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第五章
紛いもの
エミルさんいわく、彼らの居住区をつっきった後に――目的の場所があるという。
丸太を組み合わされたログハウス、それだけじゃない。木々が連なっていて、その上に家が建てられている。至るところに花壇や花々のカーテン、そしてこのツリーハウスたち。
このような状況でなければ、可愛らしいと思えたけれど。うん、本当にそれどころじゃない。
「――長、何故です。なぜ、その者といるのです……何故、待機命令など」
覆面姿でもわかる。彼女はレイチェルさんだ。彼女を先頭に、他の隊員たちも雁首揃えていた。
ああ、私に対する殺意が止まない……。今すぐにでも私を始末したい、と。
「うん、説明するね?」
『その子を抱えていて』と、エミルさんは小声でお願いしてきた。私は言われるがままに、リッカを抱っこした。
と、同時に。
「――全てを終わらせたあとに、ね?」
「なっ!?」
エミルさんは隊員の一人を体当たりでふっとばした……しかもすごい距離! さらに、私に指示。
「……はいっ!」
ふきとばされた人を氷の魔力で足止めしてほしい、と。私は急ぎ彼の足元を氷で固めた。
「ありがとう。彼じゃなければ追いつかれることもないから――っと」
「わっ!?」
突然の浮遊感。わ、私はエミルさんに横抱きにされている!? 私の驚きをよそに、エミルさんは疾走していった。なんてスピード……! ぐんぐん景色が過ぎ去っていく。
「ええ、私だって!」
リッカを片手で抱っこしつつ、氷の力を放った。金糸雀隊の一人が放った風の刃と相殺させる。それからも追手の足止めを続けた。
近づいていく――彼らの女神像の元へと。
「――ここだよ」
エミルさんが私たちをそっと下ろした。私たちは地面に降り立つ。
辿り着いたのは、開けた場所だった。一面に草が生い茂っている。目線の先には朽ちた神殿があり、苔むしていた。そして――。
「女神像……」
私は見上げた――彼らの女神像が、そこに。
これまで目にした女神像とは確かに似ていた。でも、違いがあった。
まずは、犯人の手によって半壊されていたこと。
それから――手にしていたのは拡声器。百合の花を象ったものだった。
「あれが……」
やっぱり、そういうことだったんだね。エミルさんの話にあったこと。あの拡声器によって――広まっていたんだ。
「うー……」
足元でリッカが唸っている。光るリッカは警戒したままだ。
「――長!」
レイチェルさんたちに追いつかれた。といっても、ここが最終地点。
彼らは私を始末しようと。私たちは破壊しようと。
「……」
「……」
互いに緊張が走る。双方のにらみ合いが続く。その時だった。
『――ピー、ガガ……ガガッ』
「!?」
耳障りな音がした。
『――シャーロット・ジェム。シャーロット・ジェムヲ殺セ』
「あ……」
拡声器を通して、この女神像は告げてくる。私とリッカを通り越して。
『役目ヲ使命ヲ忘レタカ。我ガ命ズルガママニ――シャーロット・ジェムヲ殺セ』
「くっ……」
金糸雀隊に向けて。彼らは頭を抱えながら、苦しがっている。
「嫌だ……僕は、僕は……!」
「ああ……」
エミルさん。彼は今もこうして抗っているんだ……それでも。
「僕は……そうだ。壊しにきたんだ。僕達が信じてきた――紛いものを」
エミルさんの瞳に光が宿った。彼はしっかりとした足取りで立ち向かう。
「ねえ、皆。君達もちゃんと目にしてほしい。本当に僕達は正しかったのか、と」
「長……?」
今にも暴れだしそうだった彼らが、動きを止める。苦しみながらも、エミルさんの動向を見守っているようだった。
『紛イモノ……ダト?』
「そうだ」
エミルさんは頷いていた。私、そしてリッカを見ると、再び女神像へ。
「盲信していた頃は、わからなかった。でもこうして相まみえて……どうして、信じていたんだろうって」
今のエミルさん、長であっても。彼ならば。
「僕の記憶にあったのは、優しい女神様のお姿だった。有無を言わさず命を奪えと。そのような命令はなさらない、と」
彼はきっと、多くの女神の文献に触れていた。そう、そうだよね。私だって読んできたもの。春の女神様は――そのようなことはなさらないと。
「そうだ。今ならわかる……お前の存在が間違っていたと」
エミルさんは剣を構えた。覚悟はもう出来ているんだ。
女神像を。彼らが崇拝してきた存在を――壊すのだと。
『我ガ紛イモノと……申スカ』
表情は笑顔を携えているのに、歯ぎしりが聞こえてくるよう。
「そうだ。本物の女神像はちゃんと存在している。お前ではない……!」
エミルさんが攻撃を仕掛けると、台座から下りた像は空中に浮いた。私たちを見下ろしてくる。
『何ヲシテイル。我ヲ守ルノダ――賊カラ。コノ賊モ始末セヨ』
ついにはエミルさんを賊敵とみなす。像は隊員たちに命じていた。
「長を……そんなの……嫌、です……」
「なのに……なのに、あああああああ!!!」
彼らはそう……エミルさんをよく慕っていた。手にかけるなんて、望まないこと。それでも、これは強制力なのか、彼らはもう――。
「がるるるるるるるるるるるるる……!」
もう止められないんだ。大好きだった長はもう敵とみなされ……彼らはエミルさんにも襲いかかる……。
「……ごめん、みんな」
エミルさんは一瞬だけ、悲しそうに瞳を伏せていた。彼はわかっていた。攻撃をしながらも、それは望んでしたわけではないと。
「……あの像をどうにかすれば、なんだ」
エミルさんが見据えるは、紛いものの像。
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