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本気、目の当たりにしてきたのでは?
しおりを挟む「――通る気がしていました」
「!」
森林道よりそれた道、私たちはそちらを走り続けていた。そこに待ち構えていたのは――。
「え、ヒューゴ様……?」
唖然としていたブリジット、彼女の顔は青褪めていました。暗闇の中、一人立っていたのはヒューゴ殿なのでしたから。
ええ、彼ならばイヴたちに協力しているのが自然、ならば逃走を見越して張っていたのか――そう考えてのことかと。
「……?」
私だってそう、ヒューゴ殿のお姿にドキリとしてしまい、とことん読まれていたのかと思っていたのですが――。
「……??」
何かが違う? この木にもたれた立ち方、この怠そうな立ち方。ほら、ブリジットも首を傾げていましてよ?
「……もっと早く気づいてほしかったな。『ヒューゴ様』、こんな立ち方します?」
「!」
ユウ君!? よ、よく事態が飲み込めないけど、とにかくユウ君!
「……?」
ブリジット、何のことやらでしょうけれど、上手く説明が……!
「……ブリジット、ひとまず話を聞いてみましょう」
こっちに話があるのは確かなよう。そして、わざとブリジットと呼んだこと。相手が精通していること、あなたなら察してくれるかと! 彼女、こくんと頷いてくれましたわ!
「……久々だからもっと話したいところだけど、それどころじゃないですよね」
と、ヒューゴ殿の声で語るユウ君。彼は寂しそうにはしつつも、真顔になりました――どこか、こちらを咎めるかのような?
「――『賢者』討伐戦線、でしたか」
「!」
交渉とはなんでしたの……!! そこまで話が進んでいたとは……!! 賢者――しいてはセレステを討つ話に結論づいているではありませんか!!
「『ヒューゴ殿』も大層乗り気なようで。ちょうど意識が切り替わる時間帯だったから、抜け出せて来られましたけど」
と、ヒューゴ殿の声で言っていますわ。
「???」
ああ、ブリジットはますます混乱していて……。
「で、あなたは? 本当に説得出来ると思っているんですか?」
「それは、ええ!」
説得出来る、何としてもしなくてはならないこと。私は力強く頷いた。そうだというのに。
「はあああああ……」
なんたる長き溜息よ。ユウ君、額に手まであてていてよ?
「……あなたは乗り越えてきた。強い人だと思っています」
そう優しく語りかけてはくれはしても。
「――でも、あの男達の本気も侮らない方がいいです」
「え……」
彼らの本気? 本気……。
「うざいくらいあなたのことが好きなんですよ? 野郎相手の元へってのもあるけど――危険だと思っている地にどうして」
――送り出せるのかと。
「それなら、相手をどうにかする。一応、あなたを思って? 交渉をする気ではいるんでしょうし」
「それは……」
そこにあるのは友情か――別のものか。どのみち私のことを大切に思ってくれているからこそ。
「同じ思いです」
――俺だって、と。ブリジットの手前、そこは途切れてはいました。
「……」
私はそんな彼ら相手に対し、それでも――説得がしたかった。それでも。
「それでも、です。私はお願いする所存です――セレステの元へ連れていってほしいと」
その気持ちは確かだから。
セレステに会いたいし――アリアンヌ様のこともある。賢者の力が使えるというのなら、きっとセレステは――。
「はあ……この人は昔から頑固だからなぁ」
溜息と一緒にしみじみと。えっと、ユウ君? 突然だね?
「……ワンチャン、あの人ら甘いところもあるから絆されるかもだけど? でも、ほぼ可能性は無し。あの従者にしろ、王子にしろ、今度は逃しはしないでしょう?」
「可能性は……」
「ほぼゼロです。本気、目の当たりにしてきたのでは?」
「!」
……ええ、そうですわね。彼らの本気に私は触れてきた。一縷の可能性に縋るのも良いけれど。
「――もっと確実に行きましょう。こちらです」
私の手をとるは――『ユウ君』。どこへ連れて行こうというの?
「ま、待って!」
ブリジットはストップをかけていた。彼女にとっては『ヒューゴ殿』が連れ去ろうとしていることでしょう。
「――ブリジット、あなたはここまでです」
「え……?」
ヒューゴ殿を模するかのように話すユウ君。ブリジットは困惑したままです。
「良き友人であったあなたに、いらぬ矛先は向けられたくないのです。どうかこの先は――知らなかったことに」
「そんな――」
ブリジットの声が遠くなっていく。突風によって視界が遮られ――私たちは分け隔たれてしまったから。
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