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第四章 死霊の騎士
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分厚い資料を手に持ちながら、中を巡回していた騎士に付き添われ、タルトはメリーと合流、神殿を出たところで、その騎士にこう言った。
「あの、もう大丈夫です」
「いえ、何かあっては事ですので。そこのカフェに付き人を待たせておいでなのでしょう? そこまではお供致します」
「――はい」
タルトは、そう返事をするしかなかった。彼に付き添われる時、アレクシスから彼の身分を聞いていたのだ。ヒュプノスと。
アレクシスも恐らくそうであることは、その際の親し気な会話で分かった。
その時から彼女は冷や冷やしっぱなしで、カフェに着き、騎士が恭しく頭を下げて戻っていって、やっと一息つけた。
「どうして百騎士の者に付き添われてますのよ。先程の爆発音に何か関係してますの?」
驚いた顔でそう言うソフィーに、タルトは事の顛末を語った。
ソフィーは言葉もない様子で、額を押さえ、それから天を仰いでいた。
「これからお買い物に行くっていうのに、私もう疲れて……」
そう言ってタルトがテーブルに突っ伏すと、ソフィーが彼女に呆れ顔を向けた。
「まったく、思わぬビッグネームを出しましたわね。頭を下げられる訳ですわ」
「この地に古くから住む偉大な方々だっていうのは聞いたけど、私関係ないのに、なんかそこの子だって誤解されて、高い身分の人に頭を下げられる気持ち、ソフィーも分かった?」
タルトは、居心地の悪さを目で訴えかけたが、かぶりを振って返される。
「そう思っているのはあなただけですわ」
「もしかしてソフィーもそう思ってる? もう、やめてよ。私そんな人知らないし、そもそもここに来たばかりなのよ?」
「今となっては、それも怪しいものですわね」
どうして皆誤解するのか、今回は原因がはっきりしていたが。
タルトは肩を竦めたあと、自らの手のひらを見つめた。
「私、凄い魔力があったみたい。ヒュプノスになれるって」
「でなければ古老に引き取られたりしませんわよ。あなたが貴族の仲間入りを果たしたら、ぜひわたくしにも甘い蜜を分けて頂きたいとこですわね」
ティーカップを優雅に傾けながら、ソフィーにそう言われ、タルトはハッとした。
「ああ、そっか。ヒュプノスになるってことはお貴族様になるってことだから……」
華のある貴族になれることは嬉しいが、それに見合った立ち振る舞いを要求されることだろう。彼女がそのことを不安に思っていると、ソフィーがくすっと笑った。
「そんな気はしてましたけど、身分の差なんてあってないような牧歌的な所で生まれ育ちましたのね。知りませんのでしょう? 貴族らしい貴族を」
タルトは小さく頷き、次の言葉でまたハっとした。
「何でしたらわたくしが教えて差し上げますわよ。貴族というものを」
今頭に浮かんでいる問題を解決できる人物が目の前にいて、彼女は思わず身を乗り出し、その手を握った。
「お願い! ソフィーがいてくれて良かったわぁ……、私どうしようと思ってて」
「イロハは叩き込んであげますけど、あなたのところの不出来な教育係と違って、わたくしは甘やかしたりしませんわよ?」
自信とその厳しさを匂わせる彼女に、タルトは少し怯み、両手を軽く上げる。
「お手柔らかにお願い」
「善処は致しますけど、了承はしかねますわね。貴族の子の多くは幼い内から厳しく躾けられるものですし、まぁ、中には甘やかされて育つ者もいますけど。あなたのように身分の高い者ほど特に」
自分はそんな人間ではないが、既に経歴を嘘で塗り固めたあとだ。
タルトは何も言えず、椅子に腰掛け直していた。
「あの、何か頼んでいい?」
メリーがそう言うと、ソフィーからメニュー表を手渡されていた。
「あ、私も――」
そう言ってタルトもそれを覗き込む。
そして、彼女はそこに書かれていたメニューに驚愕した。
ケーキがあったのだ。しかも何種類も。
さらに、その下にはタルト姫の大好物まで書かれており、彼女は青天の霹靂のような衝撃を受けていた。
「ケーキとミルクティーにしようかな」
震えた声で、タルトはそれに続いた。
「わ、私タルト――。林檎のタルト、頼んでいい?」
ソフィーがふき出すように笑った。
「あなたのお金なんですから、好きに頼みなさいな。でもケーキでなくて良いんですの? 昨日あれほど騒いでましたのに」
究極の二択を迫られたような感じがして、タルトはその動きを止めた。
どうしようと思った。どっちも食べたいが、ソフィーの言で揺らぎ、決めきれない自分がいた。
その時ふと気付く。両方頼めば良いのではと。
妙案閃き、タルトは笑顔でこう言った。
「どっちも食べることにするわ。だってどっちかなんて決められないし、両方食べたいもの」
「欲望のままに食べていたらすぐ太りますわよ? 片方になさいな」
ええっ! と思わず心の中で声を上げ、タルトはそのまま固まった。
絵本の中で、甘い物ばかり食べていると太ってドレスが着られなくなると、タルト姫が執事に言われていたことを彼女は今思い出していた。
「その、ちょっとくらい……、私太ったことなんてないし、駄目?」
しかしだ、食べたいものは食べたく、彼女はそう言った。
「プロポーションは女の命。まずその甘ったれた考えを直さねば、貴族の仲間入りなど出来ぬものだとお思いなさい」
手厳しいと思いながら、「はーい」と返事をし、タルトはしょげかえる。
それで結局彼女が選んだのは、林檎のタルトの方で、注文を終え、配膳されて感動を覚えながら舌鼓を打っていた時だ。
突如として現れた騎士が隣の席に腰掛け、手から赤黒い魔力を迸らせてワイングラスを握った。
そのグラスに、どこからともなく血のように赤いワインが注がれ、騎士はタルトの方を向いて乾杯するように少しだけそれを掲げてみせる。
「君に巡り合えたことに」
そしてそう言うと彼は鎧から漆黒の顔を覗かせ、杯を傾けた。
不気味な光景過ぎてタルトは固まっていたが、ソフィーはその意味をすぐに理解し、彼女に耳打ちした。
「口説かれてるんですのよ」
ええっ! とタルトは心の中で声を上げ、視線を彷徨わせる。
「私はこの日が来るのをずっと待っていた。ようやくだ、ようやくその時がきて、私の胸は今感動に打ち震えているよ。君もそうではないのかな?」
急にそんなことを言われてもと、動揺する彼女のもとに騎士はゆっくりと近付いていき、すっと手を差し伸べ、覗かせていた顔を愉悦に歪めた。
「もっと喜びたまえ。この私の一部になれることを」
そして、そう言うと彼はタルトの喉を掴んだが、触れたところが黒い靄のようなものに侵食されていることに気付き、すぐさまその手を引き戻していた。
「おっと。まぁ、これくらいの仕掛けは打ってるか」
今がどういう状況なのか、一番に察知したのはメリーだった。
彼女がタルトに付いていたのは、その身を守る為。ヨハンに頼まれていたのだ。
闇が仇名す者にその牙を向いた時、逃がして欲しいと。
「二人共私に掴まって!」
メリーはそう叫びつつも自ら二人を掴みにいき、生まれ落ちた瞬間からその身に刻まれた魔法を用い、目に映る者の後ろに皆で憑りつく。
憑りついた先は近くにいたウェイターだったが、そこから更に魔法を使い、車を運転していた男に憑りついて、その場から離れた。
「やれやれ、良い護衛をつけているじゃないか。ただ相手が悪い。私はかくれんぼより鬼ごっこの方が得意でね。この私から逃げ果せるなど思わぬことだ」
騎士もそう言うとその場から掻き消えるように姿を消す。
車の中、未だ状況を掴めていないタルトとソフィーが、憑りついた状態で右往左往していた。
『え、え、何これ、何が起きたのっ!』
『状況がまったく分かりませんわ。説明して頂けまして?』
『あの人悪い人。私はこの子を守るよう言われてたの』
下の子として見ていたメリーにこの子呼ばわりされたタルトは目が点になっていたが、ソフィーはそれで今の状況を大体把握する。
『あなたはお目付け役兼、護衛だったという訳ですわね』
『お目付け役? 私は守るよう言われてただけ』
ただの護衛だったと、まぁそれだけの話で、理解したとソフィーは軽く頷いてみせ、後方を確認した。
あの騎士の姿はない。流石に車を追ってはこれなかったようだ。
立ち直ったタルトが困ったような表情で二人に言った。
『えーと、私にも分かるよう言ってくれると……』
「あなたはあの騎士に命を狙われてましたのよ」
『ええっ! あの人私の命を狙ってたの!』
狙われている理由が皆目分からず、しかし目をつけられていたのは確かに自分で、彼女は頭をひどく混乱させる。
『それにしても大胆な暗殺者を差し向けてきましたわね。白昼堂々、それも百騎士に成り済まして暗殺しようとするだなんて、メリーがいなかったらと思うとゾっとしますわ』
目撃者が多くいる中での犯行だ。諸共消されるということは無かっただろうが、誰かが殺される瞬間などソフィーは見たくなかった。
通勤ラッシュの時間は過ぎていたが、渋滞は未だ改善されきっておらず、車が停まる。
直後、彼女達がひっそりと乗り込む車の窓をノックする者がいた。
そいつは騎士の姿をしていて、彼女達は驚愕し、即座にメリーが魔法を使ってもっと前の車の運転手に乗り移っていた。
しかし、すぐさままた車の窓をノックされ、メリーは混乱、パニックを起こして魔法を連発、騎士との距離を一気に離した。
『なんで――? なんで私達がいる場所が分かるの――?』
憑りついている間は、こちらからアクションを起こさない限り誰にも気付かれることはない。
メリーはそういう魔法を使っていたが、的確に居場所を探り当てられており、また乗っている車をノックされる。
『なんで――――』
『言ってる場合でして! 早く他に乗り移るんですのよ!』
メリーは魔法を使ったが、即座に見つかり、また逃げて、また見つかってのいたちごっこを繰り返し、ついには彼女の方が先に音を上げてしまう。
『もう――限界。なんで分かるの――分からない――』
ノック音が聞こえてくる。
それはまるで死神の足音のようで、彼女達が震え上がったその時、通りにあったガング石材店という店から、無数の触手を生やした目玉の異形と共に見覚えのある男が出てくる。
ペスト医師のようなその出で立ち、マルテで間違いなく、彼の存在にいち早く気付いたソフィーがメリーを揺すった。
『メリー! どうにかあと一回乗り移れませんの!』
『……やっても無駄』
『いいえ、今回ばかりは無駄になったりはしませんわ』
希望の光をその目に宿し、ソフィーは通りを歩くマルテを指差す。
『あのペスト医師のような男、オオガラスなんですのよ。流石に空の上までは、それも弾丸のような速度で飛ぶオオガラスを追うなんてことは、出来っこないはずですわ!』
騎士が運転手と話をしていた。中を検めさせて欲しいと言っている。
念の為、後部座席の子供に憑りついておいて正解だった。
しかし、捕まるのは時間の問題で、メリーは最後の力を振り絞ってマルテの後ろに憑りつき、直後にふぅーっと彼の耳に息を吹き掛ける。
「おぅわっ! な、なんだぁ?」
マルテは素っ頓狂な声を上げ、きょろきょろ辺りを見回していた。
「急にどうしたんだよ」
「――いや、今耳に何か吹き掛けられた気がして、なんだったんだ……?」
「お前まだ酔っぱらってんのかよ。まぁ、昨日はしこたま呑んだからなぁ」
確かに彼らは強烈な酒の臭いを漂わせていた。思わず顔をしかめる程だ。
『話し掛けて』
その声はマルテにも届いており、彼はゾっとしていた。
『マルテ。わたくしですわ。ソフィー・ワド・ベクスター。昨日の今日ですし、覚えてますでしょう?』
「――ベ、ベクスターさん? これは一体……」
『今暗殺者に追われてますのよ! ほら、来ましたわよ!』
突然目の前に現れた騎士が、マルテに声を掛ける。
「やぁ、そこの君、ちょっとこっちへ来てくれないかな」
『見た目に騙されてはいけませんわよ! そいつが暗殺者ですのよ!』
マルテは先程から混乱しっぱなしだったが、目の前の奴が怪しいことだけは分かった。
百騎士の人数は文字通りで、数が少なく、神殿のような要所以外では、まずお目に掛かれるような連中ではなかったからだ。
「あー、断ると言ったら、どうなさいます?」
「おい、マルテ。ここは従っておいた方が……」
そう言うツレにマルテは目で訴えた。どう見たってこいつは怪しいだろうと。
ツレもそれは思っていたようで、それ以上は何も言わず、目の前の騎士に目を向けていた。
「君は死霊の百騎士に歯向かうと言うのかい? 構わないけど、あとが怖いよ?」
マルテはそれを鼻で笑う。
「申し訳ありませんが、ここらじゃこのマルターレのマルテは恐れ知らずで通ってまして」
そこまで言うと、彼はツレに目で合図を送った。やるぞと。
「いつまで百騎士気取ってんだこの成り済まし野郎が。くだらないことやってないで、家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
ヒュー、とツレが口笛を吹いてそれをさらに茶化すと、騎士が肩を竦め、ゆるゆると頭を振っていた。
「ここまで無礼な者に出会ったのは生まれて初めてで、怒りを通り越して笑えてきたよ」
次の瞬間、少しあいていた騎士との距離が一気に縮まり、マルテは戦慄を覚えた。
騎士の動きがまるで見えなかったのだ。
「君には褒美を取らせるとしよう。苦しみ抜いて死ぬという褒美をね。きたまえ」
騎士が突き込んできた手は見えなかったが、僅かな予備動作があり、彼は咄嗟に体をよじったことでそれを躱し、変身を解いて騎士をその大きな足で蹴り飛ばした。
そして、すかさず飛び立つ。
『ナイスですわマルテ! やるではありませんの!』
褒められても何一つ嬉しくなく、マルテは少し疲れた顔で彼女に言った。
「とりあえず、説明して貰えませんかね……」
『ごめんなさい、後にして。それよりランプ屋に行って』
「あなたは先ほどの声の――」
『マルテその、昨日ぶり』
「おや、タルトさんまで。あぁー、何となく事情が呑みこめてきました」
何故暗殺者に狙われていたのか、意味がまったく分からなかったが、今彼はそれを理解した。
身分の高い者がその命を狙われることなど、ざらにあることだからだ。
「背中から声が聞こえてくる理由は、未だ分かりませんけどね……」
『後ろに憑りついてるだけだから。心配しないで』
お化けかよ、と彼は一瞬思ったが、自分含め皆そうであることを思い出し、納得した。
「そうですか。まぁ、憑りついているのなら振り落としてしまう心配はなさそうですし、少しとばしますよ。あいつは――ちょっと洒落になってない」
『恐らく、タナトスですわね。あなたに蹴られても大したことなさそうでしたし、赤黒い魔力を迸らせているのを見ましたわ。少なくとも異形であるのは間違いありませんわね』
「相手は本物を雇ってる可能性ありません?」
『考えたくはありませんけど、十二分に有り得ますわね。何せこの子は、タルトは古老の庇護下にありましたもの。余程の凄腕を送り込まねば、暗殺なんて出来るものではありませんわ』
驚きのあまり、マルテは咽そうになった。
「……思わぬビッグネームを出しましたね?」
『わたくしもそれを知った時、同じことを言いましたわよ』
だろうなと思い、彼は肩を竦めるように言った。
「やれやれ、とんだ厄介事に巻き込まれたようだ」
『マルテ、頼りにしてますわ』
「どこぞの探偵ではありませんが、絶望の淵にある女性に頼られたら、紳士は危険を顧みることができませんからね。お任せあれだ!」
マルテはランプ屋の上にくると旋回、騎士がいないことを確かめ、翼を畳んで降下を始めた。
『あいつは急に現れますわ!』
「分かってますとも。降りると同時に――――」
翼の付け根、鋭い痛みが走ってマルテはそこを見る。
あの騎士がいて、左側の翼が切断されていた。
驚愕がくるより先に、制御できなくなった身体が錐もみ状態になり、そのまま彼は地面に全身を打ちつけてごろごろと転がって止まった。
直後、呻いていたところを次は刺され、彼は絶叫を上げた。
「良い悲鳴だ、素敵だよ。でもまだ少し核を削っただけで、致命傷という程じゃない。本番はこれからだよ? あまり楽しんでいられないのが残念だね」
炎を迸らせて剣を生み、それを突き刺すという行為が繰り返される。
その度に絶叫が上がり、騎士が高笑いをしながらその行いを楽しんでいた時だ、ランプ屋の屋根の上に黒猫が姿をみせた。ヨハンだ。
「えげつないことするね」
彼はそう言うと、厳かな声で唱え始める。
「―闇よ鉄となれ、牢となれ、針となってその血を啜れ―」
どこからともなく現れた闇が、騎士を包み込んだ。
すぐに金属音がして、亀裂が入るような音が聞こえてきたが、突然闇が掻き消され、あとには誰もおらず、ヨハンはそのことに驚いており、
「今の力、覚えがあるよ。まさか神から祝福を受けた者が他にもいたとはね」
神妙な顔付きでそう言うと、彼は魔導書になり、中から吐き出した電話を飛ばし、呻き声一つ上げなくなったマルテの前に浮かべた。
誰の仕業か察してくれたようで、電話が鳴り始め、彼はマルテを操って、受話器を上げさせる。
『私メリー、今あなたの後ろにいるの』
魔法を解く言葉が受話器の向こうから発せられ、彼女達は姿を現す。
すぐにメリーが隣の家に駆け込んだ。あれだけの騒ぎだ、既に通報はされていたようで、それほど時間も掛からず救急車とパトカーが来て、被害者の図体の大きさに応援要請がなされたりと現場が慌ただしくなっていく。
ソフィーが救急車に同乗することになり、茫然自失のような状態ながらも「私も――」とついて行こうとしたタルトを止めていた。
「あいつはあなたを狙ってましたのよ。来てはなりませんわ」
「でも――私のせいで」
「わたくしが巻き込んだんですのよ。あなたは安全なここに居なさい。これ以上、誰かが傷付くところを私は見たくありませんのよ」
ソフィーは気を落とす彼女の肩を励ますように叩き、救急車に乗り込む。
不安な顔付きで見送っていたタルトのもとにヨハンがきて、身振りでついてくるよう促していた。
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異形区にある屋敷の一室で、華美な仮面を被った男がぼやいていた。
「あーあ、玩具が壊されちゃった……。しかしあの力、古老、いやそれに準ずるくらいかな……?」
一対一ならともかく、徒党を組まれると厄介だった。
今のこの国の政治体制、議会制を覆し、王政復古を成し遂げ、自らがその椅子に座る為には徒党を組まれても問題ないくらいの力がいる。
それをもう少しで手に出来そうだったというのに、寸前で阻まれたのは悔しく、同時に取るに足らない相手で遊んでしまったことを彼は少し後悔していた。
「どうしようかなぁ。思ったより厄介なのが出てきたし、うちの連中は頼りにならない奴ばかりだし」
彼も徒党を組み、派閥を率いる身ではあったが、そこに所属しているのは若手のタナトスばかりで、老獪な連中と渡り合えるほどの者はおらず、んんーと唸って頭を悩ませる。
「力押ししてもいいけど、まだ早い気もするし、搦め手の方が得策かなぁ?」
パンパン、と手を打つと二名の従僕が姿を現し、彼は魔法で作った写真を二人に投げ渡した。
「一度失態を犯した君達に挽回するチャンスをあげよう。その子の周りを探ってきて。場所はナラク区西、ムーンフラワーって看板を掲げた小さな店にいる。まぁ、今頃事件になっているだろうから、すぐ分かると思うけどね」
掻き消えるように従僕が退がると、彼はワイングラスに赤いワインを注ぎ、一息つく。
「くだらん手土産を持ち帰ってくるなよ? 君達が有能であることを私は祈っている」
そして、そう言うと軽くグラスを掲げ、景気づけするように彼は一気に中身を飲み干した。
**********************
総合病院の待合室、ソフィーは長椅子に腰掛け、自らを責め抜いていた。
巻き込んでしまったマルテが、奇跡でも起こらない限り助からないことを、医師に聞かされていたのだ。
「放せ! 放しやがれてめぇらっ!」
数人の警備に押さえつけらた目玉の異形が、中に押し込められていた。
「騒ぐならここでじっとしてろ! 他の患者に迷惑だ!」
「何だとこらぁっ! マルテが! マルテが死にそうなんだよ!」
「だったら騒ぐな! 静かに見守る分には問題ないと何度も言ってるだろう!」
「……んなこと、できるかよ。マルテはよぉ、俺の親友なんだよ。枕元で静かに手を握ってることしか俺にはできねぇってのか……くそっ!」
喚いていたその異形は、その大きな目玉から大粒の涙を流していた。
「ガング。ここは病院だ。静かにしてろ」
あとから入ってきた年配の男が、その異形にそう言った。
「――おやっさん」
「あのマルテがやられたってんで、いの一番にお前に電話してやったが、騒ぎ起こしてんじゃねぇよ、ったくお前って奴は……」
「――俺、――俺さ」
「お前の気持ちは分かってるよ。俺だってそうさ。星は必ずこの手で挙げてやる。マルテだってすぐに良くなるさ」
彼はガングという異形を大人しくさせると、ソフィーのところに来て警察手帳を見せた。
「向こうで少し話を聞いてきたが、子供ばかりで要領を得なくてな。別嬪さんからも話を聞かせて貰えるかい」
ソフィーが事の顛末を語り終えると、彼は煙草に火を点け、渋い顔で煙をくゆらせていた。
「お貴族様同士の揉め事か。そうなると俺らに出来ることは少ないな」
「おやっさん!」
「気を急くなって。少ないってだけで、何も出来ない訳じゃない。ひとまず、俺は電話してくるが、俺がいない間、騒ぐんじゃねぇぞ、ガング」
残された二人は重たい沈黙を保っていたが、刑事の男が帰ってくるなりガングが彼に言った。
「おやっさん。女王の薬なら、マルテは助かるんじゃないか……?」
それを聞くなり年配の刑事は眉間に皺を寄せ、眼光を鋭く細めた。
「お前――、この病院ならあるだろうが、あれを打ち続けるには莫大な金がいる。そんな金どこからひり出すつもりだ。小さな石材屋がどうにかできる額じゃねぇぞ」
「マルテが元気になったら、二人で必死に稼ぐさ。俺らなら何だって出来る。何でもやって、しこたま稼いでやるさ!」
「それでまた悪事に手を染めるつもりか? 俺の目が黒いうちは絶対にそんなことはさせねぇ、若ぇこと言ってんじゃねぇぞ、ガング。現実を見ろ。女王の薬で仮に助かったとしても、長生きはできねぇ。いつ死んでもおかしくねぇ恐怖に苛まれながら、悪戯に苦しみを引き伸ばすだけだ。あれをすき好んで打ってた連中の末路、お前も知ってんだろうが」
あんなものを打ち続けるくらいなら、覚醒剤の方がまだマシだとも彼は言った。
「――だったら俺はどうすりゃいいんだよ。マルテに、別れの挨拶をすることも出来やしねぇんだぞ……」
その時、ソフィーがすっと立ち上がり、胸元から札束を取り出した。
「お金ならここにありますわ。わたくしが病院の先生に掛け合ってきます」
「あんた――」
「すまねぇ姐さんっ! すまねぇっ!」
ガングは被せるようにそう言い、頭を床に擦り付けるように彼女に頭を下げた。
「やめてくださいまし! わたくしが――わたくしがマルテを巻き込んだんですのよ。それに、このお金はわたくしのものではありませんの。けれど多分あの子なら、黙ってこのお金を手渡していたと思いますし」
「何だっていい! マルテが助かるんなら俺はそれでいい! よし、俺が病院の先生に掛け合ってくらぁ、姐さん達はここで待っててくれ!」
彼はそう言うや否や、触手を伸ばしてひったくるようにソフィーの手から金を取り、走り去っていく。
「すまねぇな、あの野郎奪い取るように持っていきやがって……。あとで頭を下げるよう俺から言っておく」
「いいんですのよ。現金を見せた方が交渉しやすいでしょうし」
「一般に処方されてるものじゃねぇからな。少し、外の空気でも吸いに行かねぇか」
それで二人は外に出て、手頃なベンチに腰掛けた。
年配の刑事が、小指を立てて言った。
「あんた、マルテのコレか?」
「違いますわ」
「そうかい、じゃあ何でそこまで。巻き込んだからって理由だけかい?」
「――多分、そうですわね。あの場ではそうした方が良いように思いましたの」
「なら悪い方には転ばねぇだろう。女の勘ってのは当たるからな」
「助かって欲しいですわね」
「ああ、あいつには偉そうなこと言っちまったが、立場が逆なら俺だって同じことを言ったろうさ。あいつらとは長い付き合いでよ、あのマルテがやられたってのが未だに信じられねぇ、相手がタナトスだとしてもだ」
「彼、自らを傑物のように語ってましたわね。本当にそうでしたの?」
「いや、流石にそこまでの奴じゃねぇさ。でもよ、あの野郎喧嘩の腕っぷしは確かで、負け知らずの恐れ知らず、凶鳥マルテに出会ったら、一目散に逃げ帰れってここらのごろつき共は合言葉のように唱えてやがってな。ガングの方は金魚の糞扱いで、そのことを少し気にしてたみたいだが、俺はあいつらは二人で一人前だと思ってる」
「あの二人、欠けてはならない間柄でしたのね。ですけど、マルテが恐れ知らずっていうのはちょっとイメージ湧きませんわね。口は達者ですけど、彼ちょっと頼りない感じで、それにヒュプノスやタナトスのことも恐れてましたわよ?」
「それだけ丸くなったってことさ。ほんと、あいつには手を焼かされたもんだ」
年配の刑事は遠い目をした。ひとかたならぬ付き合いが、彼らにはあったのだろう。
「あんまりのんびりしていられなくてな、俺はもう行くとする。悪いがあいつによろしく言っといてくれ」
「分かりましたわ。マルテがよくなったら一報入れますわね」
「ああ、でも多分あいつがすぐに掛けてくるだろうから、驚いたりはできねぇと思うが」
その冗談に、ソフィーは少し笑った。
「構いませんわよ。期待してませんし。そこまで見送りますわね」
「別嬪さんに見送られるなんざ初めてで、少し緊張してきたな」
「また冗談でして?」
「いや、今のは本音さ。もう少し若けりゃ番号を聞いてるとこだ」
連れだって歩き始めたその時、二人は庭木の死角に入り、その瞬間を待っていた者達が動いた。
二人は同時に、胸を刺し貫かれていた。
その場に崩れ落ち、消えていく二人を隅に隠し、その者達は二人の姿にそれぞれ化けていた。
「ノクターナス様は、勝手なことをした我らをお叱りになると思うか?」
年配の刑事に化けていた方が、小さくかぶりを振った。
「お叱りになどならんさ。失敗すれば消されるだけだ」
「だが、言われたことだけしているようでは、あの方は満足するまい」
「そうだな。だから大きな手土産を持ち帰る必要がある。うまく引き離さねばな」
主からは何も聞かされてはいないが、彼らは察していた。主が写真の娘を欲しているということを。それほど長い時間、彼らは傍で仕えてきたのだ。揺るぎない忠誠と誇りを持って。
「分かっている。しかし、面倒なところに隠れてくれたものだ」
「騒ぎになったら、最悪俺は始末されるだろう。頼んだぞ?」
「ああ、任せておけ。お前の死は決して無駄にはしない」
「……まだ死ぬと決まった訳ではないのだが」
不服そうな相方に、ソフィーに化けていた方がふっと笑い、彼女の声色で言った。
「あら、そうでしたわね。失礼しましたわ」
「せめて俺の無事くらい祈れ。俺は奴らが底抜けのお人好しであることを祈ろう。行くぞ」
人でなかったことが幸いし、ソフィーは無事だったが、彼らが掻き消えるようにその場からいなくなった後も恐怖で動くことが出来ず、彼女は次の日の朝が来るまで、何も知らない花のフリを続けていた。
「あの、もう大丈夫です」
「いえ、何かあっては事ですので。そこのカフェに付き人を待たせておいでなのでしょう? そこまではお供致します」
「――はい」
タルトは、そう返事をするしかなかった。彼に付き添われる時、アレクシスから彼の身分を聞いていたのだ。ヒュプノスと。
アレクシスも恐らくそうであることは、その際の親し気な会話で分かった。
その時から彼女は冷や冷やしっぱなしで、カフェに着き、騎士が恭しく頭を下げて戻っていって、やっと一息つけた。
「どうして百騎士の者に付き添われてますのよ。先程の爆発音に何か関係してますの?」
驚いた顔でそう言うソフィーに、タルトは事の顛末を語った。
ソフィーは言葉もない様子で、額を押さえ、それから天を仰いでいた。
「これからお買い物に行くっていうのに、私もう疲れて……」
そう言ってタルトがテーブルに突っ伏すと、ソフィーが彼女に呆れ顔を向けた。
「まったく、思わぬビッグネームを出しましたわね。頭を下げられる訳ですわ」
「この地に古くから住む偉大な方々だっていうのは聞いたけど、私関係ないのに、なんかそこの子だって誤解されて、高い身分の人に頭を下げられる気持ち、ソフィーも分かった?」
タルトは、居心地の悪さを目で訴えかけたが、かぶりを振って返される。
「そう思っているのはあなただけですわ」
「もしかしてソフィーもそう思ってる? もう、やめてよ。私そんな人知らないし、そもそもここに来たばかりなのよ?」
「今となっては、それも怪しいものですわね」
どうして皆誤解するのか、今回は原因がはっきりしていたが。
タルトは肩を竦めたあと、自らの手のひらを見つめた。
「私、凄い魔力があったみたい。ヒュプノスになれるって」
「でなければ古老に引き取られたりしませんわよ。あなたが貴族の仲間入りを果たしたら、ぜひわたくしにも甘い蜜を分けて頂きたいとこですわね」
ティーカップを優雅に傾けながら、ソフィーにそう言われ、タルトはハッとした。
「ああ、そっか。ヒュプノスになるってことはお貴族様になるってことだから……」
華のある貴族になれることは嬉しいが、それに見合った立ち振る舞いを要求されることだろう。彼女がそのことを不安に思っていると、ソフィーがくすっと笑った。
「そんな気はしてましたけど、身分の差なんてあってないような牧歌的な所で生まれ育ちましたのね。知りませんのでしょう? 貴族らしい貴族を」
タルトは小さく頷き、次の言葉でまたハっとした。
「何でしたらわたくしが教えて差し上げますわよ。貴族というものを」
今頭に浮かんでいる問題を解決できる人物が目の前にいて、彼女は思わず身を乗り出し、その手を握った。
「お願い! ソフィーがいてくれて良かったわぁ……、私どうしようと思ってて」
「イロハは叩き込んであげますけど、あなたのところの不出来な教育係と違って、わたくしは甘やかしたりしませんわよ?」
自信とその厳しさを匂わせる彼女に、タルトは少し怯み、両手を軽く上げる。
「お手柔らかにお願い」
「善処は致しますけど、了承はしかねますわね。貴族の子の多くは幼い内から厳しく躾けられるものですし、まぁ、中には甘やかされて育つ者もいますけど。あなたのように身分の高い者ほど特に」
自分はそんな人間ではないが、既に経歴を嘘で塗り固めたあとだ。
タルトは何も言えず、椅子に腰掛け直していた。
「あの、何か頼んでいい?」
メリーがそう言うと、ソフィーからメニュー表を手渡されていた。
「あ、私も――」
そう言ってタルトもそれを覗き込む。
そして、彼女はそこに書かれていたメニューに驚愕した。
ケーキがあったのだ。しかも何種類も。
さらに、その下にはタルト姫の大好物まで書かれており、彼女は青天の霹靂のような衝撃を受けていた。
「ケーキとミルクティーにしようかな」
震えた声で、タルトはそれに続いた。
「わ、私タルト――。林檎のタルト、頼んでいい?」
ソフィーがふき出すように笑った。
「あなたのお金なんですから、好きに頼みなさいな。でもケーキでなくて良いんですの? 昨日あれほど騒いでましたのに」
究極の二択を迫られたような感じがして、タルトはその動きを止めた。
どうしようと思った。どっちも食べたいが、ソフィーの言で揺らぎ、決めきれない自分がいた。
その時ふと気付く。両方頼めば良いのではと。
妙案閃き、タルトは笑顔でこう言った。
「どっちも食べることにするわ。だってどっちかなんて決められないし、両方食べたいもの」
「欲望のままに食べていたらすぐ太りますわよ? 片方になさいな」
ええっ! と思わず心の中で声を上げ、タルトはそのまま固まった。
絵本の中で、甘い物ばかり食べていると太ってドレスが着られなくなると、タルト姫が執事に言われていたことを彼女は今思い出していた。
「その、ちょっとくらい……、私太ったことなんてないし、駄目?」
しかしだ、食べたいものは食べたく、彼女はそう言った。
「プロポーションは女の命。まずその甘ったれた考えを直さねば、貴族の仲間入りなど出来ぬものだとお思いなさい」
手厳しいと思いながら、「はーい」と返事をし、タルトはしょげかえる。
それで結局彼女が選んだのは、林檎のタルトの方で、注文を終え、配膳されて感動を覚えながら舌鼓を打っていた時だ。
突如として現れた騎士が隣の席に腰掛け、手から赤黒い魔力を迸らせてワイングラスを握った。
そのグラスに、どこからともなく血のように赤いワインが注がれ、騎士はタルトの方を向いて乾杯するように少しだけそれを掲げてみせる。
「君に巡り合えたことに」
そしてそう言うと彼は鎧から漆黒の顔を覗かせ、杯を傾けた。
不気味な光景過ぎてタルトは固まっていたが、ソフィーはその意味をすぐに理解し、彼女に耳打ちした。
「口説かれてるんですのよ」
ええっ! とタルトは心の中で声を上げ、視線を彷徨わせる。
「私はこの日が来るのをずっと待っていた。ようやくだ、ようやくその時がきて、私の胸は今感動に打ち震えているよ。君もそうではないのかな?」
急にそんなことを言われてもと、動揺する彼女のもとに騎士はゆっくりと近付いていき、すっと手を差し伸べ、覗かせていた顔を愉悦に歪めた。
「もっと喜びたまえ。この私の一部になれることを」
そして、そう言うと彼はタルトの喉を掴んだが、触れたところが黒い靄のようなものに侵食されていることに気付き、すぐさまその手を引き戻していた。
「おっと。まぁ、これくらいの仕掛けは打ってるか」
今がどういう状況なのか、一番に察知したのはメリーだった。
彼女がタルトに付いていたのは、その身を守る為。ヨハンに頼まれていたのだ。
闇が仇名す者にその牙を向いた時、逃がして欲しいと。
「二人共私に掴まって!」
メリーはそう叫びつつも自ら二人を掴みにいき、生まれ落ちた瞬間からその身に刻まれた魔法を用い、目に映る者の後ろに皆で憑りつく。
憑りついた先は近くにいたウェイターだったが、そこから更に魔法を使い、車を運転していた男に憑りついて、その場から離れた。
「やれやれ、良い護衛をつけているじゃないか。ただ相手が悪い。私はかくれんぼより鬼ごっこの方が得意でね。この私から逃げ果せるなど思わぬことだ」
騎士もそう言うとその場から掻き消えるように姿を消す。
車の中、未だ状況を掴めていないタルトとソフィーが、憑りついた状態で右往左往していた。
『え、え、何これ、何が起きたのっ!』
『状況がまったく分かりませんわ。説明して頂けまして?』
『あの人悪い人。私はこの子を守るよう言われてたの』
下の子として見ていたメリーにこの子呼ばわりされたタルトは目が点になっていたが、ソフィーはそれで今の状況を大体把握する。
『あなたはお目付け役兼、護衛だったという訳ですわね』
『お目付け役? 私は守るよう言われてただけ』
ただの護衛だったと、まぁそれだけの話で、理解したとソフィーは軽く頷いてみせ、後方を確認した。
あの騎士の姿はない。流石に車を追ってはこれなかったようだ。
立ち直ったタルトが困ったような表情で二人に言った。
『えーと、私にも分かるよう言ってくれると……』
「あなたはあの騎士に命を狙われてましたのよ」
『ええっ! あの人私の命を狙ってたの!』
狙われている理由が皆目分からず、しかし目をつけられていたのは確かに自分で、彼女は頭をひどく混乱させる。
『それにしても大胆な暗殺者を差し向けてきましたわね。白昼堂々、それも百騎士に成り済まして暗殺しようとするだなんて、メリーがいなかったらと思うとゾっとしますわ』
目撃者が多くいる中での犯行だ。諸共消されるということは無かっただろうが、誰かが殺される瞬間などソフィーは見たくなかった。
通勤ラッシュの時間は過ぎていたが、渋滞は未だ改善されきっておらず、車が停まる。
直後、彼女達がひっそりと乗り込む車の窓をノックする者がいた。
そいつは騎士の姿をしていて、彼女達は驚愕し、即座にメリーが魔法を使ってもっと前の車の運転手に乗り移っていた。
しかし、すぐさままた車の窓をノックされ、メリーは混乱、パニックを起こして魔法を連発、騎士との距離を一気に離した。
『なんで――? なんで私達がいる場所が分かるの――?』
憑りついている間は、こちらからアクションを起こさない限り誰にも気付かれることはない。
メリーはそういう魔法を使っていたが、的確に居場所を探り当てられており、また乗っている車をノックされる。
『なんで――――』
『言ってる場合でして! 早く他に乗り移るんですのよ!』
メリーは魔法を使ったが、即座に見つかり、また逃げて、また見つかってのいたちごっこを繰り返し、ついには彼女の方が先に音を上げてしまう。
『もう――限界。なんで分かるの――分からない――』
ノック音が聞こえてくる。
それはまるで死神の足音のようで、彼女達が震え上がったその時、通りにあったガング石材店という店から、無数の触手を生やした目玉の異形と共に見覚えのある男が出てくる。
ペスト医師のようなその出で立ち、マルテで間違いなく、彼の存在にいち早く気付いたソフィーがメリーを揺すった。
『メリー! どうにかあと一回乗り移れませんの!』
『……やっても無駄』
『いいえ、今回ばかりは無駄になったりはしませんわ』
希望の光をその目に宿し、ソフィーは通りを歩くマルテを指差す。
『あのペスト医師のような男、オオガラスなんですのよ。流石に空の上までは、それも弾丸のような速度で飛ぶオオガラスを追うなんてことは、出来っこないはずですわ!』
騎士が運転手と話をしていた。中を検めさせて欲しいと言っている。
念の為、後部座席の子供に憑りついておいて正解だった。
しかし、捕まるのは時間の問題で、メリーは最後の力を振り絞ってマルテの後ろに憑りつき、直後にふぅーっと彼の耳に息を吹き掛ける。
「おぅわっ! な、なんだぁ?」
マルテは素っ頓狂な声を上げ、きょろきょろ辺りを見回していた。
「急にどうしたんだよ」
「――いや、今耳に何か吹き掛けられた気がして、なんだったんだ……?」
「お前まだ酔っぱらってんのかよ。まぁ、昨日はしこたま呑んだからなぁ」
確かに彼らは強烈な酒の臭いを漂わせていた。思わず顔をしかめる程だ。
『話し掛けて』
その声はマルテにも届いており、彼はゾっとしていた。
『マルテ。わたくしですわ。ソフィー・ワド・ベクスター。昨日の今日ですし、覚えてますでしょう?』
「――ベ、ベクスターさん? これは一体……」
『今暗殺者に追われてますのよ! ほら、来ましたわよ!』
突然目の前に現れた騎士が、マルテに声を掛ける。
「やぁ、そこの君、ちょっとこっちへ来てくれないかな」
『見た目に騙されてはいけませんわよ! そいつが暗殺者ですのよ!』
マルテは先程から混乱しっぱなしだったが、目の前の奴が怪しいことだけは分かった。
百騎士の人数は文字通りで、数が少なく、神殿のような要所以外では、まずお目に掛かれるような連中ではなかったからだ。
「あー、断ると言ったら、どうなさいます?」
「おい、マルテ。ここは従っておいた方が……」
そう言うツレにマルテは目で訴えた。どう見たってこいつは怪しいだろうと。
ツレもそれは思っていたようで、それ以上は何も言わず、目の前の騎士に目を向けていた。
「君は死霊の百騎士に歯向かうと言うのかい? 構わないけど、あとが怖いよ?」
マルテはそれを鼻で笑う。
「申し訳ありませんが、ここらじゃこのマルターレのマルテは恐れ知らずで通ってまして」
そこまで言うと、彼はツレに目で合図を送った。やるぞと。
「いつまで百騎士気取ってんだこの成り済まし野郎が。くだらないことやってないで、家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
ヒュー、とツレが口笛を吹いてそれをさらに茶化すと、騎士が肩を竦め、ゆるゆると頭を振っていた。
「ここまで無礼な者に出会ったのは生まれて初めてで、怒りを通り越して笑えてきたよ」
次の瞬間、少しあいていた騎士との距離が一気に縮まり、マルテは戦慄を覚えた。
騎士の動きがまるで見えなかったのだ。
「君には褒美を取らせるとしよう。苦しみ抜いて死ぬという褒美をね。きたまえ」
騎士が突き込んできた手は見えなかったが、僅かな予備動作があり、彼は咄嗟に体をよじったことでそれを躱し、変身を解いて騎士をその大きな足で蹴り飛ばした。
そして、すかさず飛び立つ。
『ナイスですわマルテ! やるではありませんの!』
褒められても何一つ嬉しくなく、マルテは少し疲れた顔で彼女に言った。
「とりあえず、説明して貰えませんかね……」
『ごめんなさい、後にして。それよりランプ屋に行って』
「あなたは先ほどの声の――」
『マルテその、昨日ぶり』
「おや、タルトさんまで。あぁー、何となく事情が呑みこめてきました」
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ソフィーが救急車に同乗することになり、茫然自失のような状態ながらも「私も――」とついて行こうとしたタルトを止めていた。
「あいつはあなたを狙ってましたのよ。来てはなりませんわ」
「でも――私のせいで」
「わたくしが巻き込んだんですのよ。あなたは安全なここに居なさい。これ以上、誰かが傷付くところを私は見たくありませんのよ」
ソフィーは気を落とす彼女の肩を励ますように叩き、救急車に乗り込む。
不安な顔付きで見送っていたタルトのもとにヨハンがきて、身振りでついてくるよう促していた。
*********************
異形区にある屋敷の一室で、華美な仮面を被った男がぼやいていた。
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一対一ならともかく、徒党を組まれると厄介だった。
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そして、そう言うと軽くグラスを掲げ、景気づけするように彼は一気に中身を飲み干した。
**********************
総合病院の待合室、ソフィーは長椅子に腰掛け、自らを責め抜いていた。
巻き込んでしまったマルテが、奇跡でも起こらない限り助からないことを、医師に聞かされていたのだ。
「放せ! 放しやがれてめぇらっ!」
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喚いていたその異形は、その大きな目玉から大粒の涙を流していた。
「ガング。ここは病院だ。静かにしてろ」
あとから入ってきた年配の男が、その異形にそう言った。
「――おやっさん」
「あのマルテがやられたってんで、いの一番にお前に電話してやったが、騒ぎ起こしてんじゃねぇよ、ったくお前って奴は……」
「――俺、――俺さ」
「お前の気持ちは分かってるよ。俺だってそうさ。星は必ずこの手で挙げてやる。マルテだってすぐに良くなるさ」
彼はガングという異形を大人しくさせると、ソフィーのところに来て警察手帳を見せた。
「向こうで少し話を聞いてきたが、子供ばかりで要領を得なくてな。別嬪さんからも話を聞かせて貰えるかい」
ソフィーが事の顛末を語り終えると、彼は煙草に火を点け、渋い顔で煙をくゆらせていた。
「お貴族様同士の揉め事か。そうなると俺らに出来ることは少ないな」
「おやっさん!」
「気を急くなって。少ないってだけで、何も出来ない訳じゃない。ひとまず、俺は電話してくるが、俺がいない間、騒ぐんじゃねぇぞ、ガング」
残された二人は重たい沈黙を保っていたが、刑事の男が帰ってくるなりガングが彼に言った。
「おやっさん。女王の薬なら、マルテは助かるんじゃないか……?」
それを聞くなり年配の刑事は眉間に皺を寄せ、眼光を鋭く細めた。
「お前――、この病院ならあるだろうが、あれを打ち続けるには莫大な金がいる。そんな金どこからひり出すつもりだ。小さな石材屋がどうにかできる額じゃねぇぞ」
「マルテが元気になったら、二人で必死に稼ぐさ。俺らなら何だって出来る。何でもやって、しこたま稼いでやるさ!」
「それでまた悪事に手を染めるつもりか? 俺の目が黒いうちは絶対にそんなことはさせねぇ、若ぇこと言ってんじゃねぇぞ、ガング。現実を見ろ。女王の薬で仮に助かったとしても、長生きはできねぇ。いつ死んでもおかしくねぇ恐怖に苛まれながら、悪戯に苦しみを引き伸ばすだけだ。あれをすき好んで打ってた連中の末路、お前も知ってんだろうが」
あんなものを打ち続けるくらいなら、覚醒剤の方がまだマシだとも彼は言った。
「――だったら俺はどうすりゃいいんだよ。マルテに、別れの挨拶をすることも出来やしねぇんだぞ……」
その時、ソフィーがすっと立ち上がり、胸元から札束を取り出した。
「お金ならここにありますわ。わたくしが病院の先生に掛け合ってきます」
「あんた――」
「すまねぇ姐さんっ! すまねぇっ!」
ガングは被せるようにそう言い、頭を床に擦り付けるように彼女に頭を下げた。
「やめてくださいまし! わたくしが――わたくしがマルテを巻き込んだんですのよ。それに、このお金はわたくしのものではありませんの。けれど多分あの子なら、黙ってこのお金を手渡していたと思いますし」
「何だっていい! マルテが助かるんなら俺はそれでいい! よし、俺が病院の先生に掛け合ってくらぁ、姐さん達はここで待っててくれ!」
彼はそう言うや否や、触手を伸ばしてひったくるようにソフィーの手から金を取り、走り去っていく。
「すまねぇな、あの野郎奪い取るように持っていきやがって……。あとで頭を下げるよう俺から言っておく」
「いいんですのよ。現金を見せた方が交渉しやすいでしょうし」
「一般に処方されてるものじゃねぇからな。少し、外の空気でも吸いに行かねぇか」
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