【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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番外編

でんかのほうとう②

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 数日後。

 ブルファングの骨からじっくりとった出汁に、大量の野菜とキノコ、そして肉を投入。
 ぐつぐつと煮え立つ鍋に、例の異世界味噌をたっぷり溶かし、最後に蜂蜜でほんのり甘みを加える。

 チビたちがマッスルパワーで練り上げたうどん生地を、太めにカットして鍋へ――。
 湯気の中、味噌の香ばしい匂いが立ちのぼる。

 「――完成! ヤマナッシーの郷土料理、ほうとううどん!」

 「おおーっ!」という歓声とともに拍手が巻き起こる。
 その輪の中に、弟のリセルとミシェル王子の姿もあった。
 背後には当然のようにジョバンニ氏も控えている。

 ――ことの発端は、魔法学院でのテストが終わったあと。
 何気ない世間話の中で「これから家に帰って郷土料理を作る」と言ったところ、
 王子が「ぜひご相伴にあずかりたい」と目を輝かせたのだ。
 ついでにジョバンニ氏も、当然のような顔で「では私も」と同行を申し出てきた。
 
 ……で、特に断る理由もなく、「こうなったら弟も誘うか!」と思い立って、リセルにも声をかけた。
 ここ最近、リセルは俺の貞操が心配なのか、それとも性に奔放すぎる兄を監視しているのか――なぜかやたらとうちに入り浸っている。

 (……いや、頼むから“兄の貞操警備隊”みたいな顔で来るのやめてくれ……)
 
 そういうわけで、そのまま王室専用馬車で一緒に帰ってきて――はい、今に至る。

 「お待たせしやした、王子さん! リセルの兄貴! 兄貴特製、アツアツのほうとううどんでい!」
 「ありがとうございます」

 うん、王子すごい。
 ベアトリス中尉の筋肉部隊で筋肉を見慣れているせいか、まったく動じていない。
 むしろ馴染んでる。なんなら羨望のまなざしで皆を見ている。

 王子もリセルも器用にフォークでうどんを巻き取り、ふうふうと息を吹きかけてから口に運ぶ。
 その所作がなんというか――異世界の王侯貴族というより、「旅番組で地元グルメをリポートする爽やか若手アイドル」みたいだった。

 「兄さん、美味しいです。モチモチの麺にトロッとしたスープが絡んで……。カボチャモドキの甘みがいいアクセントですね」
 「……うん、優しい味ですね。この味噌スープ? というのですか。野菜と肉の旨みが溶け合って、身体に沁みます」

 西洋絵画から抜け出してきたような気品の王子と、俺より目鼻立ちがくっきりしたリセル。
 タイプの違う美少年二人が並んで繰り広げる、癒し系食レポ。
 昼下がりのマダム層が見たら確実に“録画保存案件”。
 サロンの貴腐人が見たら――どっちが受けでどっちが攻めかで、戦争が始まるに違いない。

 その横で、ジョバンニ氏がさりげなくハンカチを差し出した。
 「殿下、口の端に汁が」
 ……その仕草があまりに優雅で、完全に“貴族の午後ティー”なのに――

 背景はマッチョ獣人オンリー。
 このカオス、誰か説明してくれ。

 「兄貴、王子さんもリセルの兄貴も気に入ってるじゃねえっすか!」
 「……はは、良かった。味噌って独特の風味だから、外国の人にはけっこう不評なんだよね」
 「そーなんすか? あっしは好きですけどね」
 「……むしろチビ、嫌いなものあるんか?」
 「ねぇっす!」

 ニカッと笑うチビの横で、王子が器の底まできれいにスープを飲み干した。
 そして涼しい顔で一言。

 「おかわり、よろしいですか?」

 ――王子、まさかの完食。
 気品の仮面を脱ぎ捨てた瞬間、完全に庶民派である。
 最初はフォークだったのに、いつの間にか箸まで習得してる。学習スピードが速い。
 そしてマッチョたちと一緒に「うまい!」って笑ってる姿が、なんかもう尊い。

 「ちょっと、兄さん!? 王子殿下の順応、早すぎませんか!?」
 「リセル……王子はな、修羅場の数が違うんだ」
 「えっ」
 「ベアトリス中尉の“筋肉候補生”にされた男だ」
 「誰ですかそれ!? ていうか“筋肉候補生”って何!?」
 「考えるな、感じろ!」
 「いや、ちゃんと説明してくださいよーー!!」
 
 ……そんな俺たちの小競り合いをよそに、王子は再びうどんの丼を掲げた。
 「おかわり、よろしいですか?」

 ――王子、三杯目突入。

 「殿下、おかわりはほどほどに。塩分が過多になります」
 ジョバンニ氏が冷静に割って入り、王子の器をそっと押さえる。
 「ジョバンニ、今日だけは見逃してほしい。……ほら、君も食べてごらんよ」
 「……はあ。殿下がそこまでおっしゃるなら」

 気づけばクーやチビたちも「おかわり!」と声を上げ、
 俺の家の台所は、完全に“ほうとう屋”と化していた。

 こうして――この日、王子殿下の胃袋とマッスル獣人たちの心を掴んだ「伝家のほうとう」は、静かに伝説となったのである。
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