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新たなる日々ED①
しおりを挟む→本来の転生を果たしたい。
「これでよかったんだよ、セレステ」
私は確かにそう口にしていた。ようやく声が形になってくれた。セレステは目を見開いていたけどね。
「本当にいいの? 今ならまだ間に合うから!」
セレステは自分ならどうにか出来るって。
「なんとしてでも……あんたを送り届けて」
してみせるって。
「……ありがとう、でもね、いいんだ」
そう言ってくれたけど、私は首を横に振った。
「……」
モニターに何も映し出されたくなったなら。もう私はあの頃には戻れもなくなって、その後も知ることも出来なくなる。
「色々あったなぁ」
一般庶民がいきなり令嬢の振りをすることになって。厳しい教育の日々、それも選ばれし令嬢、未来の王太子妃として相応しくなる為に。羨望と妬みの的でもあった。
偉い人たちとも交流することにもなって。どれだけ足が震えていたことか。緊張による多汗、しょっちゅうだったし。
それでも、それだからこそ――みんなと出会えた。
大変なことばかりだったけれど、楽しかったよ。楽しかったんだよ。
かけがえのない、愛しい日々だったんだ。
「……あのね、今になって実感するんだ。私はやっぱり――小川結衣だった」
いくらアリアンヌ・ボヌールとして在ろうとしても。
今までのこと、もちろんアリアンヌ様の為ってこともあった。巻き込まれてしまったアリアンヌ様、彼女の物語を本来の在るべきものへと。
うん、そうだね。大好きな従姉の物語でもあったから。
事故で気持ちが沈んでいた私を、明るい気持ちにさせる為にって。
「結衣だったから……それが一番大事だったんだ」
――物語を正すこと、アリアンヌ様をお返しすること。最初から願っていたことだった。
「だから……」
今なら……まだ。まだ、戻れるかもしれないけど……。
「あ……」
一台だけ、辛うじて。砂嵐になっているけれど、そこだけまだつながっているようだった。だけど……。
「……」
戻らない。戻らないったら……お願い、気持ちが揺らいでしまっているから。
早く、早く――。
『――ユイちゃん? それに……セレステ?』
映像が途切れ途切れながらも――一人の少女を映していた。可愛らしい装飾の部屋、彼女の私室かな。
「ブリジット……!?」
私は思わずモニターまで。上部にあるそれを見上げる形になった。セレステは……後ろにいるままだったけど。
後ろめたい、セレステはそんな様子だった。姿を偽っていたことに? だから、顔を思いっきり背けて腕で隠そうとしているの? ううん、それだけじゃないんだ。
「ごめんなさい……」
今回の主犯は賢者の怨念なようなもの、私はそう思っている。でも、セレステが望まずともこの事態を引き起こしたこともあった。そのことがあるから……だからなの?
『もう、調子が狂うんだけどな? ――いつも通りでいいから』
殊更明るく言っていた。大樹での日々を思い出すかのような。あ、そうだったね。ブリジット、お姉ちゃんみたいだった。彼女のことだし、色々と察していたのかもしれない。
『セレステ、久しぶり。会いたかったんだよ?』
「ブリジット……」
いつもの彼女の笑顔。安心したのはセレステもだった。ようやく一歩、前に出てきた。
「……うん」
そうだ、ブリジットとの約束を破ることになる。私、話をして戻ってくるって言っていたのに。でも、この映像だっていつまで持つかもわからない。言わなくちゃ。
「あの、ブリジット――」
私は言いかけて止まってしまった。映像が鮮明になってしまった。映し出されたのは、涙で目を腫らしていたブリジットの顔。今でも鼻をすする音がしていた。
ずっと泣いていたんだ。一人、自分の部屋で……。
あ――映像が。荒れが激しくなっていく。もう時間だって。
「私は……」
ブリジットとももう――会えなくなってしまう。こうして話せたから余計に。
余計に実感してしまう。こうして話すのも最後なんだって……!!
「あのね、ブリジット……!」
伝えなくちゃ。仲良くなれて嬉しかった。約束破ってごめん。でも元気で、幸せにって――。
『――幸せならいいよ。じゃなくちゃ許さない』
ブリジットはそう告げると、笑った。ブリジット……それは――。
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