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3 それは誠意がなさすぎです!
しおりを挟む「だ、大丈夫だヒマワリ! その点に抜かりはない! 全員と切れている! この会場には誰もいない!」
ああ、なるほど納得です。
彼女らのいない時に、この人との既成事実を作ろうとしていたわけですか。
でも、こんな抜けた人の企みがうまくいくわけがないのです。
「イエロー伯爵家のトマト嬢なら、さっき見かけましたよ」
「あ。わたしも見た! オードブルもりもり食べてた!」
「ば、ばかな!? ちゃんと関係は切ったし、今日はここに来ないはずなのに!」
「先方はそう思っていないようですね……そもそも、どうやって関係を切ったのですか?」
「う、うるさい! お前には関係な――うぐぅ」
ヒマワリ嬢がカボチャ男の胸ぐらを、むんず、と掴みました。
「ダーリン! ほんとーに切ったの? わたしと婚約した後も、ずるずる続ける気じゃないの!?」
「て、手紙を出した! ちゃんと出した! 本当だ! うぐぅっ」
友人は、お相手の四人の顔ぶれを思い浮かべました。
「……おそらく4人のうち1人はそれで納得したと思いますけど」
「うぐうぐうぐぅ」
「ニンジン嬢ね。あの子、気が弱いし男爵家の娘だから、他の三人より立場も弱いし」
「でも、他の三人が手紙で納得するかは……難しいところですね」
「うん。思えない。っていうか手紙一枚でお別れなんて誠意がなさすぎ!」
友人と不貞相手は、うなずきあいました。
「は、離してくれヒマワリィィィィィィィィ」
「あ。ごめんねダーリン」
そのときすでに、ヒマワリ嬢の『ダーリン』にこめられて熱量は、少し下がっていたそうです。
「ごほごほっ」
そして、ようやく離してもらえて咳き込んでいる婚約者は、格好悪かったそうです。
わたくしには、なんの同情心も湧きませんでした。当たり前ですね。
「その四人は、そちらの事情ですから一端脇へ置いておくとして。
あんな公衆の面前で婚約破棄とか大見得切るつもりだったのですから。
わたくしが婚約者にふさわしくない証拠とか用意してあるのですよね?」
「あるぞ! お前がヒマワリを階段から突き飛ばしたという証拠がな!」
冤罪です。
婚約破棄でありがちな、でっちあげという奴ですね。
こういう時は、大体、証言者が用意されているものです。
となると、このドテカボチャと親しい誰かか、意のままになる誰かということになりますが。
「ええっ!? わたし、そんなことされたっけ?」
「事前に打ち合わせしてなかったのですか?」
「うん。なんかあなたの悪事の証拠がある! って聞いてただけだから。でも、やってないことはちょっと」
なんでしょう。困りました。
ヒマワリ嬢。基本的に素直で単純でいいひとみたいです。
リストアップされていなかったことから察するに、情報が更新される僅かの隙間時間にカボチャにくどかれ、パッと燃え上がったのでしょう。
察するに、少々軽はずみなのが欠点なのでしょうね。
「他にもいろいろあるぞ! 彼女が大切にしていた花壇をめちゃくちゃにしたとか」
「花壇をめちゃくちゃにしたのは、わたし! 乗馬で突っ込んじゃったんだ!」
「……それくらいすりあわせておいて欲しいんですけど」
「だよねー。ねぇダーリン。そのデタラメの証言するウソつきは誰?」
「う、うそじゃないぞ! 俺がハニーにウソをつくわけがないだろう! こいつのことでウソをつくだけだ!」
あっさりと偽証を認めてますし……。
「じゃあその証言をしてくれるのは誰なの?」
この人は、ずいぶんとグイグイいく人ですね。
問い詰めるのはわたくしの役目のハズなんですが。
「それは……」
「わたしにはウソつかないんだよね!?」
「……グレー男爵家のサトイモだ」
わたく……いえ、友人はホッとしました。止めて良かったと心底思いました。
なぜなら。
「彼は、トマト嬢のイトコですよ。しかも、凄く仲がいいそうで」
「あちゃー。そりゃ裏でつながってるね」
友人とヒマワリ嬢はうなずきあいました。
たぶん筋書きはこうです。
婚約者が婚約破棄を宣言。友人を断罪。
トマト嬢のイトコであるサトイモさん登場。ウソを証言しろと強要されたと告白。多分、証拠の捏造も告白。
婚約者の面目大失墜。しかもパーティをぶちこわされたやんごとなきお方大激怒。
婚約者本人とヒマワリ嬢、並びにそれぞれの実家に罰。
トマト嬢、高笑い。
「う、うそだ! 俺に絶対服従のサトイモが裏切るなんて! どんな命令でもいつも笑ってやるあいつが!」
パシリにしていたようです。
「ダーリンは伯爵家で、その彼は男爵家でしょ。言われたら逆らえないって。もしかして尊敬されてるとか勘違いしてたの?」
「今の発言からして扱いもよくないようですし。下手をすれば憎まれているかもしれませんね」
「アッパーされてよかったねダーリン」
「な、なにがよかっただハニー! これじゃあ婚約破棄ができないじゃないか!」
友人は、婚約者のバカさ加減に、かなりうんざりしていたので。
「わたくしは婚約破棄には反対ですが、正式な手続きの上での婚約解消なら賛成です。それが一番穏健な解決ですから」
そもそも、わたくしの実家とカボチャ男の実家は、家格も資産もほぼ差がないのです。
こういう場合、交渉次第で、賠償すらともなわず婚約解消がなりたつ可能性が高いのです。
昔は婚約破棄というと悲劇がつきものでしたが、近頃はずいぶんと文明的になったのです。
「あなた! ダーリンを愛してるのね! だから婚約破棄したくないのね! だって今、反対だって!」
「いえ、婚約破棄でなくて、正式な手続きでの解消を提案してるのです」
ヒマワリ嬢は、ん? というふうに首を傾げると。
「もしかして……まさかとは思うけど、ダーリンのこと、全くなんとも全然これっぽっちも思ってないの?」
「はい。婚約相手というだけなので、感情的な愛着は全くありません」
そうすると彼女は、わたくしの目をじっと覗き込んできて。
「でも、ちょっとは悔しいでしょう?」
「いえ、全く」
「ほんとうに? ほんとにほんと?」
「ええ、本当です」
ヒマワリ嬢は、くるっと婚約者の方を向いて
「ダーリン! 聞いているのと全くちがうじゃない! この人がすごーく自分に執着してるって!」
「こ、こいつは嘘を言っているんだ! このブスより、真実の愛の相手である俺のどちらを信じるんだ!?」
彼女は気持ちいいくらいさっぱりした口調で
「信じるも信じないも、この人、うそ言ってないくらい判る! 女同士だしねー」
「ですよね」
わたくし――おほん、友人は困ってしまいます。
どうしましょう。
婚約者の浮気相手で、わたくしを追い出そうとした女なのに、どんどん好感度が増していくんですけど!
少々軽はずみなのがたまにきずですが、さっぱりとしてて、裏表がない人なんて貴族には滅多にいませんから。
「なるほど納得だよ! サトイモくんとのことと同じで、ダーリンの思い込みだったんだ!」
「そういうことです。判っていただけましたか?」
「うん。そういうことなら、わたしも穏便に解決したい!
考えてみれば、あなたと波風立てる必要ないわけだし! めんどーきらいだもん」
「わかってもらえてうれしいですわ」
妙な話ですが、彼のお相手がヒマワリ嬢でよかったです。
穏当なところに落ち着きそうですもの。
まぁこのカボチャが彼女とくっついてる限り、友達にはなれませんが……。
と、友人が思ったのもつかぬま。
「お待ちなさい! それじゃだめですわよ! アナタがたはちゃんと婚約破棄宣言をしなくてはいけないのですわ! おーっほっほっほっほ」
目がチカチカするくらい真っ赤なドレスのこの女は――
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