17 / 34
そんな意図はなかったけれど
しおりを挟む「そんなつもりはなかったのに」のノア視点。
変態くささが滲み出ていますのでご注意下さい。
────────────
国の第三王子として生まれてきたマティアスは、それはそれは美しい容姿をしていた。
天使の生まれ変わりだと囁かれるほどの人間離れした美貌を持ち、誰も彼もがマティアスを褒め称えた。
年齢性別問わず魅了するマティアスは、大層モテた。女性からのアプローチは絶えず、男性からも言い寄られる日々。
マティアスの容姿だけを見て、容姿だけに惹かれて近づいてくる者が殆どだった。マティアスのことを知ろうともせず、ただマティアスの美しさに心を奪われ、手に入れたいと望むのだ。
正直、マティアスはうんざりしていた。
マティアスの美貌は愛されても、きっとこの先、マティアスという人間を心から愛してくれる人など現れないのだろうと思っていた。
そんなある日。マティアスが十八歳のときに城で開かれたパーティーで、それはそれは美しい女性がマティアスに近づいてきた。
マティアスに引けを取らない絶世の美女だった。
周囲からは称賛の声が聞こえてくる。美男美女、お似合いの二人、そんな囁きがそこかしこで交わされていた。
しかしマティアスが彼女の美しさに心を奪われることはなかった。彼女の瞳も、他の者と同じようにマティアスの容姿しか見ていなかった。それがわかったから。
挨拶だけを交わして、マティアスはすぐに彼女から離れた。
ずっと大勢の視線がつきまとうパーティーがマティアスは好きではなかった。だから隙を見て、こっそりと抜け出し庭に出た。
漸く一人になれたと思ったのに、例の美女に後をつけられ声をかけられた。
彼女は露出の激しいドレスを身に纏っていて、豊満なバストを見せつけるようにマティアスにすり寄ってくる。
彼女が近づけば、マティアスはそれを避けて後退する。それを繰り返した。
一向に距離は縮まらず、痺れを切らした彼女が腕を広げて抱きついてこようとしたのでそれもヒラリとかわした。
「もうなんなの! こんな美女がわかりやすいアプローチしてるんだから襲いかかってきたらどうなの!」
美女が怒りだした。
引いているマティアスを見て、彼女はハッとして咳払いで誤魔化した。
「違うのです、マティアス王子。私は王子のことを心から愛していると伝えたかったのです」
美女は語りだした。
マティアスに一目惚れして、それ以来毎日マティアスのことを考えているのだと。マティアスの美しさをつらつらと並べ立て、マティアスの美貌がいかに自分の心を揺さぶり、虜にしているのかをマティアスに聞かせる。マティアスの外見のことだけをこれでもかと語り尽くした。
マティアスはきちんと最後まで聞いていた。
聞いた上で、丁寧にお断りの言葉を伝えた。
すると美女が逆上した。美女の顔はみるみる内に崩れていく。
その正体は、魔法で容姿を変えた醜い魔女だった。
「魔法で美女の姿になって、メロメロにさせて手っ取り早く既成事実を作ってやろうと思ってたのに! この悪名高い魔女の私が、お前の妻になってやろうってのに! このフニャチン野郎が!」
魔女の告白は本気だったのだ。だがプライドが高く性格がねじ曲がっているので、振られたことが許せなかった。
「この私に恥をかかせたことを後悔させてやる!」
完全な逆恨みで、魔女はマティアスに呪いをかけた。
マティアスは美貌の王子から、醜い獣の姿へと変えられてしまった。
変わり果てたマティアスを見下し、魔女は高笑いする。
「その呪いは、愛する人と体を繋げて精を注がなければ解けないよ! そんな醜い姿じゃ、不可能だろうけどね!」
突然姿を変えられ、マティアスは呆然としながら魔女の言葉を聞いていた。
「お前がどうしてもっていうなら私の体を抱かせてやってもいいんだよ! お前が心から私を愛するというなら……」
マティアスの妻の座を諦めていなかった魔女が懲りずにそんなことを言ってきたとき、こちらに近づく足音が聞こえてきた。
「お前、そんなところで一人で喚いてなにをしているんだ!?」
魔女の大声に気づいた兵士がやってくる。
マティアスはすぐに事情を説明して魔女を捕まえてもらおうとした。
「ぐあぁっ、ぎゃがぁっ」
だが、汚い呻き声しか出せなかった。あまりに耳障りなその鳴き声に、マティアス自身ひどく驚いた。
兵士もビックリして、漸くマティアスの存在に気づいた。マティアスを見て、兵士は顔を顰める。
「なんだこの気持ちの悪い生き物は! お前が連れてきたのか!?」
そう言って、魔女に詰め寄る。
魔女は舌打ちし、身を翻して逃げていった。
兵士が追いかけようと足を踏み出したときには、もう魔女の姿は消えていた。
「お前も出ていけ! ここはお前のような醜い獣が入っていい場所じゃないんだ!」
兵士にしっしっと追い払われる。
姿は完全に変わり、言葉を話すこともできない。こんな状態で、自分がマティアスなのだとわかってもらうことなど無理だろう。
諦めて、マティアスは追いたてられるまま城を出た。
行く宛もなく街をさ迷えば、道行く人々に白い目で見られ罵られた。子供に石を投げられ、追いかけ回され、マティアスは人のいない森の中へと逃げた。
傷つけられた体が痛い。でも人間に見つかれば、なにをされるかわからない。
マティアスは少しでも人のいる街から離れるために、森の中を歩き続けた。
何日経ったのか、もうわからない。途中で見つけた川で水を飲んだだけで、なにも口にしていない。
やがてマティアスは力尽きて木の根本に蹲った。
呪いを解く以外に、城へ戻る方法はない。
だが、呪いを解くことなどできはしないだろう。
こんな醜い獣の姿では、近づくだけで嫌悪され、なにもしていないのに暴力を振るわれる。
そんな状況で、人を愛することだってできるわけがない。
マティアスはもう諦めていた。
自分はここで野垂れ死ぬのだろうと。
もし生まれ変われるのなら、平凡な容姿に生まれ変わりたい。平凡な家庭に、平凡な容姿で生まれ、平凡な人生を送りたい。
そんなことを考えていた。
すっかり衰弱し、動くこともできなくなっていたマティアスの耳に、近づいてくる足音が聞こえてきた。
逃げなくては、また罵倒され痛め付けられる。けれどもう、逃げる体力も残っていない。
「大丈夫? 怪我をしてるの?」
そんな声が聞こえた。まるでこちらを心配するかのような言葉をかけられて、マティアスはこれは夢なんだと思った。それとももう死んでしまったのか。
体を抱き上げられるのを感じながら、マティアスは意識を手離した。
目を覚ますと、柔らかな毛布に体を包まれていた。
そして目の前には、可愛らしい少女が眠っていた。
もぞもぞと体を動かせば、その気配に気づいたのか、少女が目を開いた。
マティアスと目が合い、寝惚けた顔でこちらに手を伸ばしてくる。
殴られるのかと、マティアスはびくりと身を丸めた。
しかし伸ばされた少女の手は、優しくマティアスの頭を撫でただけだった。
「怖がらせてごめんね。心配しなくていいのよ。あなたの嫌がることはしないから」
優しい言葉をかけられ、マティアスは信じられない気持ちで少女を見つめた。
少女は屈託のない笑顔を浮かべ、マティアスの頭を撫で続ける。
今まで見てきた、美貌の王子に向けられる目とも、醜い獣に向けられる目とも違う。
慈愛に満ちた穏やかな眼差しだった。
「安心して、ゆっくり休んでね」
少女の声に促されるまま、マティアスは心安らかに眠りに落ちていった。
少女の名前はアリス。彼女は付きっきりでマティアスの面倒を見てくれた。
濡れたタオルで体を拭いて、怪我の手当てをして、ご飯を食べさせてくれる。
床に毛布を敷いて、アリスは毎日マティアスの隣で眠った。
目を覚ますと必ずアリスが傍にいてくれる。愛らしい笑顔を浮かべ、優しい手付きで撫でてくれる。
アリスの存在に、体の傷だけでなく心も癒された。
一ヶ月も過ぎれば、マティアスはすっかり元気を取り戻した。
アリスはマティアスを連れて森へ向かった。
マティアスが蹲っていた木のところまで行き、アリスは言う。
「帰る場所があるなら、帰っていいのよ。行きたい場所があるなら、行っていい」
しゃがんだアリスは、マティアスの目を見てそう言った。
マティアスの心は既に決まっていた。
アリスの足にすり寄り、傍から離れなかった。
気持ちが通じたのか、アリスは嬉しそうに微笑んでマティアスを優しく撫で、再び連れて帰ってくれた。
アリスはマティアスを腕に抱いて屋敷の中に入った。アリスが暮らす小さな家の隣にある、大きな屋敷だ。
そこで彼女は父親に、マティアスを飼う許可をもらう。
父親はマティアスを見て僅かに眉を寄せたが、特に反対はしなかった。だが内心では、なんでこんな醜い獣を、と思っているようだった。
屋敷を出る途中ですれ違った人間にはあからさまに嫌悪を向けられた。
「なんて不細工な犬かしら……」
「変な顔ー」
アリスの母と弟らしい人物に、彼女は黙って会釈だけして屋敷を出た。
家族とあまり仲がよくないだろうことは聞かなくてもわかった。彼女だけ、まるで追い出されたかのように一人別の家に暮らしているのだから。
自分の家に戻ったアリスは、マティアスを抱えたまま浴室へ向かう。
マティアスの体を丁寧な手付きで洗いながら、むっつりと唇を尖らせ、ぽつりと言った。
「不細工じゃないもの」
母に言われた言葉に怒っているようだ。
こんな、醜い獣のために怒ってくれているのだ。
そう思うと、胸がじんわりと熱くなった。
蔑むような視線も、言葉も、気にならなくなる。
アリスが可愛いと言ってくれるなら。
笑顔を向けて、優しく撫でてくれるなら。
アリスが傍にいてくれるのなら、他の誰にどんな目で見られようと、どんな扱いを受けようと構わないと思えた。
体を綺麗に整えてもらい、マティアスは身も心も生まれ変わったような心地だった。
「これから、よろしくね」
「ぐあっ」
彼女の言葉に、ぶんぶん尻尾を振って元気よく返事をする。
アリスは一瞬びっくりしたように目を丸くしたが、すぐに声を立てて笑った。
彼女の笑顔を守りたい。
寂しさを癒してあげたい。
マティアスが、彼女に救われたように。
強くそう思った。
それからマティアスとアリスの生活がはじまった。
マティアスはアリスにノアと名付けられた。彼女からもらった名前はマティアスの宝物となった。彼女に名前を呼ばれるだけで、幸せな気持ちでいっぱいになる。
醜い獣のマティアスを、アリスは心から可愛がってくれた。お風呂も一緒に入ってくれるし、寝るときも一緒だ。
とっくに彼女に恋心を抱いているマティアスはムラムラしっぱなしだった。
マティアスの正体を知らないアリスは、無邪気に抱っこして、体に触れてくる。
マティアスは色々と限界だった。
毎日毎日、無防備にあどけない寝顔を見せるアリスが隣にいるのだ。
アリスから香るいい匂いにくらくらする。甘くて美味しそうな匂い。むしゃぶりつきたくなるような匂い。空腹なわけでもないのに、口の中にじゅわりと唾液が込み上げる。
眠るアリスに鼻を押し付け、ふんすふんすと匂いを嗅ぐ。
じん……と全身が痺れ、堪らない気持ちになる。
アリスの白く滑らかな肌を舐め回したい。
無垢な彼女の体に自分の匂いをつけてけがしたい。
そんな変態じみた欲望がどんどん膨らんでいった。
遂に匂いを嗅ぐだけでは満足できなくなり、マティアスは寝ているアリスの体にのし掛かった。
器用に寝間着を捲り上げ、顔を突っ込む。
お風呂でいつも見ているアリスの乳房が目の前にある。彼女の裸を目にするたびに、触りたくて堪らなかった。触って揉んで、舐めてしゃぶって、味わい尽くしたかった。
しかし獣の姿ではできることは限られている。
マティアスは唾液の滴る舌でペロペロと乳房を舐めた。
甘い匂いと同様に、彼女の肌はとても甘く感じた。
好物を与えられたかのように夢中になって舐めていると、途中でアリスが目を覚ました。
彼女は咎めることもなく、嫌がりもせず、されるがままマティアスに身を任せていた。マティアスの頭を優しく撫でながら。
マティアスは受け入れられたことが嬉しくて、更に舌の動きを激しくした。柔らかい膨らみを舐め回し、桃色に色づく先端は念入りに、押し潰すように舌を擦り付ける。
マティアスの唾液でアリスの胸はべとべとに汚れてしまった。けれど彼女は一言も怒らず、微笑んでくれた。
自分の体液で汚れる彼女の体を見て、マティアスは欲情した。
こんなにも気持ちが高揚したのははじめてだった。
他人に興味を持てず、今まで自慰すらまともにしてこなかった童貞が、変な性癖に目覚めた瞬間だった。
その日から、マティアスは毎晩彼女の肌を味わった。舐めるだけでは物足りなく、前足でむにゅむにゅと柔らかな感触を楽しんだ。肉球に触れる滑らかな肌触りや、つんと尖った乳首がこりこりしていて触っているだけで気持ちよく、興奮した。
マティアスはこの時間ずっと勃起しているのだが、アリスは全く気づいていなかった。それどころか、マティアスのこの行為を母を恋しがっているだけだと思っている。
純真な彼女に罪悪感を抱くこともなく、寧ろ余計に欲が滾った。
母を恋しがる獣に己の身を差し出す健気なアリスが愛おしく、そんな彼女を自分がけがしているのだと思うと背徳感にぞくぞくした。
こんな気持ちははじめてだった。
誰かをこんなにも強く思ったことも。
全てを手に入れたいと思ったことも。
ずっと彼女の傍にいたい。彼女の傍にいられるのなら、この先一生呪われたままでも構わない。
不満なのは、彼女に愛を伝えられないことだ。
キスをしても、こうして体に触れても、彼女はじゃれあいとしか思ってくれない。
それがもどかしい。
こんなにも狂おしいほど彼女を愛しているのに。
言葉で伝えられない。
態度で示しても伝わらない。
このままでもいいと思うけど、ありのままの自分の想いを伝えたい。彼女に知ってほしいと、強く思う。
無防備にされるがままのアリスを見て、いっそ犯してしまいたい衝動に駆られる。体を繋げて精を注げば、呪いは解ける。
けれど、マティアスはそうしなかった。
マティアスの熱心な愛撫にアリスが甘い声を上げて、いやらしく身をくねらせ、脚の間から濃い匂いを漂わせて、煽りに煽られぺニスが痛いくらいに張り詰めても、決して彼女の純潔を奪うことはしなかった。
アリスはマティアスが心から愛する大切な少女だ。
同意も得ずに、無理やり処女を散らすことなんてできない。
そんなことをすれば、誰よりも守りたいと思っている彼女を傷つけることになってしまう。
アリスにだけは嫌われたくない。もし嫌われてしまったら、もう生きていけない。ショックで生きる気力を失ってしまうだろう。
散々涎でべちょべちょになるほど体を舐め回している時点で既に手遅れ感ははんぱないが、マティアスは紳士的に最後の一線だけは守っていた。
アリスとの生活はとても穏やかで、今まで感じたことのない安らぎをマティアスに与えてくれた。
彼女と過ごす時間は本当に楽しくて、幸せだった。
この幸せがずっと続けばいいと願っていた。
それなのに。
唐突に、アリスの口から「結婚」という言葉が出てきた。
頭が真っ白になった。
今まで考えもしなかった。けれど考えたら当然のことだった。
この小さな家でアリスとずっと二人きりでいられるのだと思い込んでいたマティアスは、突きつけられた現実に愕然となる。
いずれアリスは結婚する。そしてその相手はマティアスではない。
ショックで目の前が真っ暗になって、気づけばアリスにのし掛かっていた。
彼女の純潔を奪おうという考えはなかった。ただ、彼女の体を愛したかった。愛を伝えたかった。
そうしたら、なんと、アリスの方から「入れて」と誘ってくれたのだ。
我慢に我慢を重ねてきたマティアスの理性など容易く吹き飛び、欲望の赴くままに彼女にぺニスを突き立てた。
呪いを解きたいとかそんな考えはなく、ただがむしゃらに愛する人の体を貪った。
いつもよりも一層濃く感じられる甘い匂い。嬌声に混じって何度も名前を呼ぶ甘い声。とろとろに甘く蕩けた彼女の中。
彼女の全てに頭がおかしくなるほど興奮した。
愛する人と体を重ねる幸せを全身で感じた。
そして、別に意図したわけではなかったが、めでたく呪いは解けたのだった。
元の姿に戻り、マティアスは漸くアリスに想いを伝えられた。
アリスもマティアスとずっと一緒にいると言ってくれた。
愛するアリスと体を繋げられたことも、相思相愛になれたことも、人間の姿に戻ったことで今までできなかったことをできるようになったことも嬉しくて、何度吐き出しても体の熱は治まらず、マティアスは彼女から離れられなかった。
「あぁんっ、もぉ、お願ぃ、やめてぇっ」
「可愛い、アリス、大丈夫だよ、もう少しだけ、ね?」
ぽろぽろと涙を流し懇願するアリスの体を、正面から抱き締めた。
小さな体を自分の腕の中に包み込める幸せを噛み締めながら、吸いすぎて赤くなってしまった唇を啄む。何度しても飽き足りないキスを繰り返し、彼女の体に手を這わせる。今までしたくてもできなかった、丁寧で繊細な愛撫を施す。
そうすれば、アリスは一層甘い声で鳴くのだ。
「ふあぁっ、やぁんっ、も、やなの、のあぁっ」
「嫌って言わないで、アリス。アリスに拒まれたら悲しいよ」
悲しげに目を伏せ、ペロペロと唇を舐めれば、ノアに甘いアリスは言葉を詰まらせる。
「アリス、好きだよ、大好き、お願い、もう少しだけ……まだアリスを愛し足りないんだ」
彼女の顔を、首を、獣のときにそうしていたように舐め回す。
「ずるいぃ……っ」
ぐすぐすと鼻を啜りながらも、アリスはノアのときと同じように、マティアスの頭を優しく撫でた。
許して、受け入れてくれるかのように。
アリスに対する愛しさが込み上げ、再び彼女の唇を奪う。
「んあぁっ、んっ、ノア、んんっ」
「はあっ、アリス……アリス……」
舌を絡ませ深く口づける。
腰を回して中を掻き混ぜれば、ぐちゅぐちゅと濡れた音が響いた。彼女の胎内はマティアスの吐き出した体液で満たされ溢れている。
マティアスはうっとりとアリスに頬擦りした。
「ああ、嬉しい、アリスの中が、僕でいっぱいになってる」
「ひあぁんっ、も、いっぱい……あっ、いっぱいなのぉっ」
「うん、もっともっといっぱいにしようね」
「ふえぇ……っ」
にっこり微笑めば、アリスは新たな涙をぼたぼたと流した。
可愛い。愛しくて堪らない。彼女への愛はとどまるところを知らない。
マティアスは蕩けるような快楽を与え続け、思う存分アリスを愛しまくった。
無事に呪いは解けた。アリスと離れがたかったが、彼女と結婚する為には城へ戻って色々と準備を済ませなくてはならない。
「必ず迎えに来るから、それまで待っててくれる?」
「う、う、う、ん……」
心なしかぐったりした様子のアリスは曖昧に頷いた。
「不安にさせてごめんね。すぐに迎えに来るから。僕を信じて」
「うぅ……ん、その、あんまり、急がなくても……ゆっくりで大丈夫かも……」
マティアスを気遣って、そんなことを言ってくれているのだろう。
健気な彼女に胸が締め付けられてまた押し倒したくなったけれどぎゅっと抱き締めるだけで我慢して、断腸の思いで体を離し、マティアスは彼女と暮らした小さな家を後にした。
城へ戻れば、上を下への大騒ぎだった。
マティアスが城から姿を消して数年が過ぎていたのだ。もちろん捜索はされたが見つかることはなく、もう諦めかけていたところにひょっこり帰ってきたのだから。
城の中は美貌の王子の帰還に歓喜に包まれた。
マティアスが事情を説明すると、すぐに魔女は捕らえられた。魔女は魔力を封じられ、牢屋に入れられることになった。
マティアスは王と王妃に、醜い獣の姿に変えられた自分を拾ってくれた心優しい少女に出会い、恋に落ち、愛し合い、結婚の約束をしたことを伝えた。その少女を妻に迎えたいと言えば、王と王妃は快く承諾してくれた。
そして早速マティアスはアリスを迎えに行った。
「早い!」と驚く彼女に出迎えられ、マティアスは逸る気持ちのままにその場で結婚を申し込んだ。もちろん既にずっと一緒にいる約束は交わしていたが、改めて、きちんと片膝をついて彼女の手を取りプロポーズした。
「僕と結婚してください」
「あ、う、は、はぃ………………」
いまいち煮え切らない返事だったが、恐らく照れているのだろう。
彼女の気持ちを汲み取り、優しく微笑んで手の甲に口づけた。
「愛してるよ、アリス」
「はぃ…………」
それから、彼女の両親へ挨拶に向かった。
いきなり現れた美貌の青年に驚き、身分を伝えると更に驚き、アリスと結婚することを報告すれば、もう言葉もなく固まっていた。身分を伝えたときは、隣にいたアリスもびっくりしていた。マティアスにとってはどうでもいいことだったので、教えるのを忘れていた。
すっかり放心してしまったアリスの両親から許可ももらい、マティアスは嬉々として彼女を連れて馬車に乗った。
「王子様なんて聞いてない……!」
「うん。でも愛し合う僕達には王子とか身分とか、そんなことは関係ないよね」
青ざめるアリスを膝に乗せて抱き締める。数日ぶりに感じる彼女の温もりに心が癒された。獣だったときの癖で匂いも嗅いだ。やめてと涙目になる彼女を宥めて、馬車が停まるまで匂いを堪能した。
身を縮こまらせるアリスを連れて城に帰り、王と王妃に会わせた。アリスの可愛らしさに心を奪われ、マティアスと彼女の結婚を二人も大層喜んだ。
挨拶を済ませ、マティアスはアリスを自室に連れていった。
二人きりになりアリスをぎゅうっと抱き締めキスをしようとしたとき、遠慮がちに声をかけられた。
「あの、マティアス王子……」
マティアスはそっとアリスの唇を撫でる。
「二人きりのときは、『ノア』と呼んで」
「で、で、でも、それは……」
「言っただろう? 僕はノアだよ。アリスのノアだ。姿が変わっても、なにもかもが違っても。アリスが助けて、名付けてくれたノアだよ」
「……ノア……」
躊躇いがちに名前を呼ばれ、マティアスは柔らかく目を細める。
「アリスが誰とも結婚しないでいてくれるなら、僕はずっと呪われたままでもよかったって、本気で思ってるんだよ。あの家で、誰にも邪魔されずにアリスと二人でずっと一緒にいられるなら、その方がよかった」
「……うん」
「アリスの前では、僕はずっとノアのままでいたいんだ」
マティアスの言葉に、アリスは小さく微笑んでくれた。
「うん、ノア……」
「本当は、これからも思い出の詰まったあの家で暮らしたいんだけどね」
あの小さな家は、アリスとの思い出で溢れている。
二度と行けないわけではないが、あの家で生活することは難しいだろう。
寂しさを滲ませた笑みを浮かべれば、アリスは優しく頭を撫でてくれた。
「思い出なら、これからもどこでも作れるわ」
「アリス……」
そうだ。二人の時間はこれからも続いていく。思い出はこの先も、どんどん増えていくのだ。
「アリス!!」
「ひゃああぁっ」
感極まったマティアスは、衝動のままにその場にアリスを押し倒した。
「アリス、アリス、大好きだよ」
「ひぃっ、待っ、あっ、ノアっ」
「うん、愛してる、アリス」
誰かに愛されることも誰かを愛することも諦めていた美貌の王子は、呪いで醜い獣に姿を変えられたことで、真実の愛を手に入れることができたのだ。
────────────
読んでくださってありがとうございます。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
562
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる