【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

文字の大きさ
41 / 86
番外編

おい、番外編とか始めるな②

しおりを挟む

 朝の食堂は、甘く香ばしいスープの匂いで満ちていた。
 長テーブルの上には、山盛りのチーズ、こんがり焼けたパン、黄金色の蜂蜜とジャム、そして色鮮やかな果物までずらり。――いや、完全に王侯貴族の朝食じゃないか。

 その上座、いわゆる“お誕生日席”に、なぜか俺が座らされている。
 右の長辺にはガウル、リィノ、リーヤ。左にはアヴィ、クー、ライト。
 元チビーズ五人は、まるで訓練された給仕部隊のようにスープと食器を次々と運んでくる。

 ちょっと待て。なんだこの厳粛な序列感は……?
 右を見ても筋肉、左を見ても筋肉、正面を見ても筋肉。
 そのど真ん中、上座に鎮座しているのは――ボスでも魔王でもない、ちょっとだけ癒しの魔法が使える、ただの人間・俺。

 いやいやいや、完全に場違いだ。ここ「筋肉戦隊」の作戦会議室か何かですか!?

 ――しかも誰ひとり「人間を座らせてやってる」感を出さず、全員が妙に自然に受け入れている。
 なんなら、明らかに優遇されてる。
 俺の存在だけが、この壮絶な筋肉祭りの中で異物すぎる。

 やがて、元チビーズたちが手際よく湯気を立てるスープを運んできた。
 「兄貴、ちっとばかし熱いもんで、気をつけてくんな」
 「……あ、ありがとう」

 礼を告げると、チビはにっこり笑った。
 ……いや、もう“チビ”じゃねぇ。
 身長も筋肉も声の低さも、完璧に俺より上。
 それなのに、その笑顔だけはあの頃のままで――神々しい“尊さ”と、猛烈な“フェロモン”が同時に殴りかかってくる。

 おい待て。笑うな。俺の情緒が崩壊するだろ!!

 いつかオロが言っていた、獣人進化のトリガー――“伴侶”の存在と“安らげる生活”。
 理屈としてはわかる。確かに俺は、彼らの世話を焼いてたし、居心地もよかった……はず。
 
 でもな、生物としての本能をガン無視して、全員俺の“番”ってどういうことだよ!?!?
 この世界の倫理観、どこでバグった!?
 百歩譲って鼻からスープは飲めても、尻から子供は産めねぇっての!!

 ……いや待てよ。
 そもそも“ソウルリトリーバル”ってそういう魔法だったのか!?

 かつて、人々を救った英雄――“ソウルリターナー”。
 彼は幾多の魂を救い、数多の命を繋ぎとめた偉人……の、はずだった。

 なのに、後世にその名がまったく伝わっていないのは何故なのか。
 もしかして、“ソウルリトリーバル”の副作用で――
 あらゆる種族の美形・筋肉・魔獣にまでモテまくり、結果として“名を明かさず逃亡した”んじゃ……!?

 オイィィ……ッ!!
 もしそうなら文献の隅っこにでも書いとけよ!?
 「副作用:モテ期が来ます(※ただし筋肉限定)」とかッ!! 

 そんなことを悶々と考えていると、腕を組んだままのガウルが低く言った。
 「……おい。冷めないうちに食え」
 「え?」

 気づけば、給仕を終えたチビたちもいつの間にか席に着いていた。
 しかも全員、スプーンを手にしたまま、じっと俺を見ている。
 誰ひとり、料理に手を付けていない。

 (……まさか、俺が食べるまで待ってるのか!?)

 「いや、いきなりそんな“王様待遇”とか、やめてくれよ! 頼む、みんな、せめて普通にしてくれ!」

 「ダメです。秩序の乱れは心の乱れです。これは共同生活における基本原則です。
 もし風紀が保たれず、ご主人様の身に危険が及ぶようなら、僕は容赦なく“排除”しますよ」

 「サラッと怖ぇこと言うなよッ!!」

 完全に“参謀ポジ”に収まってるアヴィの横で、クーはにこにこ。
 その隣のライトは、シマシマ尻尾をゆらゆら揺らしながら、腕を頭の後ろで組んでご機嫌にニヤニヤしている。

 (……なんなんだこの温度差)

 「そうは言ってもなぁ……」
 「……いいんですぜ、ユーマの兄貴」
 チビがスプーンを握りしめ、ぐっと身を乗り出した。
 「命の恩人である兄貴のためなら、あっしら命だって惜しかねぇ!
 魔法省の悪党どもから救ってもらったこの命、これからは兄貴に尽くすために使わせてもらいやす!」

 気づけば他のチビたちも涙ぐみながら頷いている。

 「「「オッス!! 兄貴ーーーッ!!!」」」

 ――どこからどう見ても、完全に組ができあがっていた。

 (いやもう、俺いつの間に親分になったんだよ……!?)

 「……感動の最中すみませんが、スープ、冷めますよ」
 アヴィが淡々とスプーンを手に取る。

 「ささ、兄貴! あっしらが丹精込めて仕込んだスープ、遠慮せず召し上がってくだせぇ!」
 チビがにかっと笑いながら促す。
 「うんうん、冷めたらもったいないよ♡」と、クーもにこにこ。

 ツッコミたいことは山ほどあるけれど、朝の疲弊した脳が「糖分不足」を理由に、考えることを完全に放棄した。
 
 このままでは永遠にスープに辿りつけない――そう悟った俺は、半ば開き直ってスプーンを握る。

 「……はは。あー、うん。なんか、もう……いっか……どーでも」

 改めてテーブルを見渡す。
 並んで座るのは、生まれも姿かたちも違う、多種多様な種族たち。

 ――ほんの少し前まで、こんな光景が自分の目の前にあるなんて、想像もしなかった。
 けれど今、この小さな輪の真ん中に“俺”がいる。

 普通じゃないこの世界で、普通に俺を受け入れてくれるやつら。
 バカで、騒がしくて、どうしようもなくカオスだけど――

 「……じゃあ――いただきます」

 ……こんな日常を“悪くない”と思ってる時点で、たぶん俺も、もうこっち側の人間なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

結衣可
BL
呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...