春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第五章

呼び方

 それからはというと。当たり障りのない話、呼び方の話題にで盛り上がった。苗字で呼ぶのを通そうとしたエミルさんに対し。

「……いやー、センパイ? リナって呼んでほしいかなー?」

 ゼンガー呼びはあまり、というリナさんや。

「余も気軽に呼んでくれて構わぬぞ!」

 フレンドリーなエドワード君はそんな感じ。

「でも、いいのかな……」
 後ろめたさがあるエミルさんは、遠慮がちだった。

「……失礼ながら申し上げます。ご本人が許可されているのなら、よろしいのではないかと。歩み寄る第一歩でもありましょう」

 リヒターさんのフォローが入った。リナさんもエドワード君もうんうんと頷いている。エミルさんの表情も緩んだ。

「ありがとう、リヒト」
「え」

 リヒターさんから抜けた声がした。虚を突かれたかのような。

「あれ? リヒト・リヒター君、でしょ?」
「え、ええ……その通りではございます。ええ、お好きなように」

 彼は動揺から立て直し、いつもの無表情に戻っていた。そういえば一回、目が合った気がした。困った顔していたけれど、もう大丈夫なのかな?

「あとは……モルゲン君。モルゲン先生の弟さんの」
「はい、モルゲンです。モルゲン君で結構です」

 リッカと遊びながら、アルトはそっけなく返す。塩対応というか、塩辛対応というか。

「あ、うん……」

 エミルさんもそれもそうか、といった感じだった。所在なさげにもしていた。

「……エミル、悲しそう」

 と、お膝の上のワンコも、尻尾が垂れ下がっていた。アルトもたじろぐ。

 エミル。リッカは自分が噛んでいたというのを、夢うつつのまま知ってしまったともいうか。早朝からの『猛特訓』に立ち会ってしまった……。
 でもって、リッカは難航していた。私から『エミル』呼びでいいんじゃないかって。リッカの顔が一気に明るくなった。うん、それは良かったんだ。だけど……。

「いや、だって、ねえ?」

 アルトは隣の私に伺ってきた。うん、アルトの反応は仕方ないと思うんだ……。といっても、エミルさん、萎縮してしまっているし……。

「う……シャーロットまで……」

 私もだった? 顔に出ていたのかな?

「……まあ、俺も苗字はちょっとなんで。ということなんで、名前でも別に」
「良かった、アルト!」

 ということで、アルトも名前で良いようだった。エミルさんも安心して笑顔になっていた。

「ねえ、エミル。シャーリーはいいの?」

 リッカの何気ない一言。なのに、彼らに緊張が走っていた。わなわなしているアルト。表情に変化があるリヒターさん。気遣う方のリナさんも不自然に触れてこなくて。朗らかなエドワード君も難しい表情をしていた。

 ……私もどうしたものか、だし。ただリッカだけがニコニコしていた。

「……そこまでは望めないから」
「……」

 鳥籠の時も、エミルさんはそう呼ぼうとしていた。それは結局なされなかったけれど。

「第一歩、か……」

 リヒターさんの言葉を借りさせてもらった。彼は再び『えっ』ってなっていた。どうしたの?
 私たちの関係は変わろうとしている。ならばそうだね、これも一歩なんだ。

「……いいのかな」

 ――吸い込まれそうな緑の瞳。エミルさんは見つめてくる。それはすぐに元の茶色には戻ってはいた。

「うん、エミルさん」
「……ふふ、そっか。うん、それじゃ――」

 ――シャーロット、と。
 色々なものが込められているような、そんな呼び方だった。

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