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第五章
リッカ様
居住区の入口がスタート時点。ゴール地点は、あの像があった神殿前。二人の周りを飛んでいるのは球体だった。これで映像が映し出されるようだった。
私はエミルさんと一緒にゴール地点で待機していた。ああ、リッカが勝ちますように……! 私は両手を組んで祈り続けていた。
開始の合図と共に、二人は走り出す。
「ああ……!」
リッカもね、速い、速いんだ! ……でも、相手がそれを上回っていた。地を疾走し、木々を足場に伝っていく。あっという間に差をつけていく。ああ、ああああ……!
「僕、ティムにね? かけっこで勝てたこと一度もないんだ」
「そう……」
エミルさんは悠長に説明している。私はどう返せばいいのか。
「そんな怖い顔しないで、ね?」
「……難しい注文を」
思えば、エミルさんが体当たりをしていた相手。追いつかれるのを警戒していた相手、それってティムさんだったんだ。それだけの相手をぶつけてくるのだから。いくら力を示す為といったって。
「もういい……私はリッカを信じるのみ」
「うん、僕もだよ」
「……うん」
差はつけられる一方。それでもね、私たちは信じているの。
リッカは覚悟を決めて勝負に名乗り出た。そこにあるのは紛れもなく強い意思で――。
「――僕も、負けたくないの。力になりたいの」
映像だけのはずなのに。リッカの声が聞こえた。
「え……」
リッカは鋭い光を放つと、勢いを増していく……!
それだけじゃなかった。それはまるで――後押ししているかのようだった。
木々の枝がリッカを掴んでは、放り出す。地面に着くと、地面を滑走していく。草が滑りやすくしているかのように。
草花も、風も。リッカの味方だった。
追い風が吹く。リッカの勢いはもう止まらない。
背後から猛追してくるリッカに、ティムさんも焦りの様子を見せていた。いえ、リッカは視界にも入っていないことでしょう。
リッカはひたすら駆けていく。ついには――。
ゴールテープをもっていた二人も驚愕を隠せない。迫るリッカ。テープを切った、勝者の彼。
「おおーん!!!」
勝利の雄たけびが響いた。高らかなる声に――ただ圧倒される。
「ああ……」
感嘆の声を漏らすエミルさん。そう、私だって……。
「……」
私に芽生えたのは畏怖。あれだけ愛でて、慣れ親しんだあの子が……ただ。
遠くに思えて。
思い知らされる――春の女神様の眷属であると。
「……あ、シャーリー!」
「うっ!」
いつもの可愛い笑顔がそこにあった。リッカは私に突進してくる。ちょっと痛い。
「僕、勝ったよ! 勝ったんだよ、シャーリー!」
「あ、う、うん……頑張ったね、リッカ」
そう、この子は頑張ったんだ。私が撫でると、嬉しそうに鼻を鳴らしていた。私の腕の中にいるのは、いつものこの子で……。
「……いやぁ、速いっす」
ティムさんもやってきた。
「ごめん、エミル兄……あと、休ませて……」
リッカにリードされた後でも、ティムさんは全力で走っていたようだ。彼はゴール地点に着くといなや倒れていた。
それからしばらくして、獣人たちも集ってきた。レースの様子を見ていた彼らは戸惑っている。
そこで近づいてきたのがエミルさん。彼がとった行動は。
「あらぬ疑いをかけまして、申し訳ございませんでした――リッカ様」
彼が真っ先にリッカに跪いていた。続くは獣人族の人たち――一斉に。
「リッカ様は仰いました――過ちを犯した我らを受け入れてくださると」
「ええとね、そうだよ」
リッカ、きょとんと首をかしげていた。口にしていたことには肯定している。
「あ……」
というか、リッカ、思いっきり話していた……気にしてないのかな、皆。うん、気にしてないというか、当然とも思ってそう――春の女神の眷属だから。
「有り難きお言葉です、リッカ様。なれば我ら一同、贖罪の道を辿るまで」
エミルさんは態度を崩さない。改まったまま。
「春の女神様――しいては、リッカ様の為に」
エミルさんの宣言に、獣人族も一つになる。
「リッカ様の為に!」
「リッカ様、万歳!」
リッカを称える声が止まない。すごい歓声……!
「ええとね……」
リッカ当人はぽかんとしていたけれど、彼はハッとする。
「あのね、シャーリーにごめんなさいしてほしいの」
「申し訳ございませんでした!」
「多大なる無礼お詫びします、シャーリー様!」
ちょ、ちょっと……私にまで集中謝罪がきた……!
「……」
なんだろうね。私、謝ってほしかったのはある。散々苦しめられてもきたから。かといって、謝られてもっていう思いもあって。どっちなんだろうね。
「あとね、アルトとか、リヒターとか、リナとか、エドワードにも! そうだ、モルゲンも――」
「リッカ、リッカ……!」
私は複雑な胸中は今はそのままに、悪気のないリッカを止めることにした。うん、この人たちピンと来ない表情している。
うん、私も彼らに謝罪してほしい、全力でしてほしい気持ちはあるけれどね。
モルゲン先生、今回は参加していないから。それでも、私と同じくらい被害に遭ってきた先生。詫びはあってほしいのが私の本音だった。
「そうだね、彼らには改めてこちらから。出向くにせよ、お迎えするにせよ。誠意は見せるから」
エミルさんがまとめてくれた。彼らも落ち着いたようだった。
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