QM ~量子生成~

なかむら 由羽

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戦禍足利

織姫の戦い②

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 駐車場まで1km近くある。
 歩いて行くと、中型モドキがいた。まるで自動車を路上駐車しているかのように座り込んで。
 臨次は慌てて左右のブレードを展開すると同時だった。中型モドキ…ステゴサウルス型が立ち上がって一気に突進をかけてきた。
 普通自動車サイズに対して正面からぶつかるなんてありえない。その場を飛びのいて攻撃を避け、ついでに右腕を大きく振る。軽い手応えがあった。ちらりと見ると、表面を少し裂いていた。ダメージらしいダメージには見えない。
 ステゴモドキは立ち止まり、臨次を横に見た途端、尻尾を思い切り振り回してきた。
 臨次はまだ着地して体制も崩れたまま、とてもかわし切れるものじゃない。覚悟を決めて、左腕のブレードを盾にして受ける。そのまま強い力で弾き飛ばされ、民家の壁へと叩きつけられる。
 あまりの衝撃にコンクリートの壁が砕け、臨次は地面に転がる。呼吸がしにくい。しかし回復するまでそのままというわけにはいかない。軋んだ身体に鞭打って横へ転がると、今まで臨次がいた場所へステゴモドキが足を振り下ろしてきた。
 間一髪。
 一つ大きく呼吸をして立ち上がり左腕のブレードをちらりと見る。折れたり曲がったりしているようには見えない。
 ステゴサウルス型はショッピングセンターを出た後にすぐ遭遇したモドキだが、そのときは気付かれる前に取り付くことが出来たのでこちらのペースで倒すことが出来たが、正面から戦うとなると、中型はかなり厄介な相手になる。攻撃一つを受け損ねたら、そのままやられかねない。
 今臨次が受けた攻撃も、受けたのは仕方がないにしても、そのあとの対応を間違えるか遅れていたら、そのままやられていた。
 追撃してくるモドキの噛みつき避け、その頭へ右腕のブレードで斬り付けるが、浅く切り込むだけで斬り落とせない。想像指定よりも硬い。やはり、硬い表皮の隙間か関節などの柔らかい部分を狙わなければ。
 頭部でブレードを受け止めたモドキは頭を一振りして喰い込んだブレードを外すと、前足を大きく振り上げて押しつぶそうとしてきた。
 ギリギリでかわしきった臨次はそのまま前足に取り付いた。
 くっつかれたことを認識したモドキはそのまま身体を大きく揺すり始め、壁に身体を叩きつける。
 そのパワーで壁は砕けて臨次の身体もみしみしと軋む。大型と戦ったときにもやられたことだが、あれに比べたら中型のほういがパワーで劣る。覚悟していたほどのダメージはなかった。
 歯を食いしばって一歩上に進むと、ステゴモドキの背中の板状のものに捕まり、そのまま右腕のブレードを首元へと叩き込んだ。
 悲鳴を上げるかのように首を振り回し、尻尾を振り回してなんとか背中の臨次を排除しようとするが、そこまで届かない。
 臨次もこのまま転げまわられるものかと、右腕ブレードを一度引き抜いて、同じ場所目掛けて右腕を思い切り振りぬいた。関節部分を狙ったが、それでもかなりの硬さだった。
 ブレードは首を切り裂いて、モドキの首が音もなく地面に落ち、消えた。本体も横倒しに倒れ、消える。後にはキューブが残ったがそれは臨次が回収した。
 中型にここまで手こずったのは、初めて遭遇したとき以来か。それ以降は、目に付かないように接近してからの不意打ちで、正面切って戦わないようにしていた。
 じっとりと汗をかき、嫌な気分になってくる。
 しかし、このままここでじっとしていても何も始まらない。全身を軽く動かして異常がないのを確認すると、すぐに歩き出した。
 そしてカーブを曲がってその先を見たところで、絶句した。
 道の先には、見える範囲で5体以上の中型モドキが地面に伏せて待機していたのだ。
 この道は一本道。避けて通ることは出来ないし、仮にやり過ごして織姫神社にたどり着いたとしても、背後からこのモドキどもが追ってくると考えれば、倒して進む以外の選択肢はない。
 臨次が今までに経験したことのない、中型モドキとの正面対決の連戦。
 なるべく消耗することなく本殿までたどり着きたいと思っていたが、甘かったと自覚した。
 左右のブレードを構えて走り出すと、一番手前の中型モドキ…トリケラトプス型がこちらに気付いて身体を向けて立ち上がる。
 トリケラトプス型は正面からの攻撃に非常に強く、右腕のブレードですら小さな傷を付けるだけで弾かれてしまう。どうにかして回り込んで取り付かないといけないが、そうすると周囲の他のモドキのいい的になってしまう。そうならないためには…
 単純明快。右腕ブレードによる、一撃必殺である。それを実行するためには、モドキの間合いの内側に入り込む。そして首を斬り落とす。
 一番の問題は、それを目の前にいる中型モドキのすべてに対して行うということ。
 臨次のQ.Mは超攻撃特化のようなもので、防御力はかなり低い。その低い防御力を補うのが左腕のブレードなのだが、盾ではなく剣なのが一番の問題で、盾のように構えて面で受けるといったようなことはまず出来ない。弾くか点で受けることしか出来ないのだ。これでは短期決戦ならまだしも長期戦なんて無理だ。そして言わずもがな、対多数は圧倒的に不利。
 だが、そんなことは言ってられない。スマホに表示されている残ポイントを確認する。
 そして剣を構え、先頭の中型モドキ、トリケラトプスモドキへと駆けた。

 かなり長い時間戦っていたように思える。
 だが、実際の戦闘時間は十分程度だった。
 それほどまで時間が圧縮されたような感覚、濃密すぎる時間だったのだ。
 臨次は四つん這いになり、荒く呼吸をしていた。
 身に着けているQ.Mの表面は傷がないところのほうが少なく、あちこちべっこりと凹んでいる。
 臨次もところどころ記憶が欠けている。
 トリケラトプスモドキの盾をなかなか突破出来ず、ステゴサウルスモドキからの攻撃をさばききれず、何度も地面に転がされてその度に必死で体制を立て直し、左のブレードで攻撃を受けて逸らし、右のブレードを相手の表皮だか装甲の隙間を目掛けて振るう。振るった隙間に攻撃をねじ込まれて弾き飛ばされる。
 そんなことをどれだけ繰り返したのか。
 最後の一匹を倒した直後は、全身の激痛と疲労でまともに動けずにアスファルトに寝転がっていたほどだ。
 隣に転がるキューブを吸収して、震える腕でスマホに表示されているポイントを確認する。
 中型モドキの群れを相手にする前よりもやや増えていたが、倒した数を考えたらもっと増えていてもおかしくない。つまり、それほどやられていた、ということ。
 郡山で「ああ」なっていなかったら、ここを生き残ることは出来なかったかもしれない。
 再度スマホのポイントを確認すると、すごい勢いでポイントが減っていた。もともと持っていたポイントの半分程度まで減ったところで減少は止まった。

「思っていたよりもずっと少なくなっちまった…」

 身体の痛みが落ち着いて力が戻ってきたのでゆっくりと立ち上がり、あちこちを動かして問題がないことを確認する。問題はなさそうだ。
 一度振り返る。
 もう、中型モドキの身体は全て量子になって散り散りになっている。
 見上げると、木々に隠れて空はあまり見えないが、キラキラと光る緑色の量子が見えた。
 一度息を吐いて、正面を見る。
 少し先には、織姫神社の駐車場が見えていた。
 本殿まで、あと少しだ。
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