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第五章
僕も立ち向かってみるよ
三連休も終わった。学園生活、日常に戻ってきたんだ。
朝もリッカと散歩、日中は授業を受けて、それで放課後もリッカと散歩……!
と、浮足立つ一方で。
「……結局、わからないまま」
例の像を破壊しきったのはこちら。犯人は結局不明のまま。まだ不可解な部分もあるから。
……でも、今はいいかな? 日常を楽しんでも許されるかな?
私は図書室に立ち寄ってみた。リッカとね、約束もしているんだ。他にも春の女神の絵本はあるから。うん、借りよう借りよう。
室内に入り、カウンターをちらりと見てみる。エミルさんの姿はなかった。今日はいない日なのかな? 私は正直寂しいと思いつつも、目当ての本を探すことにした。
「こんにちは。お願いします」
「はい」
委員さんにお願いし、手続きを終えた。リッカ、待っててね? 私は帰ろうとすると。
「……あの。エミル先輩ですが、排架整理の業務を行ってます。います。いるんですっ」
「そうなんですか?」
図書室内で作業していると。それじゃ、ちょっと捜してみようかな。一声かけておきたいし。
「教えてくださってありがとうございます。それでは」
私は会釈して捜しに出ることにした。
「……?」
いつの間に女の子の委員が集まってきたのか、こちらを見ている? きゃっきゃしていて、なんだか可愛らしかった。楽しそうな雰囲気を邪魔するのもだし、私も早く行こうっと。
空が橙に染まっていく。図書室内を歩き回っていた私は、エミルさんを発見した。
「あらら……」
本棚にもたれかかって――寝息を立てていた。
近くにあるのは、本を入れていたであろうカゴ。中は空だったので、やり終えたんだと思う。
「ふふ……」
気持ちよさそうに寝ている。図書室内は暖房も効いているから、快適な眠りだと思う。そうだね、委員の人に伝えて、私は退室しよう――。
「――シャーロット?」
エミルさんはゆっくりと大きな瞳を開いていった。まだ寝ぼけているのか、目のあたりを軽くごしごししていた。
「……っ」
私は内心悶えていた。猫のような仕草、しかもこんな無防備な姿……! 見た目の愛らしさも相まって、萌えていたともいうか……。
「……って」
これ……エミルさんにばれたら失礼だよね。幸い、本人はまだ寝ぼけているようだった。
「……ふわぁ、よく寝た」
体を思いっきり伸ばしていた。それからエミルさんは立ち上がる。そして、私を見るやいなや。
「……って、ジェムさんっ!?」
と叫ぶと同時に、彼は口を押さえていた。意図せぬ大声だったようだ。
「……いや、シャーロットで良かった?」
寝ぼけている、さらに混乱もしているようだった。
「はい、シャーロットです」
「そう、そっか……どこから夢でそうでないのか、わからなくなってた」
エミルさんはようやく意識がはっきりしたようだった。
「……こんなに眠れたのも久々で。というか、今までまともに寝てたかなって」
「それは……」
私は覚えがあった。当時のアルトも寝てないって言っていたから。
良からぬ力をもたらしていた『アレ』。そうした副作用もあったのかも。
「はは、今まで無理してたんだなって」
「うん、それはそう」
学生生活に、図書委員に、族長もやって――金糸雀隊の長まで。どれだけ多忙で、負担がかかっていたことだろう。
「……だよね。常人じゃなかったんだ。僕、セーブしないとな」
「……うん」
エミルさんはわかっているんだ。あの力が無くなったから、何もかも兼ねるのは難しいって。
「どのみち最高学年だからね。後輩達に道を譲っていかないと」
「図書委員活動、減らすの?」
「……うん、そうだね。何を減らすかってなると、それかな」
「……そう」
私の顔は沈んでしまっていた。それって、一番あなたが――。
「一番、僕が安らげた活動だったけどね。でも、何かを犠牲にするなら僕はそうする」
「……」
確かにそうなのかも。親御さんの代わりに、族長として導いていくこと。学生として通えるのようになったこと、それも大変な道のりだったと思う。
「……『あの活動』は、そうじゃないの」
あの活動――金糸雀隊としての。余計な口だったとは思う。エミルさんの瞳も伏せられた。
「ごめんなさい。でも、一番望んでないと思っていて」
「……シャーロット、それはね」
エミルさんは答えに迷っているようだったけれど。
「……うん、それこそね。僕の親世代から変わってきてもいるんだ。請け負うのを続けるかどうかって話も出てきている」
「!」
エミルさんのご両親が尽力しているって。
「……貴女とのこともあったから。うん、そうだ。僕も立ち向かってみるよ」
ありがとう、とエミルさんはこっちを見て笑った。そう、彼も両親の意思を継いでいるんだ。
「うん、エミルさん。あなたなら、きっと――」
変わってきているんだ。
そうだ、繰り返しの日々も。あれだけ苦しんだことも。
無駄じゃなかったって、そう思えたら――。
日々が過ぎていく。二月ももう終わりに近づいていた。
私とリッカは自宅に戻ってきていた。就寝準備を終え、あとは寝るだけ。
明日は私の誕生日。無事、迎えられるよね?
元凶――私に死をもたらしてきた像は、破壊された。
それでもどうしてだろう。
不安な気持ちが消えてくれない。
時計の針が零時を告げる。冬の最後の日になったけれど。
「ああ……」
家の中にまで雪崩れ込む雪。一面の白が私たちを埋め尽くしていく。
遠のいていく意識、最期に聞いたのはリッカの泣く声。
冬はまだ終わっていない。
春は訪れない――。
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