脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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新たなる日々ED③

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 森林の中にある小屋の一室、私はロッキングチェアに腰かけていた。揺られながら、窓の景色を眺めていた。植えようと提案してくれた桜の木々、咲く季節になったんだね。

 セレステはというと、アークと巡回している。セレステは元気、アークも元気元気。時々転んだり、停止したりしているけれど、セレステがその度に動いていた。

 昼下がりのこの一時が好き。穏やかに時間が流れていく。

「春だねぇ……」

 しわがれた声。年を重ねてきた皺のある手で、机の上にあった手紙を読み返す。
 親交が続いている人たちからのもの。この世界の生き残りの人たちからだった。近況報告だったね。うんうん、写真まで一緒にありがとう。

 もう遠く昔のこと。それだけ私は年をとったから。

 色々あったね。まずは自分たちの暮らしから。畑を耕したり、水を確保したり、動物の救助を行ったり。

 セレステは魔法使えたから、助けてももらったね。それに築き上げられた文明の遺物だって、再利用したりもした。私だってうん……頑張った!! 足の怪我はその、そのままだった。それで無理をしたからセレステにもアークにも怒られたりして。

 生存している人たちのことも知って。彼らとも色々あって。本当に揉めるに揉めた……。
 それでも力を合わせて、肩を寄せ合って。ときに、外海にも出ていって。

 私たちの人生自体が冒険だったね。老いた今になって、ようやく落ち着いたくらい。

「眠い……」

 最近すごく眠い。眠りにつく時間が長くなって。その分、よく夢を見るようになったよ。

 昔の夢。日本での暮らし、アリアンヌ・ボヌールとして過ごした日々も。

 夢の中の彼らは若いまま、優しいままだった。本当に懐かしくて……胸が苦しくもなって。起きた後はいつも泣いていた。

 彼らは幸せに生きたのかな。彼らとの未来を選ばなかった私はもう、遠くから祈るしか出来なかった。

「幸せだったら、それで――」

 ああ、瞼が重くなっていた。もうね、椅子に身を任せきって、そのまま――。

「――ユイ!」 
 
 部屋に飛び込んできたのは――セレステ。

 元気といっても、老人の姿。一緒に年老いることを選んだからだった。術や技術によって、不老でもいられたのに。セレステはそうはしなかった。

 セレステは私の近くに来ては、跪いた。私の手に触れながら、たくさん語りかけてくれていた。

「桜、咲いたんだね」
「……」
「……あ、そうそう。今日の報告。まだ遺っている技術があったんだ。それを活用出来れば、もっと暮らしが楽になる。早速、明日から取りかかろうって話にもなっていてね?」  
「……」
「……。移動ももっと遠くまで、色々なところに行けるようになるよ。ね、ユイ? それで世界を巡ろう? ダンジョンだって残っているかもしれないよ?」  
「……」

 セレステ、私の手を握ってくれているのかな……? 
 私に色々な話、聞かせてくれているのかな……? 

 ごめんね、もう、わからなくなってきていて……。

「ユイ……置いてかないで」

 私はもう何も言えない。だからかな、セレステは――悟ってしまったのかな。そうだとしたら、セレステは……。

「……あんたがいないなら、私はもう」
「……」
「あ……」

 私に残された最期の力だった――セレステの手に触れられたのは。そして。

「いきて……」
「……ユイ」

 伝えられたのは……もう……それで……。

「……ごめん、ユイ。自分で言ったのにさ――この世界も守るって」

 ありがとう、セレステ……。

 私、幸せだった――本当に、本当に。

「ユイ、愛してる。また巡り合えるって信じてるから――」

 ――遠い未来、遠い世界で。私、小川結衣は生を終えた。

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