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86. 魔族と会う俺
ミカエルに寄り添うように、ぴたりと横にくっついている皇帝は、上機嫌だった。
成人した男の、大きな身体に張り付かれて違和感を覚えるのは、今までその位置にいたのがアルヴィスだからだと思えば、途端に懐かしくなった。
心配してないといいけど。
アル、元気かな。
「…ジル。手紙を書くことは出来るかな」
「無事を知らせたい人が、いるってことかな?うーん…やめた方がいいと思う」
「…やっぱりそう思う?」
「気持ちはわかるけど。万が一ミカエルの行方がバレたら、返せと言って来るに違いないし、そうしたら交渉しないといけなくなるし、返した所でまた別の場所に行かされる可能性もあるし、何より俺が渡したくない」
「……」
素直だな。
特に最後。
「王妃との契約は、ミカエルが学園に入学するまでだよ。あの女も体裁は気にするみたいだね」
「…我が国の貴族家の子女は、学園卒業が必須だから。王族も然り」
「面倒くさいな。結婚して、ここにいたらいいよ」
「…十八にならないと、結婚は出来ないんだよ?」
「俺の国は、十六から出来るよ!」
「そうなんだ…」
胸を張って言われても、ソウェイサズ王国出身であるミカエルは、十八にならないと結婚は出来ない。
まだ、番確定したわけでもないし。
「婚約だけでもしておきたいけど、事情を鑑みると、ミカエルが帰国してからになるかな。国交開くのも、それに合わせてになるね。…ハァ面倒くさい…今すぐ結婚したい…」
やはりこの人は真面目だな、と思うミカエルだった。
この国では絶対の独裁者なのだから、法も何もかも、自分の思うように変えてしまえばいいのに、そうはしないのだった。
嫌いには、なれそうにない。
「…とすると、僕は四年間ここから動けないってこと?」
「それは、…」
「お待たせぇー!!やぁっと時間が取れたわー!!」
皇帝の声を遮るように響いた声の主は、応接室のど真ん中に立っていた。
「え…?」
いつの間に?
扉が開く音も、気配も、何もなかったにもかかわらず、気づけばそこには少女がいた。
「ニーデリア様!色々ありがとうございました」
「いいのよぉー!計画通り行ったかしら?」
「はい。ミカエルを、連れて来ることが出来ました!」
少女を様付けで呼んだジルは、嬉しそうに笑いながらミカエルの肩を抱き寄せ、立ち上がる。
歩み寄って来るニーデリアと呼ばれた少女にミカエルを見せるように、向き直った。
「良かったわねぇ!さ~あジルの愛しのミカエルちゃんに、やっと会え…る…、わ……、…?」
ニーデリアと呼ばれた少女もまた、嬉しそうに笑いながらミカエルの顔を覗き込み、瞬間で真顔になり、そして真っ青になって硬直した。
「ニーデリア様?」
怪訝に首を傾げる皇帝に反応することなく、少女は穴が開く程まっすぐに、ミカエルを見つめている。
「…初めまして。ソウェイサズ王国第一王子、ミカエル・ウル・ソウェイサズです…?」
視線がぶつかり、少女の瞳が紅であることを知った。
…見たことがある、色だった。
これまた素晴らしく整った、輝かんばかりの美貌の持ち主であり、世界で五本の指には入りそうで、驚いた。
う、うわー超絶美少女だぁーーーーー!!
だが残念ながら、ときめきはしなかった。
年齢は見た感じ、十代前半に見える。
身長は、ミカエルと同じくらいだった。
あと五年後に、会いたい所だ。
そんな美少女は、顔色が悪いまま立ち尽くしていた。
「…ジル、この方は?」
ミカエルが問うと、ジルも怪訝な表情を隠すことなく、ニーデリアからミカエルへと視線を移す。
「ニーデリア様。俺が十歳になるかどうかくらいの時、死にかけてる所を拾って、育てて下さったんだ。帝国を作ることが出来たのも、ニーデリア様のおかげだよ」
「十歳?」
目の前の少女と年齢が合わない気がして首を傾げると、ジルはミカエルの頭を撫でながら微笑んだ。
「ニーデリア様は魔族だから、外見は変わらないんだ」
「魔族…」
初めて見た。
「紅の瞳は、魔族しか持たない色だよ。美しいよね」
「え?…あ?うん…?」
え?
なんて?
魔族しか?
「ニーデリア様。ミカエルが美しいからって、見惚れ過ぎです!」
少女に対して全幅の信頼を寄せている様子の窺える声音で、笑いながら声をかけたジルだったが、少女の様子がただならぬことに気づいて、眉を顰めた。
「…どうか、なさいましたか?お顔の色が」
「…あっ、ううん!何でもない!やだぁもー!ミカエルちゃんが美しすぎて、びっくりしちゃったぁ!!」
我に返った様子で、慌てて手を振りながら笑みを向ける少女に、安堵したジルもまた、笑った。
「そうでしょう!ミカエルは、世界一美しいと思います!ニーデリア様も、同じくらいお美しいですけど!」
「うっふふ、ジルったらお世辞が上手!いいのよぉ!ミカエルちゃん、世界で一番か二番で美しいわ!アタシより綺麗よ!保証する!」
「俺もう、幸せです!」
「うんうん、良かったわねぇ。悲願だったものねぇ!…ミカエルちゃん、アタシのことは、ニーデリアって呼んでね!よろしく!」
ミカエルの両手を取って、にこりと微笑む少女は美しかった。
「よ、よろしくお願いします。ニーデリア様…?」
「様はやめて。ジルはもう癖になっちゃってるみたいだから止めないけど、アナタには呼び捨てで呼んでもらいたいわ?」
「え?…いえ、それはさすがに」
皇帝陛下が様付けで呼んでいる存在を、呼び捨てで呼べるわけがなかった。
首を振ったが、至近に寄った少女の視線の圧は、強かった。
「ううん、お願い。絶対。お願い。ホントに。お願い」
「…えぇ?…」
懇願にも聞こえる言葉は、必死さが滲んでいた。
なぜに?
「名前で呼ぶことが許されるってことは、君が認められたってことだよ!ニーデリア様のご希望だし、呼び捨てで呼んで差し上げて」
ジルはにこにこと笑っている。
二人に迫られ、ミカエルは抵抗を諦めた。
「で…では、ニーデリア、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
握られた両手をぶんぶんと上下に振られたが、少女の様子はおかしかった。
だがジルが気づいた様子はなく、少女の分の紅茶を用意させる為、ベルを鳴らそうとしていた。
が、少女が止めた。
「あ、ジル!久しぶりに、アナタの淹れた紅茶が飲みたいわ。ミカエルちゃんには、もう振る舞ってあげたの?」
いたずらっ子のように微笑んだ少女はとても愛らしかったが、ジルは気にすることなく「あっ」と声を上げ、ミカエルを見た。
「そういえばまだでした!ミカエル、ちょっと待ってて。紅茶持って来るね!」
「え、ジルが自分で…?」
「うん!結構上手いよ。任せて」
「あ、ありがとう…」
ニーデリアとミカエルを残し、ジルは上機嫌で応接室を出て行った。
後ろ姿をなんとなく見送っていたミカエルは、視線を戻して驚きに仰け反った。
ニーデリアが、足元に跪いていたからだった。
「えっ!?何!?どう、なさいましたか…!?」
「無礼をお許し下さい。そして、ミカエル様が自国へお戻りになるまでの間に働く無礼も、お許し頂ければ恐悦至極にございます」
「え?…いや、待って下さい。どういうことですか?」
「もっと早い段階で、確認すべき事柄でございました。まさか我が君の、…」
「わがきみ…とは…?」
「…申し訳ございません。ジルには、絶対に無礼を働かぬよう徹底させますゆえ、どうかお慈悲を。この国にご滞在の間、命に代えてもお護り致します。お戻りになられた後には、如何様にもご処分下さい」
「いや、待って下さい。どういうことですか?」
態度の変わりように、驚きを通り越して恐怖すら感じる。
なんで????
彼女の態度はまるで、臣下のそれだった。
我が君、って誰よ。
いやとりあえず。
頭を下げている少女の意志は、なぜかとても固いようだった。
ミカエルは戸惑いつつも、受け入れた。
「事情がおありのようですし、構いません。処分、も考えていませんし、私はここでお世話になる身です。護って頂けるのは、ありがたいことです。ジルは、十六になるまでは、と言ってくれているので、心配はしていません。信頼しています」
「…寛大な御心に、感謝申し上げます」
「……」
だから、何でですか!?
理由は話してくれそうになかった。
初対面で、あまり突っ込んで聞くことも躊躇われる。
四年間、ここでお世話になる予定であるのに、関係が拗れてしまうことは避けたい。
どうしようかと考えていると、少女はすっと無音で立ち上がり、向かいのソファへと腰掛けた。
ミカエルにも座るよう促すので従うと、扉が開いて、ワゴンにティーセットとスイーツを乗せて、ジルが戻って来た。
「え、ジルが自分で押して来たの?」
思わずミカエルが問うと、ジルは照れたように笑った。
後ろにはずらりと侍従と護衛騎士がいたが、彼らを扉の外に置いて、中へと入って来る。
「ミカエルとニーデリア様の為と思ったら、当然かなって」
「まぁジルったら、可愛いこと言うわねぇ」
「ありがとうございます、ニーデリア様!」
にこにこ。
にこにこ。
ジルとニーデリアの会話に入ることが出来ず、ただ行方を見守った。
ニーデリアと呼ばれる少女は魔族で、誰かに仕えていて。
ジルを拾って育てた親代わりで、帝国の為に力を貸していて。
なぜか、ミカエルに跪く。
でも表向きは、「皇帝の番を可愛がる親代わり」の立場を貫くようだった。
「ミカエル、どうぞ」
「ありがとう、ジル」
「ニーデリア様、どうぞ」
「さすがジルねぇ。手際がいいわ」
「やった!褒められたよミカエル!」
「うん、淹れるの上手いねジル」
「え、何俺幸せで死ぬの?」
「死なないから、早く座って飲みましょうねぇ」
「はい!」
ミカエルの隣に座って、幸せそうに笑うジルと。
向かいに座って、にこやかに笑う少女と。
内心混乱している、ミカエルがいた。
…そしてミカエルは、気づいたのだった。
この美少女、少女じゃなかった。
跪いて喋っていた時の声は、声変わりを終えた、男性の声だった。
成人した男の、大きな身体に張り付かれて違和感を覚えるのは、今までその位置にいたのがアルヴィスだからだと思えば、途端に懐かしくなった。
心配してないといいけど。
アル、元気かな。
「…ジル。手紙を書くことは出来るかな」
「無事を知らせたい人が、いるってことかな?うーん…やめた方がいいと思う」
「…やっぱりそう思う?」
「気持ちはわかるけど。万が一ミカエルの行方がバレたら、返せと言って来るに違いないし、そうしたら交渉しないといけなくなるし、返した所でまた別の場所に行かされる可能性もあるし、何より俺が渡したくない」
「……」
素直だな。
特に最後。
「王妃との契約は、ミカエルが学園に入学するまでだよ。あの女も体裁は気にするみたいだね」
「…我が国の貴族家の子女は、学園卒業が必須だから。王族も然り」
「面倒くさいな。結婚して、ここにいたらいいよ」
「…十八にならないと、結婚は出来ないんだよ?」
「俺の国は、十六から出来るよ!」
「そうなんだ…」
胸を張って言われても、ソウェイサズ王国出身であるミカエルは、十八にならないと結婚は出来ない。
まだ、番確定したわけでもないし。
「婚約だけでもしておきたいけど、事情を鑑みると、ミカエルが帰国してからになるかな。国交開くのも、それに合わせてになるね。…ハァ面倒くさい…今すぐ結婚したい…」
やはりこの人は真面目だな、と思うミカエルだった。
この国では絶対の独裁者なのだから、法も何もかも、自分の思うように変えてしまえばいいのに、そうはしないのだった。
嫌いには、なれそうにない。
「…とすると、僕は四年間ここから動けないってこと?」
「それは、…」
「お待たせぇー!!やぁっと時間が取れたわー!!」
皇帝の声を遮るように響いた声の主は、応接室のど真ん中に立っていた。
「え…?」
いつの間に?
扉が開く音も、気配も、何もなかったにもかかわらず、気づけばそこには少女がいた。
「ニーデリア様!色々ありがとうございました」
「いいのよぉー!計画通り行ったかしら?」
「はい。ミカエルを、連れて来ることが出来ました!」
少女を様付けで呼んだジルは、嬉しそうに笑いながらミカエルの肩を抱き寄せ、立ち上がる。
歩み寄って来るニーデリアと呼ばれた少女にミカエルを見せるように、向き直った。
「良かったわねぇ!さ~あジルの愛しのミカエルちゃんに、やっと会え…る…、わ……、…?」
ニーデリアと呼ばれた少女もまた、嬉しそうに笑いながらミカエルの顔を覗き込み、瞬間で真顔になり、そして真っ青になって硬直した。
「ニーデリア様?」
怪訝に首を傾げる皇帝に反応することなく、少女は穴が開く程まっすぐに、ミカエルを見つめている。
「…初めまして。ソウェイサズ王国第一王子、ミカエル・ウル・ソウェイサズです…?」
視線がぶつかり、少女の瞳が紅であることを知った。
…見たことがある、色だった。
これまた素晴らしく整った、輝かんばかりの美貌の持ち主であり、世界で五本の指には入りそうで、驚いた。
う、うわー超絶美少女だぁーーーーー!!
だが残念ながら、ときめきはしなかった。
年齢は見た感じ、十代前半に見える。
身長は、ミカエルと同じくらいだった。
あと五年後に、会いたい所だ。
そんな美少女は、顔色が悪いまま立ち尽くしていた。
「…ジル、この方は?」
ミカエルが問うと、ジルも怪訝な表情を隠すことなく、ニーデリアからミカエルへと視線を移す。
「ニーデリア様。俺が十歳になるかどうかくらいの時、死にかけてる所を拾って、育てて下さったんだ。帝国を作ることが出来たのも、ニーデリア様のおかげだよ」
「十歳?」
目の前の少女と年齢が合わない気がして首を傾げると、ジルはミカエルの頭を撫でながら微笑んだ。
「ニーデリア様は魔族だから、外見は変わらないんだ」
「魔族…」
初めて見た。
「紅の瞳は、魔族しか持たない色だよ。美しいよね」
「え?…あ?うん…?」
え?
なんて?
魔族しか?
「ニーデリア様。ミカエルが美しいからって、見惚れ過ぎです!」
少女に対して全幅の信頼を寄せている様子の窺える声音で、笑いながら声をかけたジルだったが、少女の様子がただならぬことに気づいて、眉を顰めた。
「…どうか、なさいましたか?お顔の色が」
「…あっ、ううん!何でもない!やだぁもー!ミカエルちゃんが美しすぎて、びっくりしちゃったぁ!!」
我に返った様子で、慌てて手を振りながら笑みを向ける少女に、安堵したジルもまた、笑った。
「そうでしょう!ミカエルは、世界一美しいと思います!ニーデリア様も、同じくらいお美しいですけど!」
「うっふふ、ジルったらお世辞が上手!いいのよぉ!ミカエルちゃん、世界で一番か二番で美しいわ!アタシより綺麗よ!保証する!」
「俺もう、幸せです!」
「うんうん、良かったわねぇ。悲願だったものねぇ!…ミカエルちゃん、アタシのことは、ニーデリアって呼んでね!よろしく!」
ミカエルの両手を取って、にこりと微笑む少女は美しかった。
「よ、よろしくお願いします。ニーデリア様…?」
「様はやめて。ジルはもう癖になっちゃってるみたいだから止めないけど、アナタには呼び捨てで呼んでもらいたいわ?」
「え?…いえ、それはさすがに」
皇帝陛下が様付けで呼んでいる存在を、呼び捨てで呼べるわけがなかった。
首を振ったが、至近に寄った少女の視線の圧は、強かった。
「ううん、お願い。絶対。お願い。ホントに。お願い」
「…えぇ?…」
懇願にも聞こえる言葉は、必死さが滲んでいた。
なぜに?
「名前で呼ぶことが許されるってことは、君が認められたってことだよ!ニーデリア様のご希望だし、呼び捨てで呼んで差し上げて」
ジルはにこにこと笑っている。
二人に迫られ、ミカエルは抵抗を諦めた。
「で…では、ニーデリア、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
握られた両手をぶんぶんと上下に振られたが、少女の様子はおかしかった。
だがジルが気づいた様子はなく、少女の分の紅茶を用意させる為、ベルを鳴らそうとしていた。
が、少女が止めた。
「あ、ジル!久しぶりに、アナタの淹れた紅茶が飲みたいわ。ミカエルちゃんには、もう振る舞ってあげたの?」
いたずらっ子のように微笑んだ少女はとても愛らしかったが、ジルは気にすることなく「あっ」と声を上げ、ミカエルを見た。
「そういえばまだでした!ミカエル、ちょっと待ってて。紅茶持って来るね!」
「え、ジルが自分で…?」
「うん!結構上手いよ。任せて」
「あ、ありがとう…」
ニーデリアとミカエルを残し、ジルは上機嫌で応接室を出て行った。
後ろ姿をなんとなく見送っていたミカエルは、視線を戻して驚きに仰け反った。
ニーデリアが、足元に跪いていたからだった。
「えっ!?何!?どう、なさいましたか…!?」
「無礼をお許し下さい。そして、ミカエル様が自国へお戻りになるまでの間に働く無礼も、お許し頂ければ恐悦至極にございます」
「え?…いや、待って下さい。どういうことですか?」
「もっと早い段階で、確認すべき事柄でございました。まさか我が君の、…」
「わがきみ…とは…?」
「…申し訳ございません。ジルには、絶対に無礼を働かぬよう徹底させますゆえ、どうかお慈悲を。この国にご滞在の間、命に代えてもお護り致します。お戻りになられた後には、如何様にもご処分下さい」
「いや、待って下さい。どういうことですか?」
態度の変わりように、驚きを通り越して恐怖すら感じる。
なんで????
彼女の態度はまるで、臣下のそれだった。
我が君、って誰よ。
いやとりあえず。
頭を下げている少女の意志は、なぜかとても固いようだった。
ミカエルは戸惑いつつも、受け入れた。
「事情がおありのようですし、構いません。処分、も考えていませんし、私はここでお世話になる身です。護って頂けるのは、ありがたいことです。ジルは、十六になるまでは、と言ってくれているので、心配はしていません。信頼しています」
「…寛大な御心に、感謝申し上げます」
「……」
だから、何でですか!?
理由は話してくれそうになかった。
初対面で、あまり突っ込んで聞くことも躊躇われる。
四年間、ここでお世話になる予定であるのに、関係が拗れてしまうことは避けたい。
どうしようかと考えていると、少女はすっと無音で立ち上がり、向かいのソファへと腰掛けた。
ミカエルにも座るよう促すので従うと、扉が開いて、ワゴンにティーセットとスイーツを乗せて、ジルが戻って来た。
「え、ジルが自分で押して来たの?」
思わずミカエルが問うと、ジルは照れたように笑った。
後ろにはずらりと侍従と護衛騎士がいたが、彼らを扉の外に置いて、中へと入って来る。
「ミカエルとニーデリア様の為と思ったら、当然かなって」
「まぁジルったら、可愛いこと言うわねぇ」
「ありがとうございます、ニーデリア様!」
にこにこ。
にこにこ。
ジルとニーデリアの会話に入ることが出来ず、ただ行方を見守った。
ニーデリアと呼ばれる少女は魔族で、誰かに仕えていて。
ジルを拾って育てた親代わりで、帝国の為に力を貸していて。
なぜか、ミカエルに跪く。
でも表向きは、「皇帝の番を可愛がる親代わり」の立場を貫くようだった。
「ミカエル、どうぞ」
「ありがとう、ジル」
「ニーデリア様、どうぞ」
「さすがジルねぇ。手際がいいわ」
「やった!褒められたよミカエル!」
「うん、淹れるの上手いねジル」
「え、何俺幸せで死ぬの?」
「死なないから、早く座って飲みましょうねぇ」
「はい!」
ミカエルの隣に座って、幸せそうに笑うジルと。
向かいに座って、にこやかに笑う少女と。
内心混乱している、ミカエルがいた。
…そしてミカエルは、気づいたのだった。
この美少女、少女じゃなかった。
跪いて喋っていた時の声は、声変わりを終えた、男性の声だった。
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本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。