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第五章
貴女は知らない④
穏やかな日々は過ぎていく。一年が経って、さらに迎えるのは春――。
今日は貴女の誕生日だった。常緑のこの地でも、翌日に本格的な春を迎える。集落の花々も一斉に芽吹くんだ。五百年経ったこの地もそうなんだろうね。見事なんだろうなぁ。
事あるごとにお祭りだ、宴だってなる。賑やかで楽しい人達だな。といっても、僕達も結構そうだったりしたかな。
今もその帰り道だった。美味しい料理だったね?
「家に帰ってもね、お祝いは続くよ?」
僕だって密かに準備を進めていた。彼女はわあ、と顔が華やぐ。そんな彼女を見て、僕はたまらなくなった。
彼女はようやく笑うようになっていた。僕がこうしてさりげなく手を繋いでも、握り返してくれる。
目を合わせて、微笑んでくれるようになった。ああ、愛しいな……僕は握る力を込めてしまった。
居間には、すでにパーティーの準備をしていた。といっても……ケーキはよそで調達したというか。飾りもそう、大半は手伝ってもらったともいうか。
……おかしいね? 僕の算段だと、僕自身の手で完璧に出来たはずなのに? うん、でもね。協力してやり遂げるのもいいものだよね。一緒に準備するのも、楽しいものだった。
「はい、プレゼント。開けてみて?」
ケーキも食べて、二人でソファにまったり座っていた。緑色の包みを彼女に渡す。彼女はとても喜んでくれて、にこにこでお礼を言ってくれた。可愛いな……。
僕が上げたのは、グラスだった。僕も自分用に作っておいた。ペアグラスになるようにって。
そう、さらりと作り上げたと。僕はそう自慢しようとしていた……まあ、嘘になるけど。
「……」
無理だった。彼女のまっすぐな目はお見通しなんだろうな……観念するしか。
「……もういい、認める。僕は不器用だ。壊滅的なまでに!」
何回試行錯誤しても酷い出来栄えだった。
でも、これは執念でもあった。僕は思いを込めて、ようやく作り上げたんだ……!
息をまく僕を見て……え、笑ってる? そんなに笑う? いや、可愛いけど……。
「もう……気に入ってくれた?」
僕が拗ねるように聞くと、彼女は慌てて謝ってきた。いいけど……いいけどね?
うん、いいんだ。
本当に笑顔でいてくれている。本当に本当に可愛いんだ。
――可愛い。
「……あ」
僕は気がつけば、彼女の頬に手を添えていた。自分が何をしでかそうとしているのか、顔を赤くしながらも手をひっこめた。
「……っ」
彼女が呟いた言葉に、僕は息をのんだ。そう、そうだね……僕達は初めてではない。
コトっと。僕があげたグラスは丁寧にテーブルに置かれた。
ひっこめた僕の手に、彼女が手を重ねる。その手は再び彼女の頬へ。瞳を閉じた彼女。
ねえ、自惚れじゃないよね? うん、これは自惚れじゃない。
――愛しいって。貴女からその感情が伝わってくるんだ。
深く、伝わってきた。だから。
互いの唇か重なる。軽い触れ合いだったのが、やがて深くなっていく。
どれだけしていたのかな。どれだけしたかったのかな。飽きることもなく、互いに夢中になっていた。
どうしよう。止まらないんだ。
合間に見つめ合う。彼女の上気した顔。蕩けきった瞳。そうだ、僕だって同じだ。
止まらない。
もっと、もっと。彼女を求めてしまう。
理性で抑えてつけてきたけれど。模範的であろうとしたけれど。そんなのもう無理だ。
ただただ、彼女が可愛い。愛しい。好きだ。愛しているんだ。
どれだけ本能のまま貪ったのか、僕達は全てが露わになっていた。隠すものなんて何もない。
僕は彼女を求めて。彼女も僕を求めて。
僕達は番った。
夜の空が色を変えていく。白み始めていても、僕達はずっと――。
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