春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
440 / 557
第五章

焚火を囲みながら



「――こんな時間に外出?」
「!」

 出たところで、エミルさんに呼び止められた。彼は隣の家の前で待っていたみたい。

「なんてね。僕を伴ってくれてだったら。それなら問題ないから」
「エミルさん……はい、お願いします」
 
 冗談めいた様子だけど、エミルさんは警戒を緩めてないようだった。そうだった、一枚岩ではないって話だった。

「過保護でごめんね。心配なんだよ……貴女はまだ狙われているから」

 私は『人間』っていう、彼らにとって――。

「魅力的だから。あまりにも綺麗で、愛らしいから」
「え」

 綺麗な顔をしている人が、何か言っている。

「うん、シャーリーは素敵なのっ」
「だよね、リッカ様?」 

 なんか、ほのぼのとした雰囲気を醸し出しているけれど……いやいや。

「何よりも、貴女自身に……いや」

 エミルさんは続きを言うのをやめた。うん、まあ安心はしたけれど……。

「……歩こうか」

 暗い表情なのが、気になってしまって――。





 ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。白いモフモフは今日も、私の側で寝ていた。

 奥深い森――秘境ともいえる、知られざる場所。夜になると辺りはより暗くなっていた。
 私たちはこうして焚火を囲んでいる。

 揺らめく炎、眺めているうちに眠くなったんだね。たくさん、頑張ったもんね。

 ……君はいつもだけれど、今回は本当に、ね? 大奮闘してくれたから。
 たくさん頑張って……無理もさせてしまったね。
 本当にごめんね……せめて、今はゆっくり休んでいてね。

「わあ……」

 見上げると月が輝く夜空。木々の隙間から、夜の光が注がれる。綺麗――。

「あ」
「へっへっへっへっ」
 隣で一緒に見上げている存在……いつの間に起きていたんだ。私が彼の方を向くと、可愛い可愛いモフモフワンコは笑顔になった。

「か、かわいい……」

 もう何回言ったかわからないけれど、何度だって言いたい……可愛いと! 夜だから抑え目にしているけれど……可愛い!

「?」
「ああ……」 

 私が一人悶絶していると、モフモフは首を傾げてきた……出た! 渾身の首傾げポーズ! 可愛いねぇ! この角度、角度がね? たまらなくてねぇ!?
 ああー……可愛いねぇ、可愛いねぇ! ワンコは総じて可愛いけれど、この子は、この子は特段と可愛くてねぇ……!

 元々、犬は好きだった。私の幼馴染が飼っていて、私もよく遊んだりしていたから。

 ああ……名前が思い出せないな。姿も……。
 前世だからなのかも……そういうことなのかな。


 君がいてくれるから。私は気持ちも軽くなるの。救われてもいるんだ。

「本当にうちの――」

 私は、言葉を止めた。
 我が家のモフモフじゃないんだ……そうだ、この子は本来ならば――。

「……」 

 ……私が、おいそれと触れていい存在ではなくて……それに。
 この冬を越えて、春が訪れたら、そうしたらもう――。

「……ううん」

 『今回』も乗り越えられたんだ。今は平和な時を大事にしたい。楽しく、笑って。
 君と笑っていられる日々を、一日一日大切にしていきたいんだ。

「ね、前に君が言ってくれたこと。たくさんお出かけしたいところがあるって」

 いつも君には寂しい思いもさせているから。ね、一緒に行こうね? うん、すごく嬉しそう。そんなに尻尾を振ってまあ……ふふふ。
 可愛いねぇ。尻尾、そんなに振るんだ。そんなに高速で振るんだねぇ……!
 本当に可愛いねぇ!

「……」

 ねえ、もうすぐ春だね。
 君の大好きな人と逢えるよ――。

「……悲しそうな顔している」
「あ……」

 エミルさんまで、いつの間に。彼は私の顔をじっと見ている。

「いえ、なんでもないです。ね、リッカ?」

 リッカはというと……再び寝ていた。可愛い寝息を立てながら。

「……」
「……」

 実質、二人取り残されたというか。沈黙が気まずいというか……。
 リッカ、起きないね。ああ、大爆睡だね。私に彼の眠りを妨げるなんて出来る? 出来ないでしょう……。

「ふふ。ジュッチェ、だって」

 あ、言っちゃった。私もね、密かに思ってはいたんだ。リッカ、噛んでるなって。久々だなぁって……。

「……起きてないよね?」
「すぴー……」
「……ほっ。すみません、でもリッカなので許してほしいです」

 リッカが聞いてなくて良かった。
 いいんだよ、ジュッチェでいいんだよ。相手の名前噛むとかって私言っていたけど、リッカはいいんだよ……! 気にしなくていいんだよ、真夜中に練習とかしなくていいからね……!

 ……起きてないよね?

「もちろん、リッカ様だからね。微笑ましいなって思っているし」

 貴女も、って私のことも話がありそうだった。

「敬語に戻っちゃってる」
「それは、まあ……」

 妙に緊張しているのもあるけれど、相手は元々学園の先輩でもあったから。どっちかって迷いもするけれど。

「それじゃ、こっちで。エミルさん、家に戻らない?」

 家でゆっくり休もうと提案してみた。リッカは起きないので、私の方で抱っこする。

「……うん」

 エミルさんは嬉しそうにしていた。これで良かったのかな……? 

「僕もね、貴女のことを――」

 エミルさんは首を降って、それ以上は口を噤んだ。憂いのある顔で、私のことを見つめてくるけれど。

「……うん、そうだ。僕もちゃんと話をしないとね」

 エミルさんは手を胸にあてていた。

「ねえ、ジェムさん――今宵、話をしに行くよ」
「……っ」

 私の家に、ではない。彼が言っているのは『夢』の方だと思った。
 エミルさんの記憶になくても、彼は自然とわかっていたんだ。
 話すべき場所は、鳥籠の夢の中であるのだと――。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。