【本編完結】モブ顔で凡庸なオレが白い結婚で離婚までして悪役認定までされたのに、英雄になってしまった話

隅野せかい

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 40.多分、これが敵の奇術のタネ

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「ですが、その辺の人間に金をばらまいて集めたら、秘密は守ってもらえません。となれば、秘密を守る相手を集めるしかない。契約書で縛れる相手を。となると集める人間の職業は限定されます。しかもお仕事は戦争です。となれば……傭兵団。それも大規模でなく小規模な傭兵団しかありません」

 思いついたけど、とても現実的とは思えなかった。

 100近い傭兵団を集めるなんて。統制をとるのも困難。

 作戦計画一号を完成させるための、無理やりなこじつけだと、自分でさえ思っていた。

「一個の団の人員はせいぜい30人多くても100人程度。しかも、ダラーや帝国が雇用しているような有名な傭兵団は目立ってしまうでしょう。つまり4700は、無名の傭兵団の集合にすぎません。烏合の衆です」


 これしか思いつかなかったのだ。

 それは、攻めてきた相手も同じだったらしい。


 オレは考えただけだが、彼らは実行した。


 膨大な事務作業、物資や旅券の手配、考えただけで目が回りそうだ。

 そして、彼らはその困難を乗り越えたのだ。尊敬に値する。

 いい仕事だ。

 オレに関係なければもっといい仕事だったのに!


「それにです。彼らは攻城兵器ももっていないようです。みなさんもご存じのように、攻城兵器――破城鎚、投石器は、みな重くて運ぶのが困難です。彼らの進撃は異様に速い。つまりそれらを運んではいない、ということです。偵察からの報告によれば、荷車もないようです。つまり兵糧も個人が運べる量しかもっていないのです」

 これは予想外だった。

 いくらなんでも、攻城兵器を少数は用意していると思ったんだけどな。

 地下に放り込んである伯爵殿がうまくやると思っていたのか。

 オレが戦わずに開城すると思っていたのか。

 7000と300なんだから、そう考えても不思議ではない、か。

「ですが、彼らは我が国から略奪もできません。帝国の第二皇子率いる使節団が中核であるとすれば、彼らの目的は、少数の兵しかいないこの関所を速やかに突破して王都を落とし、元王太子殿下の婚約者を女王にするか、それと結婚をしたことをもって第二皇子を我が国の王とするかでしょう。どちらの場合でも、略奪をすれば王位を奪ったあとの反発は増します。とすれば手持ちで賄えるのはせいぜい5日」

 ベローナ侯爵が全面的な協力に転じたとしても、膨大な兵糧を運ぶことじたいに時間と人手がかかる。

 5000の兵を食わせるのは、大変だ。

 その間に王都は、兵を集め、態勢を整えることができる。

 帝国軍の侵攻を知れば、迫る猛火の前で権力闘争ごっこにうつつを抜かしているわけにはいかなくなる。

 抵抗していた元王太子派から人は離れ、現時点で優勢な王弟派が勝利を収めるだろう。

「すぐに併合しないだろう、と予想するのは、いきなりは反発が大きいですし、大義名分がないからです。帝国が接している国は、わが国とミリオンだけではありませんからね」

 オレが話しているのは、全て、作戦計画第一号に書いてあることだ。

 幾つか立てた想定の中で、もっともマシなのと、ほぼ一致している。

「これで、みなさんも敵の正体についてはわかってくれたことと思います。つまり敵は小さな傭兵団をかきあつめた烏合の集。統一した訓練なんかしたこともない。食料も乏しく、攻城兵器もない。少し痛い目にあわせてやれば、金で雇われた連中は、たちまちやる気をなくすでしょう。恐れる必要があるのは、第二皇子直属の300くらいなものでしょう」


 だといいな……。


 世の中には天才ってのがいて、オレごときでは思いつけないことを平気で思いつくから。

 もしかしたら全て間違っていて。

 敵は携帯可能な攻城兵器をもっているかもしれない。

 傭兵ではなく、訓練の行き届いた正規軍を出現させたのかもしれない。

 だけど、敵の襲来まであとわずか。そういう手段があったとしてもオレが思いつける時間はない。

「さて、それに対して我がガルトリンク関は、どうか? 定数通り矢は20万本。石弾は3000準備しており、ひとりあたり600発射してもなお余るだけの矢を用意してあります。さらに、油の貯蔵も十分。食料も半年の籠城に耐えられます。しかも、わが国が陥落したわけではないので、後背からの補給も望めます。水も、給水管の補修をしたため万全です。弓、剣、槍、盾の予備も十分ですし、鍛冶屋の方もいるので、ある程度修理も可能です。包帯や薬も定数を満たしています」

 500いるはずの施設だものな。

 そこに300しかいない。

 しかも定数は、5000だった時代そのままが結構ある。

 その方が横領でおいしかったんだろうな……。


 バルガスが吠えた。

「若親分の話をきゅっと縮めて、バカな手前ぇらにも判るように言うとだ! 敵は烏合の衆! 命をかけるほどの気概もねぇ金で動くクソどもだ! こっちは撃って撃って撃ちまくって、相手を油でボンボン燃やし放題だぜ! その上、ちょっとした暇があれば、風呂にも入れるし、食い物もたらふく食えるってぇことだ! それに若親分ならたんまり特別手当だって払って貰えるぜ!」

 うん。いい感じだ。

 最初から彼らは怯えていなかったが、ちょっと緊張感はあった。

 今では「おお、なんとかなりそうだ」という感じになっている。

 出来れば、もうちょっと士気をあげたかったけど……。

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