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しおりを挟むカリナはフィデルに誘われ美術館にやって来た。
訪れる客が多く、人とぶつかりそうになる。
「結構人が多いね。危ないし、はぐれないように手を繋いでもいいかな? 嫌じゃなければ……」
「も、もちろん大丈夫です! よろしくお願いしますっ」
ただ手を繋ぐだけですごい気合いの入った返しをしてしまった自分に恥ずかしくなり、カリナは頬を染めた。
笑みを零したフィデルは、そっとカリナの手を握る。
夫婦となって一月以上は経ったけれど、未だ触れ合う事など殆どない。
彼の手は思っていたよりも大きい。自分のと比べると指も長くて太く、すっぽりと包み込まれてしまう。
幼い頃はウィルフレドと手を繋ぐ事もあったけれど、成長してからは男の人と手を繋いだ事などない。
最初は緊張し手に意識を持っていかれたが、絵を見て回るうちに気にならなくなっていた。
癒され引き込まれ感動を覚えるような絵もあれば、全くテーマのわからない何が描かれているのか謎な絵もある。
当たり前だが描き手によって雰囲気も何もかもが違い、楽しかった。
真剣に絵を鑑賞するカリナを見て、フィデルは嬉しそうに微笑む。
「よかった。楽しんでくれてるみたいで」
「え?」
「美術館は僕の趣味だから……カリナはあまり興味がないかなって不安だったんだ」
「確かに詳しくはないけど、興味がないなんて事はないわ」
なかなか足を運ぶ機会はなかったけれど、こうして誘ってもらえてカリナは嬉しい。
「強い思いを込めて絵を描いて、でもその描いた絵は見る人によって感じ方が違って……。同じ絵を見ても、抱く感想は全く別の事もある。絵って、不思議で、面白いわ」
「確かに、そうだね。こうしてカリナと並んで同じ絵を見てるけど、絵を見て何を感じるかはそれぞれなんだよね」
何かを思い付いたように、フィデルは目の前の絵に顔を向ける。
「因みに、この絵を見てカリナはどう思った?」
「えっ、この絵……?」
今二人で見ていた絵は、かなり抽象的で何が描かれているのかカリナにはさっぱりわからないような絵だった。
「この絵は……なんていうか……情緒不安定な気持ちを表してる感じがするわ」
「…………っふ」
「下の方は暗くて、上の方は明るい色を使ってるのは、悲しかったり楽しかったり、感情の大きな動きを表現してるんじゃないかしら。真ん中に描かれてるオブジェのようなものは、不安定な作者の心そのもので……」
「……ふはっ……」
隣で控えめに吹き出され、カリナはそちらへ顔を向けた。
笑いをこらえながらフィデルは謝る。
「ご、ごめん……。でも、この絵のタイトルは『公園で遊ぶ子供』なんだ」
「ええっ……?」
再び絵に顔を向ける。まじまじと見据えるが、どう見ても「公園で遊ぶ子供」が描かれているようには見えない。
「つまり、このオブジェのようなものが子供ってこと……?」
「多分ね。僕にも、子供には見えないけど……。でも描いた本人にとっては間違いなく子供なんだろう」
「…………やっぱり絵って奥が深いのね」
思わず感心してしまうカリナに、フィデルは笑みを深めた。
「カリナは面白いね」
「面白い? 私が?」
「うん。カリナのそういうところ、好きだなぁって思うよ」
「っ……ど、どうも……?」
さらりと「好き」と言われて、動揺してしまう。恋愛的な意味ではないのだろうに、過剰に反応してしまう自分が恥ずかしくて必死に平静を装った。
繋いだ手をまた意識して、頬が熱くなる。
赤くなった顔を見られないよう不自然に顔を逸らしながら、残りの絵を見て回った。
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