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お目当ての相手。
しおりを挟むその……私に会いに? ブリジット様でなくて、私? どうしてですの? あれだけお怒りであって、収まらないままではありませんでしたの。
あと彷徨う……彷徨う? 鉄道で一本ではありませんの? いえ、港町にいるということを存じてなかったからと、私はそう考えておりましたのに。
「……方向音痴、ご健在ときたか。相当迷ったんだろうな」
「方向音痴、ですって」
反芻した私に、シルヴァン殿はそう、と振り返って返事してくださって。妙に納得とも仰ってますわね。ええと……方向音痴? 初耳でしてよ?
「はっはー、よく辿り着けたよな、俺っ! ひとえに親切な民たちのおかげでもあってだな!」
殿下は得意そうに笑っておいでですわ。ええ、殿下ですものね。この一言で片がつきそうですわ。
「……本当によくしてくれたんだ。この地の方々も――何より、君達が」
「……エミリアン様?」
私は彼の表情を伺えないけれども、その声音はどこか温かくも悔いてもいるようで。
「……俺はずっと考えていたんだ。君達二人を失って、俺は何をしでかしたのか。無論、前のような関係に戻れるとは思っていない。それでもな……顔が見たくなったんだ」
「……」
そう、私には殿下も……シルヴァン殿がどういった表情をしているのか、それがわからない。ただ、シルヴァン殿は――。
「……だからって、もっとやりようがあっただろ。王太子という身分を捨ててまで、とか」
泣きそうな声だと、私はそうとれました。そうですわね、あなたは誰よりも殿下を信じていた……信じていたかった方ですもの。
「悪かった。申し訳なかった……」
「やめろって……おやめください、エミリアン様」
鼻水をすする音と布が擦れる音で察する――殿下が頭を下げられたのでしょう。それを目の当たりにしたシルヴァン殿からは完全に敵意が削がれているようでした。
「……ったく。アリィの言う通り、いつまでもだよな。うちに招待する、もちろんアリィもな」
シルヴァン殿は体をずらし、殿下を招いていました。私はようやく殿下のお顔を拝見できまして――ああ。その、殿下? 涙と鼻水でお顔がぐしゃぐしゃでしてよ……? これはもう、シルヴァン殿が絆されるのも無理がありませんわね。
「シルヴァーン!」
感極まった殿下は遠慮なく彼に抱き着いていました。頬ずりまでしてますわね。ある程度させた後、はがされていましてよ。
私は殿下と共にお呼ばれすることになりました。イブは夜勤でお仕事中、声を掛けられなくて残念ですわね……。
「積もる話があってだなー? おーい、アリアンヌもいくぞー?」
シルヴァン殿に肩を回しながら、ご機嫌な殿下。私にもお声がけしてくださっています。遅ればせながらも私も参ることに。
にこやかで朗らかな殿下。王太子としての姿でなくても、彼は彼らしきまま……彼らしい。
「……」
殿下。私はあなたのことを信じるには……色々な仕打ちを受けて参りましたの。
一方で、その度にどこか悔いているようなところもあって。
私は……どのあなたを信じればよろしいのでしょうか。奇しくも彼は次の攻略対象――最期のお相手ですわね。
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