意味することは――。

「まあ、なんと言うべきか。そなたではない、犯人がすでに自白していたのだ」
「あ……」

 ならば、もう。その犯人は金糸雀隊によって。

「あの人が……」

 あの人が。長であるあの人がなの?

「……それなんだけどね。リヒターからの伝言。こっち一度来たんだけど、また戻るってさ」
「リヒターさんから……?」
「そう。学園に知らせが入ったんだって」

 なぜだろう、胸騒ぎがする。ざわつきが止まってくれない。

「エミル・ジュッツェが……命を絶ったって」

 それも、とアルトは言う。

「――明け方だったって」

 どくん、と心臓が音を立てた。
 その言葉がどうしても信じられなくて。

 命を絶った……彼自身で?
 この時点で彼はもう……?

「急すぎたから、誰も理由はわからないとか」
「……それからだったか、犯人が自白したのは。もっともその者は……残された金糸雀隊によって、であるな」

 二人が会話をしている。
 彼らの声が、遠い。遠くなっていく。



 それからの記憶がまともにない。二人に仮眠を提案したんだったかな……夜通し起きてくれていたみたいで……どう、だったかな――。


 
 気が遠くなりそうだった。彼の中で積もったものは、もう……容易に溶けたりはしてくれない。
 不明瞭なる意識、それでも事実としてつきつけられたのは――もう、彼はこの世にいないこと。



 漠然と日々が過ぎていく。私は彷徨うようにあの花園を訪れては、ろくに成果もなく。
 そうして、終わらない冬の世界を迎えて、そして――。



 あのループだから、そうだったではない。
 また繰り返しの日々を迎えても、決まってそうだった。
 彼は、彼は、自ら……。

 
 私が起きる頃には、もう、取り返しがつかなくなっていて……。


 もう、定められているのかな。確定事項なのかな、なにもかも。
 私と彼の定めだったの?
 ――私たちは共に生きられなかった、そういうことならば。

 どれだけ考えても。
 どれだけ動いても。
 どうしようもないとしたら。

 私はまた、日々の始まりを迎える。何もかも終わった日々に、また、こうして。
 何度も、何度だって。
 繰り返して。たくさん、日々を重ねていって。
 何度も、何度も……何度も。

 もうね。
 疲れたの。
 
 溶けない雪のようだと。そう言っていたのはリッカだった。
 唯一溶かしてくれるというのなら? 終わりを、結末を迎えられるとしたら?
 彼がどうやって溶かしてくれるというの。彼との未来を選べもしないのに――。

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