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第五章
貴女は知らない⑤
しおりを挟む「――おはよう」
朝日が差す部屋、僕達は目を覚ました。ソファの上、抱き合っている二人。離れるのが名残惜しいかったけれど……二人して、お腹の音が鳴ってしまって。
うん、お腹空いたよね。さあ、準備しようか――。
「あ……」
あ、うん、ごめん……立つの大変だよね。その前にお風呂入ろうか。ひとまずは僕に寄りかかって……そう。
それから羽織るものでも……あ、僕が着ていたシャツが床下にあった。とるね? 服も脱ぎ散らしちゃったし、あとで一緒に洗濯しようか。
「いいえ、どういたしまして?」
僕が好きでしていることに、貴女は律儀にお礼を言う。ふふ、愛しいな。
風呂場に着いたけど、彼女は中々入って来ない。照れているのかな? ――なんてのんきに思っていた自分を恥じることになる。
彼女は僕の背中の傷、それから――尾骨あたりを見ていたんだ。それも辛そうに、心を痛めているようだった。
……ああ、そっか。背中の傷にある傷、それはまだ想像ついたと思う。修行や任務によって出来たもの。
尾骨の傷……醜いものを見せたな。そう、任務に支障が出るからと。元々あった尻尾を――。
「え……」
彼女が背中に手を添わせると、後ろから抱きしめてきた。僕は驚きはしたけれど……うん、泣きそうな気持ちになった。
彼女は何も言わない。ただ包み込むかのように、抱きしめてくれた。
うん、ありがとう。きっと貴女はね――僕の全てを受け止めてくれるんだ。
穏やかな毎日、満たされる日々。
この日の夜は、久々に絵本を読んでもらったんだ。ええと、春の女神様、ではないかな。可愛い子猫の本。子猫の小さな冒険を綴ったものだ。
「……ん?」
読み終えて、ベッドの中でまったりしていた時。彼女からの視線を感じた。僕の猫耳にだ。僕はもしかしてと思った。絵本でもやたらと猫耳の描写あったし。前からそれとなく視線も感じていたし。
「触りたい?」
あ、この反応。図星だった。いいよ、いくらでも。素直になった彼女は感触を楽しんでいた。ふふ、くすぐったい。撫でてもくれるものだから、なんだか……心地良くて……。
あれ、僕は彼女とベッドで寝ていたはずなのに? 自室の机の前に座っていた。
これはなんだろう? 木で出来た鳥籠――その中にいるのは彼女で。ふふ、とても幸せそうに寝ている。
そうだ。こうして僕が守っているからね。やっとなんだ。やっと貴女を守れるようになったんだ――。
僕はね、思うんだ。もし、この未来を選ばなかった自分がいたとしたら。
なら、どうやったら彼女といられるというの。
共に生きられたというの。
僕も、彼女の選択だってそうだ。間違ってなんかいない。いないはずなんだ……。
……ううん、いいか。
僕も彼女もしあわせだから。互いを求め、愛し合っているのだから。
……ええと、そういえば? 彼女には言ってなかったかな。伝える機会もなく、ずるずると。
あの秘薬、仮死薬だったんだよね。彼女がオーナーさんと慕っていた人が作ったって。昔に譲ってもらったんだって。特殊な調合、彼女も知らなかったんだと思う。
仮死状態にして……そう、そうだ。教えてもらったんだった。コールドスリープ! それが一番近いのかな?
それで僕は遠くの未来に賭けたんだ。僕達が許される未来に。
可愛いよね。疑いもしないよね。信じ込んで。僕にキラキラした目を向けてくれている。
でも、僕達の為だから。必要なことだったから。騙すだなんてとんでもない。
ふふ。傍にいて。貴女を独り占めできて。ついには――番になって。
こんな『しあわせ』なことある?
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