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第五章
私の前世は――
突き抜けるような青空、清々しいまでの。私はそこをぷかぷかと漂っていた――。
「!?」
私は正気に戻った。ここが夢の中だというのはわかる。それも異様なものであるとも。
『――フフ、ヨウコソ』
「……」
どこからともなくする声。この抑揚のない声もそう、異質だって教えてくれる。
『ムダダヨ。イキツクサキハ、キマッテイル』
「なにを……」
断定している声。私は納得がいかなくて、体を起こそうとするけれど。
「くっ……」
浮遊感をものとも出来なかった。体のコントロールが効かない……!
『ナンドモナンドモ、クリカエシテモ』
「……?」
『ミライハ――オナジ』
「……決めつけないで」
得体の知れない相手に声は震える。でも、黙ってもいられなかった。決めつけられたくもなくて。
『……嫌でしょ? どれだけ繰り返しても――変わらないって』
「え……」
一定の調子だった声に変化があった。妙に同情しているというか、優しい声ともいうか。ただ、その声が誰のものかが特定出来なくて……。
女性的で男性的。大人とも、子供ともいえる声。
『だから――オチテオイデ』
「!」
声はまた無機質なものに戻った――突如、私は無数の黒い手に拘束される。
「くっ……!」
このまま引きずりこまれようとしていた。
『キミノシテイルコトハ、イミガナイコト』
「ち、ちがう……!」
『キミハ――ノガレラレナイ』
「ちがうってば……!」
私は抗い、もがく。そうするほど、拘束は強まっていく。
『コノセカイハ、ヤサシイ』
「!?」
優しい世界!? こんな理不尽に捕まっているのに……!? ありえない、と私は足掻く。
「あ……」
私の目の前に繰り広げられる情景――日本での暮らし、『冬花』の頃の記憶だった。しんどかたけれど、確かに死の恐怖とは無縁だった世界。
「!」
平和だった世界が――一変した。
「……っ!」
私は目を背けた――『目の前の出来事』から。
「片桐先生……」
片桐先生と転落死した、かつての『私』の姿。
「……」
心臓が早鐘を打つ。汗が止まってくれない。
『キミハナンドモ、ナンドモ、クリカエシテ――』
「……しっかりして、私」
恐怖に浸食されながらも、私はうっすらと目を開く。きっと、そらしてはいけない事実がそこにあるのだと。
――次々と見せられるのは、多くの死。
ある修道女の娘。
ある商家の娘。
ある学者の娘。
ある貴族の娘。
ある奴隷の娘。
ある兵士の娘。
そして。
ある魔女の娘――いいえ、この子は……この子だけ、姿が不明瞭だった。
……どのみち、彼女たちが辿る結末は決まっていた。
少女の死。見るも無惨で、辛いもの。
私の涙は止まらない。苦しい。胸が締めつけられる。
いずれも、若い少女の死。十にも満たないほどの……。
「待って……」
この子たちは、見たことのない……?
「……いいえ」
この懐かしい気持ち。
とても他人事とも思えないもの。
『私』と思えてならないもの――。
『ナンドモ、クリカエシテキタ。ミジカイ、ショウガイヲ』
「あ……」
そう。
そうだった。
私の前世は――皇冬花じゃなかったんだ。
都合よく、片桐先生や日向ちゃんのことを覚えていたけれど。
でも、他は不自然なまでに忘れてしまっていた。
私は何度も何度も――『転生』を繰り返してきたんだ。
何度も何度も――幼い頃に、私は。
――死は、いつだって私の近くにあった。
「ああ……」
今に始まったことでもなくて、それはずっと……。
『――死に怯えることのない、世界』
声が告げる。
私が望んでいたもの……渇望していたもの。
今のシャーロット・ジェムがそう。ここまで生きられたのが、奇跡というのか。
『だから、おいで――』
「……」
なんて、優しい声なんだろう。
この声にさえ、委ねてしまえば――。
この声に、私は瞳を閉じようと――。
『シャーリー!』
脳裏に浮かんだのは、白いモフモフワンコだった。
リッカだけじゃない。
アルトも。
リヒターさんも。
リナさんも。
エドワード君も。
エミルさんだって、そう。
共に過ごした、乗り越えた彼らのこと。
それに。
「……先生」
『シャーロット』と呼ぶ声。
どれだけ助けられたか。どれだけ支えだったか。
『皇』と呼ぶ声。
優しい先生だった。そうだったの。それは揺ぎなかった。
――味方であるのは、それは変わらないこと。
「ふふふ……」
自分が嫌になる。また、見失うところだったね。
「そう、強く願えば……」
強い気持ちをもって、と。そうも教えてくださっていたのにね。
「私が望む世界は――ここじゃない」
どれだけ侵されようと、気持ちでは負けたくない。
――目の前が広がった。青空が消失し、白く発光する世界。
『くそっ……』
忌々しそうな謎の声、それも遠ざかっていく。
「あ……」
いつもの、いつもの鳥籠の夢に戻っていた。鉄製のそれに囚われた、いつものもの。
本当に不思議なもの、おかしいよね。
こんなにも安心できるだなんて――。
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