春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

僕も証明したいの

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「あ、シャーリー。起きたっ」

 私は草むらの上で目覚めた。輝くワンコは私の顔に体を寄せていた。それでこの感触だったんだ。というか、眩しい。

「おはよう、リッカ」

 私は体を起こし、リッカをなでなでした。この子も嬉しそうに尻尾を振っていた。可愛いねぇ……。

 爽やかな風が吹く――あの像も跡形もなく無くなっていた。
 私たち、やり遂げたんだ。きっと、都や学園で奮闘してくれた彼らも――。

「あれ、エミルさんは?」

 起きた時にはエミルさんがいなかった。それどころか、金糸雀隊の人たちも。

「あのね、広場の方に行くって。シャーリーは休んでていいよって」

 エミルさんからの伝言だった。きちんとリッカは伝えていた。偉いねぇ……。

「伝言ありがとね、リッカ」
「うんっ!」

 私は発光ワンコを高速でなでなでした。リッカも高速でしっぽを振っている! 可愛いね、可愛いねぇ……!

「……さて」

 私もいつまでも寝ているわけにはいかない、そう思ったから。
 エミルさんは気を遣ってくださった、だとしても。行こう。




 居住区の方に戻ると、人だかりが出来ていた。装束姿の金糸雀隊だけじゃない、戦闘民ではない獣人族たちも。

 彼らの中心で説いているのが、エミルさんだった。覆面を外したまま、彼は語っていた。それはきっと、真実。紛いものだった像のことを。
 いずれも……うなだれていた。話しているエミルさんだって、辛そうだった。

 一人のご年配の方が言う。

「春の女神様は……私達の傍にはいなかった」

 彼に続くように、声が上がっていく。

「我らはお言葉のままに……その為にまい進してきたのに」
「今まで何だったのでしょう……」

 信じていたものが偽物だった、と。

「長の仰る通りなら……私達は罪なき少女を……」

 まだ私の存在には気づいてないけれど、自分たちがしようとしていたことにも絶望していて。

「女神様も、我らの愚行をお許しはしないでしょう……」
「……それは」

 落胆しきった彼ら、エミルさんも言葉は返せないようだった。かける言葉に迷っているのもそう、彼自身も憔悴しきっているようだった。彼も信じ続けていたから。

「――あのね、女神様は怒らないよ?」

 光輝く子犬が、一歩前に出た。ついでに私の存在も見つかった。

「シャーリーにね、『ごめんなさい』はしてほしいの。そうしたらね、女神様も『いいんだよ』ってしてくれるよ?」

 前面に出ていくリッカ。視線は一気に集中していた。発光しているのもだけれど、妙に惹きつけているともいえた。

「なんだ、この子犬は……」
「我らが女神のことを、わかったような口を……」

 女神を崇拝している彼らに、リッカは生意気な存在ととられたようだ。ここで『……そうか』と口にしたのはエミルさんだった。

「口は慎んで。おそらく――春の女神様に近しい方だ」
「!」

 言っちゃった……! エミルさんはきっと気づいていた。リッカのこと、意味深にしきりに気にしてもいたから。だからリッカのことを敬うようにと、伝えているんだ。

 ……どうしたものかな。モルゲン先生のご忠告もあった。リッカの真実を秘めておくべきだと。さあ、どうする――。

「……ごめんね、モルゲン」

 リッカも先生との約束を覚えていた。いながらも、彼は宣言した。

「僕は春の女神様の眷属――この身は女神様の為に」

 リッカの纏う光が、より強く。ああ、本当に眩い……。

 エミルさんをのぞいて誰しもが、信じられないといった様子だった。『この子犬が?』とか。『光っているのも妖術だろう』とか。飲み込めない事実だったのでしょう。

「あのね? シャーリーはね、エミル・ジュッチェに勝ったの」
「リ、リッカ……!?」
 突然、私に振られた。私にも視線が集まる……! エミルさんもそうだと何度も頷いている……! 
 ハラハラするけれど、こうとも思った。リッカは何かを考えての上だと。打開する何かを。

「だからね、僕も証明したいの――みんなが、僕の主を信じてもらえるように」
「リッカ……」

 本当に頼もしいよ、リッカ。君は今、力を示そうとしているんだね。

「僕も戦うの。噛みつくんだ……!」
「!」

 リッカが物騒なことを言い出した。いや、リッカ? ……君は頼もしい、頼もしいんだよ。でもね!?

「え……」
「戦う……?」

 戦闘に長けて体格もいい獣人族が……血の気が冷めていた。さすがに気が引けているんだと思う。

「――レースにしよう」

 様子を見ていたエミルさんが提案してきた。最終ゴールを決めて、早めに到達した方が勝ちと。
 そりゃバトルよりは、だけど。リーチが違う。走力だって長けていることでしょう。しかも、エミルさんはそれだけではなかった。

「――君にお願いしていいかな?」

 エミルさんの方から相手を指名した。さらにざわつきを増す獣人族たち。

「……ご指名っすか、エミル兄。いいすよ」

 前に躍り出た人……声からして、ティムさん。それにエミルさんや獣人族の人たちの反応からすると。彼は一番速い人、その認識で合っていそうだった。

「なんて手厳しい人……」

 エミルさん、徹底しているな。私の脳裏に浮かんだのは、谷底に子獅子を突き落とす親獅子。一番強い相手をあえてぶつけてくるなんて。
 でも、そうでもしないと意味がないんだ。そこまでするからこそ、リッカは証明ができるんだ。

「一族を背負ってますからね。正々堂々やりますよっ!」

 ティムさんは覆面も装束も脱ぎ捨てた。軽装となった彼は、走りに特化した恰好に。

「あ……」

 そうか、そうだったんだ。ティムさんは感じの良い人。でも、初対面から声を聞くとこう、モヤモヤするというか。
 ……リッカを蹴とばした人だ! ああ、ああああ……!

「……」

 リッカは相手を見上げた。うん、耳のいい彼だからこそ、私より先に気がついていたのかもしれない。くう……くううう……!

「……リッカ、祈ってるね」

 でも、リッカは勝負に集中していた。相手もそうだ。これは二人の勝負。奇しくも因縁がある二人のレースが始まる――。
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