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第五章
僕を置いてかないで
「……朝ごはん、用意しよう」
漠然と日々は過ぎていって、私は漠然と生きていく。彼の鳥籠の中にいながら。その彼がもういないのにね。
「あ……」
机の上にあったのは、例のコースターだった。あったっけ……? 私はそれとなく手にとった。
「……ふふ、不器用だなぁ」
私は毒づいてしまった。あんな洗練された見た目なのに、なんでも造作なくやってのけそうなのにね。
「……そうあろうとしていた、だったかな」
彼は獣人族だから。それでいて、一族の長になるべく育ったから。誰よりも自身を律していた。
誰よりも女神の命にも忠実であろうとした……あろうとした?
「……そうだった?」
私はこれまでのことを思い出した。最初の頃は確かに容赦なかった。でも、ある時を境にだったかな。
「うん、そうだ……」
今ならわかる。金糸雀隊の長でありながら……迷いがあったこと。それは私を殺めようとした時もそうだったのかも……。
『一瞬で』って。苦しまないようにと。
「私、あなたのこと知らないままだ……」
もう知りえないよね……あなたはもう……。
「……勝手に消えないでよ。私は、私はそんなの」
何回も殺されてきたけれど。だけど……!
「私はそんなの望んでいない……!」
恨みはするし、根にだって持つ。でもね、私が求めているのは。
あなたの死ではない。
「シャーリー、怒ってる」
「あ、リッカ……」
私、大声を出してしまっていた。ベッドの上ですやすや寝ていた子を、起こしてしまった。
「ごめん、リッカ――」
「僕もなの。僕も怒っているの」
「ええと、リッカ?」
いつもの可愛い声だけど、怒っているの?
「シャーリーを悲しませたまま。そんなのだめ」
「……そっか」
リッカは怒っていて、かつ、やる気充分になっていたんだ。
「朝ごはん、食べよう。それで元気つけるの。シャーリーも僕もっ」
朝ごはんもたくさん食べる気概をみせていた。
私たちは朝ごはんをもりもりと食べた。部屋に戻ってひと休憩いれて、私は今日も旅立つことにした。
「じー」
リッカからの視線を感じていた。この訴えるような眼は……。
「それとね、僕を置いてかないでっ」
「ちょっ、リッカ……!」
リッカはベッドから下りると、私のリュックに入ろうとしていた。ああ、ぎゅうぎゅう詰めに……!
「わかった、わかったよ、リッカ! 普通にキャリーバッグに入って、ねっ?」
「うんっ!」
リッカは元気よく返事した。うん、今回もお借りしようっと――。
今度はリッカと共に鉄道に乗って、そして獣人族の里へ向かう。
もうすべては終わってしまったけれど。でも、無駄にはしない。
「次こそは……次につなげてみせるんだ」
「わんっ!」
私はあの庭園へと向かう。共に歩くリッカも力強くひと吠えした。
花園に着くと、私たちはあの禁足地を目指す。前のようにリッカが連れていってくれるかと思われたけど。
「すんすん……くーん……」
リッカはしきりに匂いを嗅いでいる。でも手ごたえはないようだった。
「なんかね、前と違う感じなんだ……」
「そっか……」
私はなんとなくわかってしまった。今現状、あの人の影響下にあるんだと思う。リッカが手こずるのもそういったことから。
「進もう、リッカ」
それでも、私は足を進めた。リッカも私にならって続いていく。
どれだけ歩き回ろうと。私たちは求め、進んでいく――。
「あっ! わんわんっ」
リッカが嬉しそうに吠えた。そのまま彼はまっすぐに走っていく。
リッカのこの反応、きっと目的の場所が近いんだ……! 私も走り出していく。
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