春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

『女神像』の暴走


「もう少しの辛抱だから……!」

 エミルさんは神殿を壁走りすると、屋根まで到達。そのまま宙を飛んで、浮遊する像の元へ。

「はぁっ!」

 ならば、私は金糸雀隊の動きを封じるまで。氷の力を存分に奮う。

『グワアアアアアアアア……!』

 地面に叩きつけられたのは、像。人間の動きのように、ピクピクしていた。
 続いてエミルさんも降り立つ。相手は瀕死状態。あとはとどめを刺すだけ――。

『我ハ……我ハココマデガ……我ハ……我ハ……』

 像は言葉を繰り返す。壊れた機械のように。

『女神像破壊事件……財閥令嬢殺害事件……歌い手殺害事件……聖女殺害事件……』

 あ……これまでの事件が……この声によって、私たちは……。

『ガー……ガガッ……女神像……女神像……女神像ヲ』
 それにしても……本当に壊れているかのような。しきりに『女神像』と連呼している?

「!」

 一瞬にして、一帯に花々が咲き誇る。色鮮やかなそれらは、毒々しい色へと変貌していく。

『――春ノ女神ヲ……女神像ヲ壊セ……像ヲ壊セ、壊セ、像ヲ壊セ……!!』

 花びらを伴った風が吹き荒れる。姿を現わしたのは――三体に分裂した像。

『往ケ、我ガ半身達ヨ……! ――像ヲ破壊セヨ!』

 暴走状態ともいえる像たち、彼らは空中を飛び交っていき、次第に姿を消していった。私が氷の魔力を放つも、それは空振りに終わってしまう。

「まずい……女神像を壊す気か」

 エミルさんは気づいたようだった。暴走した像がしようとすること。
 都、そして学園にある女神像を――破壊しようとしていること。

『女神像ヲ……女神像ヲ……女神、像ヲ……』

 もっとも、この壊れきった女神像は答えない。答えようないとも言えた。

「くそっ……」

 今から都、そして学園に向かわなくてはならない。エミルさんは苛立っている。

「……僕一人なら出来なくはない。でも、そうすると」

 そう、あなたを含めた金糸雀隊は――いつも神出鬼没だったから。移動は出来はする。でもそうなると。

『オォォォォォォォォ……!』
「くっ!」

 そうなると、目の前の像から離れなくてはならない。暴れ狂う、この像から。

「……彼女を置いていけない」

 私一人を置いて、と。

「そうだ……この女神像を、それからだ」

 エミルさんは焦る心を隠しきれず、それでも目の前の像をどうにかしようとしていた。焦りと、悲壮感。それを抱えている彼。女神像が犠牲になろうと、やむを得ないと。

 ねえ、エミルさん。

「――心配しないで」
「……ジェムさん?」

 私は通信機の電源を入れた。つけた早々、大声が飛び出した。

『――あっぶね、間に合った! って、シャーロット!? シャーロットなの!?』

 声が大きい……ごめん、私は耳を離すことに。

「今のは私の幼馴染。アルトもだし、彼らもそう」

 アルトたちと話を示し合わせていた。こういった事態も予想して。
 ――彼らは二手に分かれて、女神像の近くで控えていた。

『って、そっち行った! 民間人も避難させって……って、シャーロット!?』

 あの四人だけではないと、私は思った。
 彼らが築き上げた人たち。ギルドの人たち、財閥の護衛の人たち、それに海賊の皆さんもかも。みなさんが力を合わせている。

『ごめん、今、こんなんでっ! あ、でもさ』

 ――女神像を守ってみせる、と。

 それから通信は切れてしまった。うん、こんな時だけれど、私の心は満たされていた。君からその言葉を聞けたから。

「……うん、心強いね」

 エミルさんが、笑った。
 いつもの綺麗な笑顔……うん、あなただってそう。

「……さあ、エミルさん」

 私は魔力を放出した――金糸雀隊の彼らを凍らせた。どうぞ、エミルさん。

「うん――この手で終わらせてみせる」

 エミルさんとして。金糸雀隊の長として。

 彼の剣が――像を破壊する。

『キャアアアアアアアアアアア!!!』 

 耳をつんざくような叫び声。
 断末魔。
 砕け散る音がする。

「……ご先祖様方、申し訳ございません」

 エミルさんの、声。獣人族の先祖が造り上げたものを、今代の長が壊すこと。そうだ、心を痛めないわけがない。それでも。 

「それでも――最善であったのだと、そう信じています」

 ――像が破壊された。

「僕は、そう思って……」

 エミルさんが倒れ落ちていく。

「……」

 私もそうだった。元通りになった草むらに倒れ込んでいった。

 終わったの? わからない……このまま、寝てもいいの……?

 私を覆うのは小さな影。優しい光を纏った、可愛いあの子。

「今はおやすみなさい、シャーリー。エミル・ジュッチェ――」

 なんて安心できる声なんだろう……言葉のままに、私たちは――。


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