【完結】婚約破棄はアッパーで防ぎます!

隅野せかい

文字の大きさ
3 / 4

3 それは誠意がなさすぎです!

しおりを挟む

「だ、大丈夫だヒマワリ! その点に抜かりはない! 全員と切れている! この会場には誰もいない!」 


 ああ、なるほど納得です。

 彼女らのいない時に、この人との既成事実を作ろうとしていたわけですか。
 でも、こんな抜けた人の企みがうまくいくわけがないのです。


「イエロー伯爵家のトマト嬢なら、さっき見かけましたよ」

「あ。わたしも見た! オードブルもりもり食べてた!」

「ば、ばかな!? ちゃんと関係は切ったし、今日はここに来ないはずなのに!」

「先方はそう思っていないようですね……そもそも、どうやって関係を切ったのですか?」

「う、うるさい! お前には関係な――うぐぅ」

 ヒマワリ嬢がカボチャ男の胸ぐらを、むんず、と掴みました。

「ダーリン! ほんとーに切ったの? わたしと婚約した後も、ずるずる続ける気じゃないの!?」

「て、手紙を出した! ちゃんと出した! 本当だ! うぐぅっ」

 友人は、お相手の四人の顔ぶれを思い浮かべました。

「……おそらく4人のうち1人はそれで納得したと思いますけど」

「うぐうぐうぐぅ」

「ニンジン嬢ね。あの子、気が弱いし男爵家の娘だから、他の三人より立場も弱いし」

「でも、他の三人が手紙で納得するかは……難しいところですね」

「うん。思えない。っていうか手紙一枚でお別れなんて誠意がなさすぎ!」

 友人と不貞相手は、うなずきあいました。

「は、離してくれヒマワリィィィィィィィィ」 

「あ。ごめんねダーリン」

 そのときすでに、ヒマワリ嬢の『ダーリン』にこめられて熱量は、少し下がっていたそうです。

「ごほごほっ」

 そして、ようやく離してもらえて咳き込んでいる婚約者は、格好悪かったそうです。

 わたくしには、なんの同情心も湧きませんでした。当たり前ですね。


「その四人は、そちらの事情ですから一端脇へ置いておくとして。
 あんな公衆の面前で婚約破棄とか大見得切るつもりだったのですから。
 わたくしが婚約者にふさわしくない証拠とか用意してあるのですよね?」

「あるぞ! お前がヒマワリを階段から突き飛ばしたという証拠がな!」


 冤罪です。

 婚約破棄でありがちな、でっちあげという奴ですね。

 こういう時は、大体、証言者が用意されているものです。
 となると、このドテカボチャと親しい誰かか、意のままになる誰かということになりますが。


「ええっ!? わたし、そんなことされたっけ?」

「事前に打ち合わせしてなかったのですか?」

「うん。なんかあなたの悪事の証拠がある! って聞いてただけだから。でも、やってないことはちょっと」


 なんでしょう。困りました。
 ヒマワリ嬢。基本的に素直で単純でいいひとみたいです。

 リストアップされていなかったことから察するに、情報が更新される僅かの隙間時間にカボチャにくどかれ、パッと燃え上がったのでしょう。

 察するに、少々軽はずみなのが欠点なのでしょうね。


「他にもいろいろあるぞ! 彼女が大切にしていた花壇をめちゃくちゃにしたとか」 

「花壇をめちゃくちゃにしたのは、わたし! 乗馬で突っ込んじゃったんだ!」

「……それくらいすりあわせておいて欲しいんですけど」

「だよねー。ねぇダーリン。そのデタラメの証言するウソつきは誰?」

「う、うそじゃないぞ! 俺がハニーにウソをつくわけがないだろう! こいつのことでウソをつくだけだ!」

 あっさりと偽証を認めてますし……。

「じゃあその証言をしてくれるのは誰なの?」

 この人は、ずいぶんとグイグイいく人ですね。
 問い詰めるのはわたくしの役目のハズなんですが。 

「それは……」

「わたしにはウソつかないんだよね!?」

「……グレー男爵家のサトイモだ」


 わたく……いえ、友人はホッとしました。止めて良かったと心底思いました。

 なぜなら。


「彼は、トマト嬢のイトコですよ。しかも、凄く仲がいいそうで」

「あちゃー。そりゃ裏でつながってるね」

 友人とヒマワリ嬢はうなずきあいました。


 たぶん筋書きはこうです。

 婚約者が婚約破棄を宣言。友人を断罪。
 トマト嬢のイトコであるサトイモさん登場。ウソを証言しろと強要されたと告白。多分、証拠の捏造も告白。
 婚約者の面目大失墜。しかもパーティをぶちこわされたやんごとなきお方大激怒。
 婚約者本人とヒマワリ嬢、並びにそれぞれの実家に罰。
 トマト嬢、高笑い。


「う、うそだ! 俺に絶対服従のサトイモが裏切るなんて! どんな命令でもいつも笑ってやるあいつが!」

 パシリにしていたようです。

「ダーリンは伯爵家で、その彼は男爵家でしょ。言われたら逆らえないって。もしかして尊敬されてるとか勘違いしてたの?」

「今の発言からして扱いもよくないようですし。下手をすれば憎まれているかもしれませんね」

「アッパーされてよかったねダーリン」

「な、なにがよかっただハニー! これじゃあ婚約破棄ができないじゃないか!」

 友人は、婚約者のバカさ加減に、かなりうんざりしていたので。

「わたくしは婚約破棄には反対ですが、正式な手続きの上での婚約解消なら賛成です。それが一番穏健な解決ですから」


 そもそも、わたくしの実家とカボチャ男の実家は、家格も資産もほぼ差がないのです。
 こういう場合、交渉次第で、賠償すらともなわず婚約解消がなりたつ可能性が高いのです。
 昔は婚約破棄というと悲劇がつきものでしたが、近頃はずいぶんと文明的になったのです。


「あなた! ダーリンを愛してるのね! だから婚約破棄したくないのね! だって今、反対だって!」

「いえ、婚約破棄でなくて、正式な手続きでの解消を提案してるのです」

 ヒマワリ嬢は、ん? というふうに首を傾げると。

「もしかして……まさかとは思うけど、ダーリンのこと、全くなんとも全然これっぽっちも思ってないの?」

「はい。婚約相手というだけなので、感情的な愛着は全くありません」

 そうすると彼女は、わたくしの目をじっと覗き込んできて。

「でも、ちょっとは悔しいでしょう?」

「いえ、全く」

「ほんとうに? ほんとにほんと?」

「ええ、本当です」

 ヒマワリ嬢は、くるっと婚約者の方を向いて

「ダーリン! 聞いているのと全くちがうじゃない! この人がすごーく自分に執着してるって!」

「こ、こいつは嘘を言っているんだ! このブスより、真実の愛の相手である俺のどちらを信じるんだ!?」

 彼女は気持ちいいくらいさっぱりした口調で

「信じるも信じないも、この人、うそ言ってないくらい判る! 女同士だしねー」

「ですよね」


 わたくし――おほん、友人は困ってしまいます。

 どうしましょう。
 婚約者の浮気相手で、わたくしを追い出そうとした女なのに、どんどん好感度が増していくんですけど!

 少々軽はずみなのがたまにきずですが、さっぱりとしてて、裏表がない人なんて貴族には滅多にいませんから。


「なるほど納得だよ! サトイモくんとのことと同じで、ダーリンの思い込みだったんだ!」

「そういうことです。判っていただけましたか?」

「うん。そういうことなら、わたしも穏便に解決したい!
 考えてみれば、あなたと波風立てる必要ないわけだし! めんどーきらいだもん」

「わかってもらえてうれしいですわ」


 妙な話ですが、彼のお相手がヒマワリ嬢でよかったです。
 穏当なところに落ち着きそうですもの。
 まぁこのカボチャが彼女とくっついてる限り、友達にはなれませんが……。


 と、友人が思ったのもつかぬま。

「お待ちなさい! それじゃだめですわよ! アナタがたはちゃんと婚約破棄宣言をしなくてはいけないのですわ! おーっほっほっほっほ」

 目がチカチカするくらい真っ赤なドレスのこの女は――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...