脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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剣と盾たち。

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「俺……私にも民は必要だ。ただそれは、我を通す、自分がやりたいようにする為じゃない。貴公と一緒にしないでくれないか」

 堂々と言い切った殿下。冷笑を携えていた狂王は――無の表情となる。

「――今一度問おう。お前がその愚かしい考えは捨てる気はないのか。お前はいわばもう一人の私。なあ、そうだろう? お前は本当に……力が望まないのか?」

 狂王は玉座から立ち上がった。そして殿下に手を差し出している。

「……いや、十分だよ。こりごりだ」

 前世の頃で十分、殿下はそう思っていることでしょう。ええ、今の彼はそうではありませんもの。

「……ほう。ところで娘よ、悪かったな。私は君を見くびっていたようだ」
「私……ですの?」

 急に私? 彼は蠱惑的な笑みを向けていますわ……警戒する一方ですけれども。ああ、殿下やオスカー殿もそうですわ。

「なに、私は好まない。だが、そちらの『私』はそうではないようだ。なあ――私よ。そちらの娘は所望しないのか? 権力、力をもって意のままに」
「……彼女を」

 殿下はぽつりと。私を横目で見てきているのです。殿下……? 

「……望まないわけ、ないだろう。俺は誰よりも彼女との未来を望んでいる」

 切々と殿下は口にしている。瞳を閉じた彼は思いを馳せる――けれども。

「――そんな俺にさ、この子は容赦ないんだよな、これが!」

 殿下は私からぷいっと顔を背けると、長々しく溜息をついていました。

「俺が間違っていたらビンタ! 頭突き! はあ、やれやれ……暴力令嬢め!」
「で、殿下……それは!」

 次は腹パンかぁ? と殿下は恨めしそうにしていました。ええ、そのお言葉は甘んじて受け入れましょうが。

「事情もあってではありませんか! ええ、致し方なく!」
「ま、それもそうなんだよなぁ」

 必死な私に対して、殿下? 軽くありませんこと……? 

「――というわけだ。貴公が出る幕はない。俺は――今の俺として。民とも彼女とも向き合っていく」
「……そうは言うがな」
「……言いたいことはわかる。俺の中での貴公は消えるわけじゃない。それでもだ――俺は貴公を乗り越えていく!」

 と宣誓した同時に、殿下は手持ちの剣を投げつけていました。狂王は難なく片手で受け止めてはいます。

「もうお喋りはいいだろう? 俺の怖い伴侶がな、言うんだ? 武をぶちかませと――勝って本当の俺だと証明してみせろってな!」
「殿下……」

 ええ、私が申したこと。

「……愚かしいことを」

 狂王は一つ、手を叩く。出現したのは数多なる魔物たち。

「……」

 猛者たちが苦戦した相手、加えて狂王を――私たち三人で迎えなくてはならない。

「……いいえ」

 前を見据えている殿下の背中、本当に頼もしいこと。不安すら打ち消してくれるものでしてよ。
 何も怖くない。恐れなんてない。それに――。

「アリアンヌ様!」
「……イヴ?」

 駆けつけてきたのはイヴだけではない。

「聖水、切らしていたらお申し出ください。それに――攻撃面でも援護させていただきます」

 ヒューゴ殿も。弓を構えてらっしゃるわ、武芸に長けてらして? 

「待たせたっ! こっちでいくらでも足止めしてやるっ!」

 シルヴァン殿も息を切らしつつも、良い笑顔をしていました。ええ、殿下のお傍にいられますから。

「聖なる力で抑えますから――どうかご加護を」

 祈るはブリジット様。ああ……力が与えられていますわ。

「……皆」
「ええ、殿下――皆様がついていますわ」

 心強いこと。ええ、恐れなどないのです。

「――よっしゃ! やりますかぁ!」

 オスカー殿の声が広間に響く。彼の手に集まるは白き光――王の盾たる力。

「――盾となり、王をお守りします!」

 殿下の盾となって、殿下の行く末をお守りする。

「……ええ、私も」

 そうです、私もなのです。

「――剣として。切り開いてみせましてよ!」

 さあ、行ってくださいまし、殿下。盾と剣があなたの道を守りますから。あなたの本懐を成し遂げられるように。

「……ありがとう」

 殿下は勢いづけて、魔物の中を駆け進んでいく。狙うはただ一人――狂王。

「くっ……」
「はっ!」

 両者の剣がぶつかり合う。互角……いいえ。どちらが優勢か劣勢かは――明白でした。

「――終わりだ、狂王。俺は民と共に生きていく」

 私たちの王――優しき王が負けるでしょうか? いえ、そのようなことはありません。

「……」

 断末魔が上がる。殿下の剣が――狂王の胸を貫いていた。

「ぐはぁ……」

 かつての王が消えていく。黒い霧をまとい――完全に消滅していった。

「……あなたは何者だったの」

 突然だった。新たなるダンジョンの出現と共に現れた――かつての王。その真相はわからないままではあったけれど。

「――勝った!」

 オスカー殿による勝どきの声が上がっていました。打ち倒した実感が次第に沸いていて、場は興奮に包まれていました。

「はあはあ……」
「殿下……」

 殿下はというと、息を整えながらも狂王がいた玉座を見つめていました。私はそっと近づく、すると殿下は気づかれました。

「……って、今すぐにでも抱きしめたいくらいだけどな。まだ終わったわけじゃないから」
「ええ……そうですわね」

 狂王には打ち勝った。けれど、多くの民の心は離れたままなのかと。殿下、心配には及びませんわ。私は笑ってみせましたの。

「殿下、共におりますわ。共に伝えて参りましょう」
「アリアンヌぅ……」

 殿下は瞳に涙を滲ませていますわ? 当然のことでありましょうに。
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